第22話 エネルギーの供給源
「ユアテスさんが、続きは明日の夜の23時くらいにお願いしますって!
で、寝ちゃったみたいだから、私も寝よっと!
おにいさま、おやすみー」
そう言うなり干し草を編んだ敷物に倒れこみ、エリスレルアは寝息を立て始めた。
「早! まあ、いつものことだけど」
明日の23時にって、夜は日時計、使えないんだぞ?
夜でも時間がわかるもの、何か作らないと……
そんなことを思いながら隣に座ったレミアシウスは、さっきまでの会話で得た情報について考えてみる。
と言っても、時差のことしかわかっていないが。
時差は大体1時間か。
この星の大きさと緯度が不明だから正確な距離はわからないけど、日本だと大体1400キロ前後くらいだ。思ったより遠い。
ちなみに、ルイエルト星の場合は自転と1日の長さが関係ないので、この方法では距離なんて計算できない。
「1000キロか~」
どう贔屓目に見ても、いくらエリスレルアでも、この髪の長さでしかも全方位テレパシー発信だったんだ。それを聞いて名前とか居場所とかを聞いてくるには遠過ぎる。
エリスレルアは何を言ってるのかよく聞こえなかったって言ってたけど、そりゃそうだって言っていい距離だ。
なのに、彼は、彼女の『声』を聞きとがめて質問してきた上にエリスレルアが名乗っただけで気を失ってしまった。
この点だけ見れば、まるですぐそこにいるかのようだ。
「どういうこと?」
レミアシウスは、寝転がって空を見上げた。
「彼の居場所が、なんか、掴み切れないなぁ」
僕は、地球では
けど、相手がエリスレルアなら、彼女の守備範囲がとても広くて、しかも元々テレパシーが強すぎるから、かなり離れていても会話が成り立つ。
今の髪の長さの彼女でもかなり離れていても会話できるだろうけど……さすがに1000キロとか離れてもいいかっていうと…どうなんだろ?
ん-……テレパシーだけならできそうな気がしないでもない。
相手によるかな。
相手がにいさんなら、にいさんの守備範囲も異常に広いから今のエリスレルアと同じくらいの髪の長さにしてたって、1000キロなんて余裕で会話できると思う。
でも、ユアテスさんがにいさんレベルだなんてことはないだろう。
そこまで考えて、レミアシウスは身体を起こした。
いや、待て。
ユアテスさんが、にいさんやエリスレルアクラスじゃないなんて、誰が決めた?
実は、同レベルのすごいヤツなのかもしれないじゃないか。
または、テレパシー能力に特化した特殊工作員とかで、わずかなテレパシーも聞き逃さない、とか。
とにかく、ほかにエリスレルアのテレパシーに反応した人はいないから、ユアテスさんだけが特別にすごいと仮定して。
エリスレルアは、僕を2回呼んでいる。
1回目、僕を探して。2回目、ガイコツの実験のため。
2回目に反応してきたんだけど、1回目も聞こえてたのかも。
にいさんなら絶対聞こえてるんで、彼にも聞こえてたとする。
1回目、突然頭の中に知らない人の声が響いた。
「あの声、何?」とか思っていたら、次の日の朝、再び同じ声が聞こえた。
だから、名乗って、名前と居場所を聞いてきた。
あり得る、ていうか、当然だ。
先に名乗ってるだけ紳士的って感じ。
でも、その彼の『声』はエリスレルアにさえよく聞こえていない。
ここで話が終われば「遠いからな」で済むんだけど……
昼間、3度目、エリスレルアが勝手に呼びかけた。
ユアテスさんに向けてのものだけど僕にも聞こえていたから、まだ彼に集中しきれていないか、または、僕に話しかけた時と同じ強さにするためだろう。
しばらく彼からの反応がなかったみたいだけど、最後に「ありがとう」という言葉とともにすごいパワーが送られてきた。
2度目の『声』に返ってきたのは聞き取れないほどの『声』。
3度目の『声』にはすごいパワーの『声』。
で、さっき。
彼は、調整した強さで『会話』していた。
やっぱりこの世界には、電力とか火力とかみたいに調整できて、離れたところに想いを届けることもできるパワーがあるんだ。
「ん?」
考えごとをしていたレミアシウスの数メートル先に白いモヤがかかった。
その霞が、ゆっくりと人の形になっていく。
ほ……本物の、幽霊!?
それは、青ざめて固まっている彼の前で、美しい女性の姿になって微笑んだ。
《先ほどは、気遣ってくださって、ありがとうございました》
幽霊が、しゃべったーーー!!
血管が切れそうなくらい引きつりながら、なんとか、声を出す。
「さ…きほど……って?」
《先ほどとは、先ほどです。
「実体化して落ちて復元って……もしかして、あのガイコツ!?」
《はい》
こんなにきれいな人だったのかー……じゃなくて!
「先ほどって言うほど先ほどじゃないような……」
エリスレルアが現場検証をしようとしていたのは、まだ朝のうちだった。
《我らは時の流れから外れた存在ですから。
あなた方で言うひと時前も、3000年前も先ほどです》
なるほど、と納得したレミアシウスは話しているうちに怖さがなくなってきて、気になっていたことを聞いてみることにした。
「我らってことは、ほかにも?」
《はい》
ということはやっぱり……
「エリスレルアにエネルギーを与えてるのは、あなた方?」
《はい……少しくらいならば構わないのですが、その方が本気で力を欲せられたら、我らはすべて巻き込まれて消えてしまうでしょう》
やっぱりか。
「エリスレルア、使うほうもいい加減だけど、集めるほうはもっといい加減だから、ご迷惑をお掛けしてしまうかもです! ごめんなさい!」
ルイエルト星だと集め放題だからだろうけど、それをほかでもやられたら、そこの人たちはたまったものではないだろう。
恐縮して頭を下げたレミアシウスに、幽霊(?)は微笑みかけた。
《我らはもうこの世の者ではないので、消えてしまっても構いません》
「そういうわけにはいかないので、エリスレルアが牧草地のほうへ行きたいって言いだす前になんとかしたいんですけど、ここって、エネルギーがあるようでないっていうか……食べ物が少ないですよね?」
毒さえなければ結構豊富なんだけど。
幽霊(?)さんが、悲しそうな表情を浮かべた。
《以前、悲しい出来事があったのです。
ですが、それでしたら……あの神殿の奥にある結晶石をお使いください》
「えっ?」
幽霊(?)さんが指し示したのは、エリスレルアがガイコツを墜落させた場所の傍にある、くずれた大きな石が重なっているところだった。
あれって、やっぱり遺跡の残骸だったのか。
《結晶石は我らの王がそのお力をお使いになった場所にできたもの。
魔素を含む周囲のエネルギーを集積したものです》
「魔素?」
って何?
《あなた方なら……無事に手にすることができるでしょう》
そう言うと、幽霊(?)はすーっと消えた。
「……魔素が何かはわからないけど、周囲のエネルギーを集積した結晶石かー。
それがあれば、ここの人(?)たちに迷惑かけないで移動できるかも」
「あなた方なら」という点が多少気になったが、レミアシウスは情報をくれた幽霊(?)さんに感謝しながら眠りについた。
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