第6話 奇縁
――固有種、というものが存在する。
固有種は主に島国や外部から隔絶されたような地に存在するが、そのような種族のふれんずこの世界においてもしているという。
しかしながら、それ以上に希少――否、唯一性を有する種が存在していた。
即ち、絶対種ないしは唯一種との名称を受けるふれんずを指す。
個体数の少なさが危惧される種族だとか、特定の地方でしか見られないなどというレベルではなく。
文字通り、それ以外の個体が人類おけるふれんずの歴史上で確認されていない存在を示すのだ。
無論、唯極々珍しいが故に他に群れで暮らしている姿を見た頃が無く――そうした勘違いから定義された例も無くは無いらしいが。
――本物の、と。
文字通り、唯一無二なる存在の種は、紛れも無く生物として別格のオーラを纏うと聴かされた。
そも、唯一の種であるが故に目撃、遭遇の例自体が極めて少ないことに加えて。
相手によっては、
正しく神の如く強靭無比で、寿命の概念が存在するのかすらの研究をも進まぬ相手となれば、それ以上のデータなどそう易々と得られて来なかった。現代に至るまで。
されど――それは、この世界で生まれた生粋の視点からの話である。
あくまで此処は現実なれども、ゲーム世界としての知識を有する廻照からすれば、凡その原理にも見当がつくものだ。
とは言え、創作の中においても超常すらも生温い程に。
災害を操り、時空を駆けるような様を容易く引き起こすような生命体になど、到底関わり合いになりたいとは思わない。
現生する獣系統のふれんずであっても、言葉が碌に通じないタイプともなれば、当たり前のように相対するだけで命の危険に晒されるような世界なのだ。
幾ら協力であろうとも、誰がそんな制御不能な輩と関わり合いになりたいと思うのだろうか。
そも、ゲーム内の対人戦においても、特定の種は使用禁止などの措置すら採られていた程だ。
したがって、現実となったこの世界においては、余計にその厄介さにすら拍車も掛かるに違いない。
仮に奇跡に次ぐ奇跡によって仲間と出来たところで、それはそれで面倒ごとが山のように降り掛かって来ることは、どんな莫迦であっても想像に難くないだろう。
企業、研究機関、反社会組織など。枚挙に
ただ、強力なふれんずを選手として抱えるだけならば、トッププロであれば珍しくも無いのだ。
故に、競技者としての階段を駆け上がりたいのであれば、順当に自身のプレイヤーとしての力量を磨きながら。
より強靭に仲間としたふれんずたちを鍛え上げるのが、最たる道に違いなかった。
――とは言え。
そんな風に杞憂をする以前に、遭遇すらしない相手のことを考えても仕方がない。
そもそも、出逢ったところで――生物としての枠組みすら超越したような相手が、易々と付き従ってくれることなどまず有り得ないだろう。
捕らぬ狸のなんとやらでは、ないけれど。
廻照にとっても考えるべきことは、もしもそのような危機的状況へ直面した時に如何に命を繋ぐかのみであろう。
下手に色気を出せば、一番大切なものすら失いかねないのだから。
何より――己には、そのような超大物を従えるだけの器など無い、と。
それくらいの真っ当な自覚は、廻照にだって存在しているのであった。
勿論、何時だって一寸先は闇。人生何が起こるか分からない。
故に、常日頃から用心だけは心掛けておこう。なんて。
「――兎も角、あと一人加えれば、ひよっこ用の大会くらいなら出られるな」
「だとしても、情熱、能力、才覚……その内の一つも感じられ無い様な愚図を迎えるなんて、この
「まぁ、言葉は
新メンバーを探して校内をうろつく廻照は、隣を歩くエレスィの言葉に賛同の意を示した。
能力は鍛えれば良いし、才覚は花開くまで誰にも解らないのだから、長い目で見れば良いだろう。
されど、情熱……やる気だけはなければ、到底お話になりはしない。
廻照個人としては精神論などは無用の長物、旧時代の悪しき遺産だという考え方に相違無いが――それでも、物事に取り組む際には最低限の情熱が無ければ、きっと何をやっても上手くいかないということだけは理解していた。
気が弱く自信が無ければ育めば良いし、ビジョンが曖昧ならば輝かしい未来を目標と設定すれば良い。
だけど結局は、実行する本人や本当にやりたいかどうかだけがミソなのだから。
脆弱であろうと、貧弱であろうと、矮小であろうとも。
上を目指して頑張ってみたい、と思ってくれる相手で無ければ、エレスィやリカはおろか廻照とも足並みをそろえることなど到底不可能に違いない。
故に、こうして探すのだ。
元より才と資質に満ち溢れる者ならば尚良いが、兎にも角にも、やり場のない気力を抱えながらも
入学式にて、パートナーを得られなかった者。
相性が悪い、方針の違いなどにより別離を経た者。
唯、その時の運命で無かった者など。
「……あらぁ」
「うん……アリだな」
隣を歩く少女から、新たな可能性を見つけたような愉快そうな声。
ちらりと横を向けば、端正な
そして奇しくも廻照も彼女と同じ感触を受けたらしく、決定打にも似た台詞が自然と零れていた。
廊下を進み、広間へと至ったその先で。
合縁奇縁。
エレスィとの出逢いのように。
運命とは、重力のように惹き寄せられる。
エレスィのように華奢な少女でありながら、その出で立ちは眩いばかりに覇気に満ちた彼女とは打って変わり。
されど廻照は、其処に確かに己との縁を感じ取ったのだ。
相応しき者に、相応しい命運を――。
「あ、あの……わた、私をチームに……」
「あー、もう人数は間に合ってるんだ。悪いな」
規定は満たしたと、断られ。
「……えっと、まだメンバーに空きがあれば……」
「は? チームは強そうな奴で固めるに決まってんだろ」
上っ面だけで暗に能が無さそうだと、袖にされ。
「い、一生懸命頑張りますので……」
「ダメダメ! お前みたいなヤツからは、光るものが全然見えないんだわ」
偉そうな態度で見てもいない才の欠如を、烙印され。
「どんな鍛錬にも着いていきますからっ……!」
「口だけは何とでも言えるヤツっているよなァ。本気もやる気も感じねぇよ」
燻ぶる小さな焔に見向きもせず、心無い言の葉で踏みつけにされ。
「うぅ……」
今にも泣き出しそうになりながらも、必死で歯を食いしばって――闘志を露わに浮かべた大きな双眸には、涙の他にも確かに極大の熱量が宿っていた。
心は決して、折れてはいない。
あの眼は、必ず望みを掴んでやると語っているのだ。
それを見て、廻照の口端にも自然と笑みが浮かんでいた。
「こんなところであんな
「ふふん、初めにこの私に出逢えたのだから当然ね! というか……あの輝きに気付かないだなんて、周りは本当に節穴ばかりで助かるわぁ」
濡れ手に粟ね、なんて。
隣で零すエレスィの台詞に苦笑しながらも、廻照はゆっくりと視線の先の少女へ向けて歩みを進めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます