第15話

「どうもー鮪ですー」

「ねー、つかみのギャグが出ましたけれどもね」

「あ、自己紹介しかしてないんですけれどもね」

「私とこっちの私って同一人物同士なんですよ」

「ねー、驚きですよね。私が自分探しの旅してて見つけたんですよ。あんまりいないですよね、自分探しの旅で自分と同一人物見つけてくる人」

「うわー、同じ意見だ!」

「同一人物同士なんだから当たり前だろって話なんですけどね。私が海を竹馬で渡ってたら、ヒッチハイクしてたんですよ」

「こっちから言わせれば、私が自分探しでヒッチハイクしてたところに、そっちが竹馬でやって来たんだけどね」

「それを言ったとて、情報が何もプラスされないんでね。何でわざわざ言ったんだって話なんですけれども」


 時間帯が悪かったのか今いる場所が僻地であったのが災いしたのか、鮪と鮪の野相撲はだんだんと稼げなくなっていった。

 何か金策をと考えを巡らせていると、進行方向先の都市部で開かれる演芸大会のポスターを発見。出場に至ったという次第である。


 演目を考えた際、舞台上で相撲をとって終わりというわけにもいかないので、どうしたものかと考えた結果、鮪と鮪が同一人物同士であることを活かした一人漫才という斬新なスタイルを思い付いたのだった。

 果たして結果は?!


「この単一電池どうしよっか?」

 鮪と鮪は演芸大会会場であったスーパーの駐車場に座り込み、参加賞の賞品をタイヤ止めに転がしてぶつけては、跳ね返ってきた時にキャッチする遊びをしていた。


 大会後、運営から渡されたアンケート内容は散々なものであった。

『双子でやってるんかなんか知らんけど二人が同一人物であるという世界観に引き込みたいなら、序盤でもっと工夫が欲しい』

『設定が独特すぎて、漫才が薄い。設定の説明のために漫才をしてしまっているせいで、笑いどころが少ない』

『コント向きの設定。確かに二人ともそっくりではあるが、キャラクター漫才としては格好自体は普通なので、インパクトに欠ける』

『二つ前と双子キャラが被っていて出場順に泣かされた感はあるが、それを抜きにしたとしてもネタ自体はイマイチな印象』

『システムがオードリーだとわかった瞬間冷めた』


「お笑いオタク共が。その紙、今夜焚き火に使おうね」

「謎の羅列を発見した」

 鮪の横でアンケートをめくっていた鮪が、そのうちの一枚を差し出して、そんなことを言い出した。

「電話番号じゃん」

「電話番号?」

「私持ってないからなー。周りが持ってるから持ちたくないっていうか」

「なんて書いてあるの?」

「ソレ自体に意味はなくって、電話っていう離れてても会話ができる道具があって、会話したい電話を指名できるように電話に番号が割り当てられてるの。それがその数字」

「そこまでわかれば大丈夫。写しておいた鮪の記憶の中から該当する部分を参照してみるから」

「え?」

 そう言うと鮪は、おもむろに上空を見つめて呟いた。

「本当だ。飛んでる」

「なにが?」

 次の瞬間、空を虚ろな表情で見つめ続ける鮪の口から、およそ人の口からは出ないであろう音が発せられた。

「うそ、電話の呼び出し音じゃん」

『はいもしもし、峰遠です』

「スゴ!音のこもり具合とか、まんま電話じゃん!こんな特技あるならいってよー。大会で使えたじゃん」

『は?なに、大会?あっ、ルル?それともリリ?あんた達ちゃんと帰って来なさいよ!お姉ちゃんボケーっとしてるから。船の時間大丈夫なの?もしもーし!』

「え、もしかして本当にかかってる?」

『本当に?もしもーし、繋がってますよー!』

 目の前の鮪に言いたいことはあったが、鮪はとりあえず目の前にいない方へ説明をした。

『はあ、アンケート?アンケート用紙にウチの電話の番号。なんのアンケートですかね?』

「演芸大会ですね。私出場してて、お客さんは感想をアンケート用紙に書いて、で、その用紙にこの電話の番号が書いてあったんで、何か用かと思ってお電話差し上げた感じなんですけど」

鮪先の人物。おそらく年上の女性は、一拍置いて喋り出した。

『あーわかってきた。その大会に双子って出てませんでした?』

「出てました出てました!歌唄ってましたよ、準優勝!」

『今どこに居るかわかります?』

「さあ?私達は入賞しなかったんで、授賞式すっぽかしたんですよねー。双子の子達は出てるはずですけど、準優勝なんで。その後どこ行ったかまでは」

「二人なら、スーパーの端にある部屋に軟禁されている『軟禁されている!?』」

 突如、鮪が一人二役で喋り出した。鮪はそれをとても奇妙に感じだが、その奇妙さが吹き飛ぶくらい、その後奇妙なことが起きた。

「え?本土のスーパー、どうやって!?」

 目の前の鮪はいつもの自分であったが、身振りがおかしかった。いや、おかしくなかったのだ。

「どうしたの急に?電話はどうなったの?」

「その声、電話で話してた方ですか?」

 声質こそ電話越しの声質のままであったが、目の前の鮪は鮪の目にはまるで電話の向こうの人物に、鮪が動きを合わせているように見えた。

 しかし、それは違うとすぐに鮪は理解した。

「うちの子達はどこですか?リリとルルは!?」

 自分にすがる剣幕を、とても声に合わせた演技とは思えなかったのだ。どうやら目の前の人物は、形が違えど声の主であるらしいと鮪は理解した。


「たぶん、スーパーの事務所じゃないですかね?」

 鮪のその発言を受けて、鮪の形をした声の主はスーパーに猛スピードで乗り込んでいった。

 正直まったく後をついていきたくないが、自分が行っているのでそういうわけにもいかず、鮪は渋々店内に入り、取り敢えずサービスカウンターを訪ねた。

「あのー、私今飛び込んできた私と今外見だけ同一人物の者なんですけど、ここに演芸大会の準優勝の双子の子達って保護されてませんか?」

 サービスカウンターの担当者は、目の前の人物が前半何を言っているのか理解できなかったが、後半は理解できたので気にせず応対した。

「ええ、少々お待ちください。上の者に確認致しますので」

 そう言って内線を手に取る担当者に、鮪は続けた。

「二人の保護者の連絡先知ってますって、伝えてください」

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