第8話 乱入者
「リュアティス様!
お倒れになられたとお聞きいたしましたが、こちらですか!」
「セフィテア」
それは、侯爵家の三女でありリュアティスの
自分は王族であるから、ほかの兄たちと同じように家同士が決めた許嫁がいるのは仕方ないことだとあきらめてはいたが、リュアティスは今のところ結婚なんて興味はなかったし、何よりこの、きらきらと着飾っている少女が苦手であった。
「まあ! 意識不明の重体だとお聞きしていましたが意識が戻られましたのね!
でもまだお顔の色が優れないようですわ!
…あ…
皆様、ノックもしないで駆け込んでしまいましたこと、お許しくださいませ。
リュアティス様の一大事とお聞きいたしまして、我を忘れてしまいました。
申し訳ございません」
我を忘れている割には、いつも以上にキラキラ着飾り度がすごい気が……
二人の王子に深々とお辞儀をし、セフィテアはリュアティスに視線を戻した。
「リュアティス様!
このあとはわたくしが看病いたしますので、どうぞわたくしのお部屋へ!
ローズ! リュアティス様をわたくしのお部屋にお連れしなさい!」
それを聞いてリュアティスは青くなって固まった。
クレファイス学園の女子寮は原則として男子禁制だが、兄弟と婚約者の場合は例外として訪問を認められている。
昨年一度だけ根負けしてセフィテアの部屋を訪れたことがあったが、その際彼女はお茶やお菓子を差し出しながら3時間近くしゃべり続け、帰ろうとするリュアティスを何度も引き止めたあげく、「今夜は帰しませんわ!」とか言い出したのだ。
宿題も次の日の予習もまだだったリュアティスは、丁重にお断りして男子寮に戻り、二度と女子寮には行きたくないと、ネスアロフ相手に
城に用があって戻った際に父王のところへ行き、自分とは合わないから許嫁を替えてくれと願ったほどである。
その時たまたまそこにいたレイテリアスに「リュアティスは子供だなぁ」とバカにされたことまで思い出した。
「リュアティス殿下、こちらへどうぞ」
固まっているリュアティスにセフィテアの侍女ローズが声をかける。
開かれたドアの向こうの廊下には4本の足の先に車輪の付いたベッドがあった。
(((((意識不明のままでも運ぶ気だったのか)))))
そこにいるセフィテア及びその侍女数名以外の者たち全員が同じことを考え、
「セフィテア嬢、大変申し訳ありませんが、リュアティスは我らとこれから大事な話があるのです」
おお! 兄上! ナイス!
「お話、ですか……」
「はい。ですから、リュアティスとの歓談は、またの機会に」
余計なことを継ぎ足すなーー!
「そうですね、仕方がありませんわ。
お元気になられているご様子ですし……
いくらわたくしでも、レイテリアス様たちのお邪魔はできませんもの。
それでは、リュアティス様、またの機会に。
皆様、ごきげんよう」
美しく微笑んで優雅にカーテシーを決め、セフィテアは帰っていった。
「助かったー。けど、兄上。
なぜ余計な一言を付け加えるのです。
変な約束を取り付けてしまったではありませんか」
「バカだなぁ、リュアティスは。
あれは社交辞令だよ」
「え?」
レイテリアスの微笑みが深くなる。
「まあ、お前が約束を取り付けたと思っているのなら、会いに行ってあげないと、だけどね」
「……僕の勘違いでした。そんなもの、取り付けた覚えはありません」
リュアティスの顔を覗き込むカルファレス。
「リュアティスー。許嫁は悪いものじゃないぞー?
ほかに好きな子がいるなら話は別だがな!」
「へー。
リュアティスにそんな子がいるとは、初耳だな。
どんな子だ?」
「いませんよ!
……いや……この場合は、いてほしい…か?
そうすれば断りやすいとか……
とはいえ、そんな心当たり、ないっていうか…
思い当たらないっていうか……誰かいないかな」
うつむき加減でぶつぶつとつぶやいていると、カルファレスに大笑いされ、レイテリアスにあきれられた。
「ブワッハッハッハーー!!」
「お前、本当にあの子が苦手なんだな」
自分でも真っ赤なのがわかるくらい顔が熱くなっていく。
「そんなことはどうでもいいから早く行きましょう!
僕の部屋でいいんですね!」
「クックックック……俺は構わない。
ここからなら、そっちのほうが近いし」
「僕も構わないよ。
お前の体調が悪くなった時にすぐに休めるほうがいいだろうし」
そして、3人とネスアロフはリュアティスの部屋へ移動した。
リュアティスの部屋がある棟は16歳以下の王族用の建物で、1階は専用の学習室と、従者や侍女用の部屋、食堂、共同風呂等が設置されている。
2階は4区画に分かれていて、現在この棟に住んでいる王子はリュアティスのみのため、北東の1区画以外は空き部屋となっている。
彼の居住区画には、部屋が3部屋、リビング、キッチン、風呂、トイレ等があり、3部屋のうちのひとつにネスアロフが護衛のため常駐していた。
この部屋に今いるのは、リュアティス、カルファレス、レイテリアス、そしてネスアロフの4人だけ。
リビングの丸いテーブルを囲むように王子たちが座ると、いれてきた紅茶を配ってネスアロフは壁際まで下がった。
「さあ、何があったのか、詳しく話せ」
レイテリアスがリュアティスを見据えた。
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