第4話 開幕
人間と契約を行ったふれんずは、契約符と呼ばれるカードの中にその身を宿すことが可能となる。
故に公式大会ではまず例外なく、戦場へ選手が登場するまで
「――出て来い、テラス・ポテスッ! 勝利をこの僕に!」
「――俺たちの覇道は、此処から始まる。共に征こう、エレスィ」
そうして互いのカードより閃光が迸り、フィールドへと現れたのは二体の異形。
片や。ごつごつとした褐色の岩を重厚な鎧のようにに身を纏った、隊長2メートルを超える寡黙な騎士姿。
「……………………」
片や。華奢で儚い出で立ちの少女を想起する、可憐で
「ふふん、騒音と口無し。主従揃って、極端だこと。カエデ――あれら如き、私たちの敵ではなくってよ」
命令が下されるまで物言わぬ巨躯に、初試合にも拘わらず気負いの欠片も感じられ無いエレスィ。
傍から見れば、無差別級どころではない程に両者の体格差は存在している。
が――この世界では。ふれんず同士の闘争においては。
体格差が強さの強弱とは、到底決まらぬものでもあった。
「■■■■■■■■■■!」
先の沈黙とは打って変わり。
大気を震わすような怒号を挙げながら、巨体の騎士は堕天使へ向かってその手にした分厚い刃を振り下ろす。
圧迫感すら纏った巨剣による『大切断』が、エレスィへと繰り出される。
対峙する少女の体躯の半分以上もあるような凶器は、一瞥しただけで華奢な肉体を残骸へと換えるが如き様相を醸し出すのだ。
無論、試合中に強打を受けたところでふれんずの命に関わる攻撃などプロの試合でも中々ないが、それでもその光景は見る者たちへをも凄まじい圧力を放つだろう。
相手によっては初めの狂声だけで委縮し、後ろで指示を飛ばすプレイヤーすらも怯えさせられるかもしれないほどに。
――しかしながら。
「あらぁ、
「あぁ、大きく隙が空いたな。そのまま手薄な場所から叩き込んでやれ」
以心伝心――には、まだ遠けれど。廻照と彼女の次なる指針は、当然のように合致していた。
其処に怯えも躊躇もなく。或るのは只、目前の敵を撃滅する意志のみである。
予定調和であったとばかりに大振りを外した巨体は、その大剣を引き戻すのに致命的な隙が生まれていたのだ。
――それが、引き金。
騎士の凋落へ繋がる、序章であった。
「足が止まれば、唯の的よ! これじゃ、サンドバッグを殴るトレーニングと変わりそうに無いわねっ!」
獲物を狩る捕食者のような
華奢な少女の身から繰り出される『ガストブロウ』であろうとも、その威力は宛ら、一発一発が小型の砲弾を叩き込まれたような衝撃であろうか。
ざっと十メートル以上は離れた後方で構える廻照からであっても、爆裂にも似た打撃音が届くのだから。
乱打に次ぐ乱打――敵が怯む間に、追撃の『タイフンラッシュ』が乱れ飛ぶ。
碌な防御も間に合わず、凄まじい衝撃と共に騎士の身体は捩れて曲がっていった。
嵐に削られた岩肌が、
「ええぃ! 何をしているテラスッ!? そんな小娘など、さっさと引き離し切り捨ててしまえッ!」
鎧騎士の後方からは、守執が想定外だと言わんばかりに焦った声色で怒号を飛ばしているが、彼らの状況は思わしくないだろう。
此処からでは解るほどに余裕をなくし、守執は顔を真っ赤にして捲し立てる。
だが、大声で喚くだけで状況が好転する訳も無し。
もし、デュエルがそんな単純な構造であるならば、廻照は数え切れないくらいの奇声をゲーム機やパソコンの前で飛ばしていたことだろう。
競技としてのふれんずのデュエルは、事前の準備とメタ解析、彼らの鍛錬と緻密な戦略――そして本番における冷静な判断こそが、何より大切なのである。
無論、ゲームを擦り切れる程楽しんでいた廻照であっても、現状では最後の一つを除いて準備出来ていないに等しいのだが。
兎も角。
それでも主人の命へを遂行すべく、どうにか沈まずに身を立て直し、岩肌の騎士は力任せに剣を薙いでいた。
「ふんっ! そんな苦し紛れじゃあ、碌な力も入らないわよ!」
が、腰も入らぬ一撃など、最早エレスィには通じない。
薄い笑みを浮かべながら言った通り、それではまるで彼女にとっての脅威にはならない。
破れかぶれに振るわれた剣など。その腹を手の甲で滑らせるように叩いたエレスィからすれば、新たな隙が生まれるだけの一手に違いないのだ。
故に――決定打を叩き込むならば、此処であるとの確信を得る。
廻照としても、このまま距離を取っての持久戦よりは、相手が冷静になって持ち直す前に勝負を決めるべきであるとの判断を下すのだ。
「此処で決めるぞ、エレスィ――フィナーレだ!」
「――ふふん、終幕の
ぐらり、と。
度重なる乱打に膝をつきそうな程によろめいてしまった騎士にとって、それは致命的な最期となった。
「演習だってところはイマイチだけれど、まぁ前座にしては殴り応えがあったと褒めて差し上げてよくってよ!」
まるで躍る様に、舞う如く。
一片たりとも優雅さを欠くことの無かった滑らかな動きにより繰り出される最後の一撃は、正しく空から星が墜落したにも等しい爆音を轟かせながら――胸部に直撃した岩騎士を、数メートルは吹き飛ばした後、そのまま青天井に
文字通りの『ミティオシュート』が完膚なきまでに決まったのだ。
「クソッ、テラス! なんてことだ……この僕が手も足も出ないだなんて……」
戦闘不能と共にその身を粒子へと換えたフレンズは、そのまま守執の持つカードの中へと吸い込まれるように戻って行った。
当の守執は、今し方目の前で起こった試合の結果が余程ショックであったのか。愕然とした表情で、悔し気にそんな言葉を吐き棄てる。
一方、難無く勝利を収めたエレスィ当然と言わんばかりに笑みを浮かべて、廻照の下へと歩み寄るのだ。
「さ、私の演武は如何だったかしら? 勿論、こんなこと聴くまでも無いと思うけれど」
「あぁ、紛れも無く――君がエトワールだ」
「よろしい。その瞳に曇りは無い様で安心したわ」
満足げに頷く彼女を見ると、こうして組めて本当に良かったとの実感を得られる。
「あー……ちょっとしたデモンストレーションのはずだったのに、初っ端からエラいごっついことになったなオイ」
そんな言葉の方へと視線を向けると、担任の
正直、まだ何も教えていない状態である初心者同士の取り組み故に。
しかしながら、待っていた結果と言えば――相手を見下していた為、油断もあったのであろうが。
明らかに迷いのない指示を出した守執に、それに呼応するように迷い無く剣を振り下ろした騎士は言わずもがな。
それを難無く躱し、捌き――対外的に見れば、初心者とは思えない程度には的確な指示を出していた廻照。
何より、その命令を寸分なく遂行するかのように致命打を叩き込み続けたエレスィもまた、榛斑の予想の範疇からは懸け離れたものであっただろう。
そんなこんなで。百二十点の結果を叩き出していた廻照がエレスィと共に榛斑へと視線を送ると、参ったと言わんばかりに両の手を挙げ笑い返してきた。
「戦略だとか指示だとか、属性ごとの相性だとか諸々これから教えていくつもりなんだが……お前さんたちはもう、駆け出しにしちゃ抜群の出来だったなァ。――ってな感じに、皆もこれくらいは出来るように自分と選手たちを磨き上げて行くんだぞ」
初授業前からの衝撃的な光景に静まり返っていた実習室であったが、担任からの激励によって、再び騒がしさを取り戻し始めたのであった。
――改めて、考えるまでも無く。
これならばきっと、この世界において――彼女と共に、頂点を目指すことも夢物語ではない。
廻照はそんな確信を得ていたのであった。
*
〖登録情報〗
〖name〗吾勾 廻照
〖class/sex〗
〖skill〗
【???】
〖ability〗
【
┗異端を惹き付け易い。
*
〖登録情報〗
〖name〗エレスィ・セスィコモ
〖class/sex〗
〖nature〗
〖status〗
【生命】C
【物理】A
【物防】C
【魔力】D−
【魔防】B+
【敏捷】A
〖skill〗
【ガストブロウ】
┗物理/単体/接触/|閃風/
【タイフンラッシュ】
┗物理/単体/接触/閃風/I±0/威力中/高命中/2~3回ダメージ
【ミティオシュート】
┗物理/単体/接触/
〖ability〗
【
┗能力値を下げられない
*
〖登録情報〗
〖name〗
〖class/sex〗
〖skill〗
【偽王の号令】
┗一手の間、自陣の選手一体の指定した能力値を二つ上げる。
その後、その選手の能力値をランダムに一つ下げる。
〖ability〗
【未完の貴種】
┗従僕系統を従え易い。
*
〖登録情報〗
〖name〗テラス・ポテス
〖class/sex〗
〖nature〗
〖status〗
【生命】A−
【物理】B
【物防】A
【魔力】F
【魔防】E+
【敏捷】D
〖skill〗
【大切断】
┗物理/単体/接触/|魔鉄/I±0/特大威力/中命中/相手の物防を一段階下げる
【大防御】
┗自身/|魔鉄/優先±0/自身の防御力を二段階上げる。一手間のみ、クリティカルを食らわない
〖ability〗
【鋼の心】
┗魅了・錯乱・畏怖無効
【従順】
┗監督の力量を問わず指示に従う
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