蜂の死
千織@山羊座文学
蜂の死
蝉の鳴き声が響き渡る。
絵に描いたような入道雲と青い空。
麦わら帽子を被っていた僕は、タンクトップに短パンで、子ども臭い汗をかきながらしゃがみこみ、アスファルトの上で悶える蜂を眺めていた。
蜂はまもなく死ぬ。
蜂は足をしきりに動かすが、空を掻くばかりだ。
今、死ぬほど苦しいのだから、この蜂も自分の死が間近であることはわかっているはずなのに、なぜこんなにも足を動かすのだろう。
僕は蜂から目が離せなかった。
蜂は動かなくなった。
そして乾いた。
カラリと、一瞬で。
艶がなくなり、風が吹けばすぐにバラバラになって散ってしまいそうだった。
僕は、死を理解した。
大人になって、様々な死を見た。
乾いた笑い
乾いた言葉
乾いた関係
動いていても、それは死だ。
死人に囲まれている
死が降り注ぐ
死に誘われてる
それらは砕けて空気中に漂い、僕の鼻から口から入って、僕の肺を穢し、血に溶け込んで身体中を駆け巡り、心臓を縮め、脳を切り刻む。
死の割合が迫っているにも関わらず、僕は職場でキーボードを打っていた。
指先は、あの蜂の足であった。
(了)
蜂の死 千織@山羊座文学 @katokaikou
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