第4話

 そんなわけがなかった。もう聖剣に魔力は充填できない。だから戦えないはずなのだ。見間違いであるはずだ。


 それでも、視覚ははっきりとそのなつかしい姿を捉えた。


 魔力すら尽きて、光をまとわなくなった剣を振り回している姫の姿が、そこにはあった。




「私はまだ頑張らないといけないの、独りで竜神を屠れなくて


 どんな顔をしてテオを迎えに行けるというの?」


 姫は、そう、叫んでいるように聞こえた。


「姫ッ」


 我知らず、駆け出す。


「テオ!?」


 驚きの言葉が返って来るも、続く言葉は静かなものであった。


「下がりなさい」


 その言葉に、思わず足が止まる。


「あなたはもう、退いた身でしょう。安全なところまで下がりなさい」


「しかし、魔力が」


 今も竜の爪と打ち合い続けている聖剣は、かつての輝きなど見る影もなく、鈍く光っていた。


 こうして言葉を交わすのすら時間の無駄になりそうで。


 こうして悠長に過ごしているうちに取り返しのつかない傷を負ってしまいそうで。


 その恐怖が、おれを後押しした。


「時を稼ぎます。下がってください」


 近寄るおれを、手で制止するのがみえた。


 でも、止まれない。


 強引に姫と爪の前に割り込んで、


 小規模な鞘の爆発で、距離を稼ぐ。竜の爪が弾き飛ばされたのが見えた。


 その爆風の反動すら利用して、姫の左手をつかんで、先ほどの横穴へと転がり込んだ。



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