第21話 おおよその居場所

 食後、早めに風呂に入り、リュアティスはさっさと寝室にこもった。

 時間的にそろそろコンタクトしてきそうな気がしたのだ。

 ネスアロフはいぶかしげな顔していたが何も言わなかった。


 ナイトウェアに着替えてベッドに座り、「いつでも来い!」としばらく身構えていたが、約束をしたわけでもないのだから思ったとおりには運ばない。

 ベッド横にある北側の窓を開けて外を見ると、東側の空はもう夜空だったが、西側の空はまだほんのりと明るかった。


 窓とカーテンを閉め、寝るには早過ぎるため本でも読むかとベッドを降りようとしたとき、スーッと力が抜ける感じがして、軽いめまいがした。


 来た!!


 ベッドに横になり、魔力を高めていく。



 いつもの頭痛に耐えながらリュアティスが返事のために高めた魔力を放出しようとした時。



 え?


《《調節できるなら100分の1くらいにしてみてください!

 10数えても私の返事がなかったら10分の1くらいにしてください!》》


 なるほど。


 フルパワーでなくてもいいということなのだろうが、その、100分の1がどれくらいのものなのかわからない。

 とにかく、抑えて高出力発信を試みることにする。


 そうだな…中型…いや、大型モンスターの小さいヤツを倒すくらいの感じで。



 おお、よかった。

 これなら話しかけるほうは、そんなに負担ではない。


《《もっと弱くてもいいかも。まあいいや。

 えっと、なんだったっけ?

 ……あ、そうだ。

 お昼ご飯は何時でしたか?》》


 昼ご飯!?


 痛む頭を押さえながら、とにかく、聞かれたことに答える。


《《え! お腹空かないの?

 あ、お昼とは限らないんだった。

 えーっと……

 ありがとうって言ってくれた時、何時頃?》》


 何が知りたいのかよくわからないんだけど。


《《おにいさま、12時頃ですって!

 12時なのにご飯は食べてないみたいだから12時でもお昼じゃないのかも!》》


 いや、昼ご飯を食べようとしていた時に話しかけられたから食べ損ねただけだ。


《《えっ、そうなの?

 12時は太陽が一番高いところなんですって!》》


 12時がどうしたんだろう?


《《……わかった!

 こっちは1日を24等分した時間が1時間です。

 そちらの時間もそうなのですか、とおにいさまが言ってます》》


 やっぱり二人ともこっちの世界にいるんだ。


《《それでー……あと、なんだったけ?

 ……あ、そうだった。

 ここは、牧場の東の島です!》》


 !!


 突然、一番聞きたかったことを告げられ、気絶に備えて横たわっていたリュアティスは、飛び起きた。


 牧場の東の島!?


 すぐにでも地図を確認しに行きたいリュアティスだったが、地図があるのは書斎のほうだ。衣類用の小部屋を通り抜ければ部屋から出ずに行けなくもないが、ネスアロフに気づかれる可能性がある。

 何か異変があればすぐに駆けつけられるように寝室の外に待機していると思われるからだ。

 サイドテーブルからメモ用紙とペンを取り出す。


《《牧場じゃなくて牧草地ですって!

 牧草地は……東側が断崖絶壁で、海で、そこから見えるところに……切り立った島がいくつかあって……そのうちの一つだ、です!》》


  メモ用紙に略図を描いて眺めながら、東が海に面しているこの国にはこんなところいくらでもあるなと考えているうちに、リュアティスは最初の質問の意図に気づいた。


 彼女、いや、彼女じゃなく、彼のほうだろう。

 彼が知ろうとしたのは、僕がいるところとの時間差だ。

 それがわかれば1日の大まかな流れの中で、いつ頃なのかがわかる。

 居場所だって、緯度が不明だから距離はわからないけど、地図があればある程度は絞れる!


 


 これまでとは比べものにならない長い会話に、リュアティスの意識が薄れはじめた。

 起きていられなくなり、ベッドに横になる。



 彼らが僕より東にいるってことは確定した。


 


 明るく、元気のいい、虹色の『声』。

 もっと聞いていたいけど、無理のようだ。



 言ってから、彼らにその時間がわかるだろうか、と思ったが、リュアティスはそれを伝えることができなかった。


 


 それっきり彼女の『声』はしなくなった。


 リュアティスは、メモを握り締めて眠った。

 翌朝、自国の地図を見て、驚愕することも知らずに。


   ☆

   ☆

   ☆


「うそだろ、これ……」


 自分の母の実家の公爵領が北東の海沿いにあるからそこならいいなと思っていたリュアティスだったが、アークレルト公爵領と、すぐ南にある第2王妃の実家のホスフレイル侯爵領、更に南にあるセフィテアの実家のべシス侯爵領の3つが海沿いで集結している場所がある。


 ホスフレイル侯爵領の港町を挟んで、北が母上のご実家、南がセフィテアの実家って……


 エリスレルアの『声』が頭に響いたわけでもないのに、めまいがしそうになる。


 ―――なんの嫌がらせ?


 そこは王都の真東に位置していて、なんとなく、彼らがいる島はその付近にあるんじゃないかと思ってしまったリュアティスであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る