第20話 連絡してみよう

 レミアシウスが思っていたとおり、北側の南斜面にはいろいろな果物の木があったが、ほとんどが毒果実だった。

 山の向こう側、つまり北斜面のうちで日当たりのいいところにある木だけが普通の果実を実らせていた。


 夕飯はその果物とスープで軽く済ませ、エリスレルアはどこからか取ってきた大きな岩をくり抜いているところ、レミアシウスはエリスレルアに直方体にカットしてもらった岩に穴を二つ掘り、内側を磨いているところだ。

 エリスレルアが作っているのは大きな水瓶、レミアシウスが作っているのは昼間に作ったのと似たような調理台である。昼の時のように急ぐと消費する『力』も多いので、今は少しずつゆっくりと作業していた。


 夕方から始めた作業だったが日はとっくに暮れ、既に空には無数の星が輝いている。


「できた!」

「どれどれ?

 ……おー、今までで一番いいできだな!」

「やったー!」


 大はしゃぎしている彼女の後ろには、失敗して砕けた岩がゴロゴロ転がっていたが、そっちを振り返ったエリスレルアがそれらを浮かせ、海へ放り捨てた。


「これで海水から分離した水を入れておける」


 今までは入れ物がなかったから、必要なくなるまでエリスレルアが宙に浮かせていたのだ。


 することがなくなったエリスレルアが瞳をキラキラ輝かせながら、作業中のレミアシウスの背後をウロウロし始めた。


 あーもぉーー!


「わかったよ。

 僕のほうももうすぐ終わるし、ユアテスさんに連絡を取ってみよう」

「やったーー!!」


 大はしゃぎするエリスレルアの周りに風が巻き起こり始めたから、レミアシウスは慌てて止めた。


「待て待て、ちょっと落ち着けって!

 彼が気絶しちゃうぞー!」

「えーー?」

「話してる途中でもいつ気絶しちゃうかわからないんだから、まず、伝えたいことと、聞きたいことをまとめておかないと」

「むーー」


 エリスレルアは不服そうだったが世間話ができる状況ではなく、挨拶だけで終わったりしている場合ではないのだ。


「いいか?

 まず、『力』の強さはお昼に話しかけた程度で。

 彼にどんなふうに聞こえているかわからないから、弱めるのは確認してからだ。

 強くは絶対ダメだぞ。そこで会話が終わる可能性が高いからな」

「うん!」

「次に、ここと、彼のいるところとの時差が知りたい。

 時差がわかれば彼の生活リズムも少しはわかるからな」


 そうすれば定期的に連絡を取れるようになるかもしれない。


「ジサって?」

「時刻の差。簡単に言えば…そうだな……

 例えば、ここが真夜中の時に彼のいるところは何時頃なのかなってことだよ。

 ルイエルト星だって同じ時刻でも場所によって、昼のところと夜のところがあったろ?

 ここが昼の12時の時に彼のいるところが朝の8時だったら、時差は4時間ってことだ。

 僕たちが昼ご飯を食べる時に、彼は朝ご飯を食べるってことかな」

「ほほーー」

「まあ、4時間っていうのは例え話で、ユアテスさんとそんなに離れているとは思えないけど。

 僕を探すために呼びかけた時の強さのテレパシーじゃ、さすがにインドの向こうの辺りまでとか、届きそうもないから」


 てか、どっちかっていうとどうして彼に聞こえたのかが一番の謎なんだよなー。

 この島より東にも町があってそこにいるのかもと思ってたけど、東も北も南も海が広がっているだけだったし。


 つまり、西にいた僕より更に西にいる彼に、エリスレルアの『声』が聞こえたということになる。


 ―――彼も超能力者なんだろうか?


「てことで、昼間にお前が話しかけた時、何時頃だったか知りたい。

 時間の単位が違うかもしれないから、ホントは太陽の角度がわかるといいんだけど、そんなの、日常生活で気にしてる人は少ないから、ここの時刻で、でいいよ。

 いつか、この世界の時間の単位がわかった時に彼の居場所の参考になればいい」

「わかった!」

「あとはー…そうだ、居場所を聞かれたって言ってたよな?」

「よく聞こえなかったけど、そんな気がした」

「居場所は、海沿いの牧草地の東にある切り立った島のうちのひとつ、だ。

 これ以上のことは今はわからない」

「はーい」


 とりあえす、これくらいかな?

 本当は聞きたいことは山のようにある。

 でも、彼がどういう人物なのかわからないうちにいろいろ聞くのはあまり褒められたことじゃない。

 それに、何度も気絶させているエリスレルアのテレパシーが彼にどれくらいのダメージを与えているのかわからないし。


 もし彼が悶絶しまくっていたらどうしよう、とレミアシウスは心配なのだ。


 どうか致命的なダメージになっていませんように!


 そう願いながらエリスレルアに話しかける許可を出そうとしたレミアシウスは、大事なことを思い出した。


「そうそう、話しかけたら彼が返事をする前に、お昼の時の『ありがとう』ほどのパワーはいらないって言え」

「えっ?」

「あんなにパワーをもらわなくても聞こえるだろ?

 調節できるものならしてもらったほうが彼の負担を減らせるじゃないかって」


 会話するだけにはもったいな過ぎる、あのパワーは。


「あれくらいパワーがほしい時には言いますからって彼に伝えてほしい」

「わかったー。

 えっと、強さはお昼の時くらい。

 呼びかけたら、まず、あんなに強くなくても聞こえるよって言って。

 それから、お昼に話しかけた時、何時でしたか? って聞いて。

 それからー、ここは、牧草地の東の島です! だったっけ?」

「ま、そんな感じかな。

 くれぐれも、テレパシーの強さに気をつけろよ」

「うん!」


 エリスレルアの周りに風が巻き起こり、辺りの空気が虹色に染まっていく。


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