第12話 受け取った側
波の音が聞こえる。
ん~~よく寝た~~
寝起きでぼーっとしながら、いつもベッドから降りる時のように身体を起こすために右手を突こうとして、レミアシウスは草の感触に手を引っ込めた。
草?
本能的に危険を感じ目を開けると、木々の隙間から夜空が見えた。
状況がわからないから身じろぎするのも怖く、身体をこわばらせたまま草に触りながら右手をそっと下ろしてみる。
草はあるけど、地面はない。
左手側には草の下に地面があるのに。
―――つまり、ここって、端っこ?
ザザザと左に寄りながら、牧草地帯の崖には柵があったからここはエリスレルアがいる島のほうだろうと、彼女をを探す。
「エリスレルアー?
……寝てるのかな?」
返事がないので目を閉じて辺りを探すと、自分よりも右側にいるのを感じた。
右側!?
って、海の中???
そんなばかなと崖のふちからそっと下を見ると、3メートルくらい下にある木の枝にエリスレルアが引っかかっていた。
「お前……よく海に落ちなかったなぁ。
まあ、落ちてたらこの島はとっくに崩れて僕も海に落ちてただろうけど」
苦笑いしながら、これくらいなら自分でも引っ張れそうだと『力』を使って自分のところへ引き上げ、抱き上げて山を少し登ると、そこから先は下りだった。
エリスレルアに小枝が当たらないように避けながら彼女が通ってきた痕跡のあるところを慎重に降りていき、麓に着いた。
暗いからはっきりとはしないが、確かに草原が広がっているだけのようだ。
近場の草を『力』で刈り取って編んで敷物を作り、その上に眠ったままのエリスレルアを横たえて、お腹の辺りにタオルを1枚かけた。
遊園地、腕時計をして行けばよかったなー。
今、何時頃だろ?
夜空を見上げても、当然のことながら地球の星空とは全く違うので参考にならない。
日中に意識を失い、目覚めたら夜だったので、いつ日が沈んだのかもわからず、時間の検証は明るくなってからすることにした。
「太陽が出ている間が明るくて沈むと暗くなるみたいだし、ここは地球のように太陽の動きで昼と夜ができているようだ。
ルイエルト星タイプじゃないだけマシかな」
ルイエルト星は、生まれてすぐに地球へ送られて150年ほど暮らし、15年前に帰ってきたレミアシウスが知っている限りの物理法則では理解し難い、太陽が内側にある超巨大な星なのだ。つまり、外側の空には太陽がない。
ずっと昼間となる内側はかなり高温になっているので、ほとんどのルイエルト星人たちは星の外側で暮らしていた。
空に太陽がないのに辺りが明るいのは、ルリテス・ラ・ルミエリル湖を通して内側の太陽光が外側を照らしているからで、その湖の濃度が濃くなると昼に、薄くなると夜になると聞いた時、思わず「そんなばかな」とつぶやいたレミアシウスだった。
エリスレルアの隣に座り、その寝顔を眺めながら意識を失う直前に起きた現象のことを考える。
「あれって、別の次元間でもできるんだ」
昔、一度だけあった現象。
あの時は、「やったー! テレポートできたー!」って叫んじゃって、みんなに「何言ってるんだ、こいつ」的な視線を送られまくったな~。
レミアシウスにはどういう原理かわからなかったが、突然、自分の身体が自分のものと思えなくなって、それまで考えたこともなかったことを考え、感じたこともなかった感情に染まる。
それを違和感なく受け入れながら、「違う」と反発している不思議な感覚。
それは、もしセルネシウスと一緒にルイエルト星で育っていたら、何かのきっかけで自分は消えていたかもしれないということがやたらと現実味を帯びる現象だった。
あの現象じゃなくても、ほかにもいろいろと……
例えば、強烈なテレパシーを受け続ける、とかでも危なかったかも。
磁石の傍に置かれた砂鉄には、自己主張することなんてできないもんね。
二人に分かれてすぐに30万光年引き離されたおかげで無事に成長できたのかもしれない、とレミアシウスは思った。
今回セルネシウスに替わって最初に思ったことは、『エリスレルアが無理やりこっちへ帰ろうとするのを止めろ』ということだった。
それが彼の一番言いたかったことなのだろう。
「わかったことは―――」
そこ(ここ)は元いた世界とは別の次元の世界。
そっちに行った(こっちに来た)のは、エリスレルアの行き先間違い。
次元は無数にあって、お前たち(僕たち)を探し出すのに時間がかかる。
見つけ次第、僕が行く(にいさんが来る)。
そっち(こっち)に壁を開いた者がいる。
開けてもらえたら帰って来やすい(行きやすい)。
その者を探せたら探す。
エリスレルアは次元の壁の開き方を知らない。
無理に帰ろうとすると破壊してしまう。
下手すると、世界が崩壊するから止めろ(止める)。
それから
金庫を破壊させてはいけない。
金庫!? 泥棒?
罠に引っかからないように。
罠? 狩り?
フレシエスは送れない。
……。
できることなら、お前(僕)と代わりたかった。
……にいさん。
ほかにもいろいろあったけど、今回の件に関連ありそうなのはこれくらいかな、と頭の中でまとめる。
優先順位が高いところに金庫とか罠とかがあったのがよくわかんないけど……金庫に罠が仕掛けてあるから引っかかるなってことだろうか?
この世界にも銀行があるとか?
今のところは関係なさそうなほうへ思考が流れていきそうになったから止めて、星空に視線を移す。
「壁を開いた者を探せ……か。
確かに、それができれば一番いいんだろうけど……どうやって?」
そういえば、昔、ほかの世界に行っちゃう話を読んだことがあるな。
レミアシウスは、十数年前に地球で読んだ小説を思い出した。
えーと、確か、魔法陣が展開されて、召喚されるとか……あの模様、魔法陣だったとか?
でも、そういう時って普通、探さなくても……いや、全然普通じゃないけど、まあ、普通は、召喚主って目の前にいるものなんじゃ……
あー、でも、神様が召喚したとかだといないかも。
―――えっ…………神様、探せってこと?
「無理!!」
レミアシウスが思わず叫んだ時、エリスレルアが寝返りを打った。
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