第13話 大変なミッション

 あー、そうだった。

 こっちに来たのは、エリスレルアの行き先間違いだった。

 てことは、誰が開いた扉だろうと出現場所はこいつ次第だったってことで。

 とすると、神様が召喚したんじゃなくても開いた人を探し出すのは無理では……


 いろいろ考えていたら、エリスレルアが目を開けた。


「……おにいさま?」

「エリスレルア、目が覚めたのか」


 話しかけると、寝起きでぼーっとしていたエリスレルアが飛び起きた。


「レミアシウスおにいさま!

 セルネシウスおにいさまは?

 さっきの、セルネシウスおにいさまだったよね?

 おにいさまはどこ?

 ルイエルト星は?

 ここはどこ?

 どうして戻っちゃいけないの?

 どうすればセルネシウスおにいさまがまた話せるの?」


 自分に掴みかかってきたエリスレルアの手を掴むレミアシウス。


「落ち着けって! 順番! 順番だー!

 質問する人は手を挙げてください!」


 質問者は一人しかいないのに手を挙げろって、と内心苦笑していたレミアシウスだったが。


「はい! 質問です!」


 ブッ!


 お茶を飲んでいたら盛大に吹き出すところだった。


「はい、エリスレルアさん!」

「えっと……えーっと……

 セルネシウスおにいさまとルイエルト星はどこですか?」


 いきなり、激ムズ!

 別の次元にいる、なんて答えて「ジゲンって何?」なんて聞かれても説明できる気がしない。

 どーしよ。


「少々お待ちください」


 レミアシウスは、ここにある物だけで説明しないと、と辺りを見た。

 草と土と石くらいしか見当たらない。

 しかたなく『力』で草を使って籠のようなものを6個作り、中に土を薄く入れてその中の一つに小さい石を二つ入れ、上を閉じる。

 別の籠にも土を入れて石を一つ入れて閉じる。ほかの籠にも土と石を適当に入れて閉じた。


「エリスレルア。

 この草の籠が壊れないように『力』で守りながら適当に浮かせろ」

「うん」


 言われたとおりに草の籠をエリスレルアが空中に浮かせた。


「いいかー?

 今、僕たちがいる世界が、これ、石が2個入ってるヤツだとすると、ルイエルト星があってにいさんがいる世界は、これって感じだよ」


 別の草の籠を指さす。


「??」


 わかんないかな?


「この世には、いくつも世界があって、僕たちがいない世界も何個もあってさ。

 僕たちが今いる世界とにいさんがいる世界は、別の世界なんだよ」

「えーーっ!!」


 エリスレルアの叫びとともに、浮いていた世界たちが不規則な動きで飛び回り始めた。


「エリスレルア! 世界同士がぶつかって壊れるぞ!

 守れって言ったろ!」

「はっ! そうだった!」


 世界たちが落ち着きを取り戻す。


 なんか、おもしろ。


「ここに浮かんでるのは6個だけだけど、ホントはもっとたくさんあってさ。

 僕たちがどの世界にいるのか、今、にいさんが一生懸命探してくれてるところなんだよ。

 見つけ次第、来てくれるって言ってたから、おとなしく待っていよう」


 うつむき加減になり考え込んだエリスレルアが顔を上げた。


「私もセルネシウスおにいさまを探せば見つけられるかも!」

「見つけられるかもしれないけど、そこにちゃんと着けるかどうかはわからないだろ?

 例えば―――」


 浮いている世界たちの一つを離し、残りの5個を一列に並べる。


「この離れてるのがにいさんがいる世界だとする。

 で、にいさんがこっちから順に探してて、次が僕たちのいる世界だって時に『セルネシウスおにいさま、見つけた!』って、ここからここへ飛ぼうとして別の世界に行っちゃって、そこがもしこの探し終わってるところだったら、どうするんだ?

 にいさんは僕たちのいない世界を探し続けちゃうことになるだろ?」

「……」


 これでわかってくれるといいんだが、とレミアシウスが祈っていると、ジッと草でできた世界を見つめていたエリスレルアが肩を落とした。


「そっかぁ、それでセルネシウスおにいさま、僕がいいっていうまで戻って来るなって言ったのね。

 私があっちこっち行っちゃったら、探すのがますます大変だもんね」


 やったーー!


「うんうん。

 かくれんぼしてる時に、隠れてる人が動き回ったら終わらないのと一緒だよ」


 実際、ルイエルト星でかくれんぼした時、隠れているエリスレルアが見つかりそうになると別のところへテレポートしてしまい、延々と終わらなくて悲惨だったことがあった。


「わかった。おにいさまが見つけてくれるまで、動かない!」


 よし! 最も大変なミッション、クリア!

 にいさんがホントに心配しているのは居場所がわからなくなることじゃなく、移動すること自体なんだけど、とにかくエリスレルアが世界を越えて動こうとしなければいいんだ。


 レミアシウスがこっそり胸を撫で下ろしていると、エリスレルアが手を挙げた。


「はい! 質問です!」

「はい、エリスレルアさん!」

「セルネシウスおにいさまとまた話せますか?」


 あ~~


「あれは、にいさんにやってってこっちから言えるようなものじゃないんだよ。

 にいさんが話したいなって思わないと無理」


 それを聞いたエリスレルアが見るからに落胆し、浮いていた世界たちが地面に落ちた。

 それを見て、世界がエリスレルアの動揺に呼応するように飛び回っていた光景がレミアシウスの胸によみがえり、さっきは面白いと思った状況が彼は怖くなってきた。

 次元越えの移動もそうだろうけど、セルネシウスが真に恐れているのは世界がさっきの状態になってしまうことなんじゃないかと思えてきて、レミアシウスの背筋を冷たいものが走る。


 さすがにあんなふうに飛ばすには莫大なエネルギーが必要だろうからできないだろうけど、何かのはずみで、もし、僕たちの世界ともこの世界とも関係のない世界同士がぶつかり合ったりしたら、どうなるんだろう?


 富士山の噴火以上にやっかいなことになるのは確実で、レミアシウスはなるべく早く元の世界に戻るべきだという結論に至った。


 ―――僕ひとりでこいつを抑えるなんて、不可能だよー! にいさ~ん!


 心を読まない限りそんな彼の思いなど気づくはずもないエリスレルアが能天気な声を上げた。


「セルネシウスおにいさまと話せたら寂しくないなって思ったのに~」


 ん?


「僕がいるじゃないか!」

「え~~~~~?」

「え~~って、お前さぁ……」

「だって、レミアシウスおにいさまはセルネシウスおにいさまじゃないじゃない」


 それは、にいさんいないとダメってこと?

 それとも、にいさんいないとダメってこと?


 どっちにしろ僕だけいてもダメってことだよね、とレミアシウスが心の中で涙にくれながら空に目をやると、一部、明るくなり始めているところがあった。


 考えてもどうしようもないか。今すぐそんな事態になるわけでもないし。

 それより今は、現状の把握が優先だな。

 太陽が昇る方角が東なら、東は遠い山のほうだ。

 つまりここはこの島の西の端。

 僕がいた牧草地帯はさらに西ってことだ。


「もうすぐ夜が明ける。明けたらこの辺りを探索してみよう」

「うん!

 あ! ガイコツのゲンバケンショーもしないと!」


 地球で見た探偵物アニメの影響だな……


「チョークとか、テープとか、あるかな?」

「ないよ!!」


 異世界に来ても、苦労が絶えないレミアシウスであった。

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