11 どんな話ですか
ここはお屋敷の図書室。そこに薔薇のような真紅の瞳、ツーサイドアップの銀髪、そして手元にクマのぬいぐるみを添える、黒い制服姿の幼い少女……そう、お察しの通り、ゴリゴリのロリっ娘である。
私はシンクレア・スピネル。今、魔法について基礎を学んでいる。最近まで言葉も文字も何も知らなかった私にとって、読書は世界を知るための手段のひとつだから。
あくまで探究心の追求で、別に魔法使い隊や魔宝少女になりたいわけではない。
魔法使い隊とは、人々の生活圏の治安維持を目的に活動している有志の組織。それに対する魔宝少女とは、国家に危害を及ぼす犯罪集団等の排除、殲滅を主とする組織で、強い権限を有しているのである。
魔法は大気中に含まれる魔素、もしくは魔物や魔獣を倒すことで入手できる魔石があれば使うことができる。魔石は時が経つと魔素に昇華するため、魔石合成をして魔晶石を生成する。
正式名称──魔晶宝石少女は、その結晶を女性の体内に移植することで、魔素環境に影響されることなく魔法が発動できる。また副作用として、より女性らしい体型になり、月夜の光で瞳が輝くことも確認されていてる。
また地下迷宮では下の階層ほど魔素が濃くなっており、強力な魔法が使える。ただし魔物たちは魔素の溜まり場より発生するので、その場の魔素が急激に薄くなり、魔法の使用が困難になる。
かつて魔法科学研究所で魔石の合成試験が行われた際、重魔晶石が生成され制御不能となった。周囲の魔素を吸収し続けて極度の重量になると地下深くへと落ち込み、やがて臨界点を超えると大爆発を起こした。
実に放出されたエネルギーは1グラムあたり、1メガトン魔素爆弾43.7個分に相当した。以来、その大地の巨大な穴は『万魔の大穴』と呼ばれ、最下層には万魔殿──パンデモニウムが存在すると云われている。
「シンクちゅわーん?!」
私を呼ぶ変なのは、ヴィクトリアンメイドの格好をしたラズベリー・ルビー。赤紫色の瞳に桃色の髪のシニヨンがとってもキュートなお姉さん。あくまで格好だけでメイドさんではない。
ちなみにこのクマのぬいぐるみは彼女の手作りだ。背中にチャックを付けて小物が入るようになっている。ほかにも料理や掃除など家事全般が得意で、実は何でもできてしまうすごい人なんです。でもメイドさんではない。
「なぁに読んでんの?」
『わかりやすい図解つき 相対魔法理論』
『万物は魔量子的に時を刻んでいた?!』
『おさるさんでもわかる! 8次元魔字』
ラズベリーの顔がピクリとひきつる。
「ウソだろ?! こんなのロリっ娘が読むもんじゃないでしょ!」
「え?! でも面白いよ?」
「あっ! そっか。なんだよ、さては知ったかブリっ娘だな。実はわかってないんだろ? まったくお可愛いですねー、シンクレアちゃんは!」
「やめてよー、髪がクシャクシャになっちゃうー!」
頭をワシャワシャ撫でてきたラズベリーの手を私はバシッと払いのけ、ぬいぐるみの背中からあめ玉をひとつ取り出すと口に頬張った。
「それにしても信じられない……だいたいここ来て、まだ2年も経ってないのに理解が早すぎじゃない?! もしかしてシンクレア、天の才の児なのか?!」
「オホホホホ。そんなことないですわ。興味があるものは自然に頭に入ってくるものですのよ」
「まぁまぁ、シンクレア嬢。ご謙遜なさって、オホホホホ」
「いえいえ、ラズベリーさまほどでは。オホホホホ」
「のホイで、ほかにおもしろそうなやつはないの?」
「ん……これとか?」
『誰が彼女を殺したのか?』
「へぇーそれ、どんな話?」
「んとね……とあることがきっかけで不死になってしまった主人公が、終わることのない命に失望して、自分を殺せる人を探して旅をする話。ドロドロの愛憎劇と騙し合いがおもしろいよ」
「おいおいロリっ娘、ロリっ娘さんよ。もっと健全なのにしましょうよ」
そんなこんなで読書をするのが、ここ最近での私の日課となっている。ちなみに本はたくさんあるので退屈することはないよ。
【11 どんな話ですか】────
────【12 なんの話ですか】(予告)
実は今、私は彼女に軟禁されている。きっかけはなんやかんやあって、初めての町の市場で自由を満喫していた時のことだ。目に映るものすべてが新鮮で刺激的で浮かれていたのもあるが、私は全てにおいて無知だった。
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