第37話 真実はピリリと辛い

グレースはウールたちの元へ向かうと少し複雑な気持ちになった。

三人とも、ほんの数日前には、命を賭けて自分を守ってくれた人たちだ。

今は、暗殺組織の人間として処罰しなくてはいけないかもしれない。


情が湧かない訳はない。


近くまでくると、暗殺組織のメンバーを一目見ようと人が集まっていた。グレースはその光景を見て腹が立った。


「コラ!貴方たち!見せ物じゃないのよ!」


グレースが怒ると、蜘蛛の子を散らすように去っていった。


「…すまんな、助かる。」


「あいつら、顔覚えたからな…みんなあたしがぶち殺してやる。」


「今の姉さんじゃ無理かも…」


三者三様だ。


「あの…命を助けてもらった恩人にこんな事を言うのもなんなんですけど…確認しなくてはいけないことがあります。」


「なんだ?俺たちが暗殺組織のメンバーで、人を沢山殺したかって?答えは両方ともイエスだ。」


「ちょ、旦那〜。もう少しオブラートに包むって事を知らないんですかい。」


バシリスクは言葉とは裏腹にヘラヘラしている。


「フン!」


マニーシャは不機嫌そうだ。


グレースは少々呆気に取られたが、気を取り直して話を進める。


「今、あなたたちの処遇を巡って、コミュニティ内で対立が起きています。私は、それを代表して来ました。」


「なんだ?俺たちを殺しに来たのか?」


「そんな事はしません!(本当はそういう提案はあったけど) ただ、コミュニティは犯罪者集団とは違う、あなた達は拘束されるべきだ、という人たちと、あなた達の力を期待して、このままリーダーとして導いてほしいという、二組で対立しているんです。」


「そうか、で、結論は。」


「結論が出せないから、話に来ているんです。」


「放っておけと言えば、放っておいてくれるのか。」


「それは…難しいと思います。」


「お前はどう思っているんだ。」


「……正直なところ、複雑な気持ちです。あなた達がいなかったら、このコミュニティも存在していないでしょう。それに、私はあなた達がどれだけ頑張ったのかも目の前で見ていましたから知っています。その事実は無くなりません。だけど…あなた達の過去も、同時になくならないのです。」


「……………」


「気持ちとしては…あなた達に寄り添いたいけど……でもそれは、私の信念や正義を曲げることになります。」


「…そうか、わかった。」


ウールはあっさりしている。


「あなた達の過去の所業について、今調査に向かわせていることです。一つ一つ、向き合っていきましょう。」


「クックック…」


「…何がおかしいんですか?」


マニーシャが突然笑い始めたので、グレースは不思議に思った。


「いやなに、あんた、いかにも優等生って感じだね。」


−確かにそうかもしれないけど…


グレースは小馬鹿にされたような気がした。


「私が嫌いな女を教えてやろうか?何不自由なく苦労なく育って、教養だけは一丁前で、尊厳を踏み躙られたこともないような綺麗な顔をして偉そうにしているような女さ。」


マニーシャの皮肉混じりの物の言い方に、グレースはムスッとする。


「そんな事を言っていいんですか?私の裁量一つで、あなた達の命運は決まると言ってもいいのですよ。」


グレースはちょっと言い返したくなって、つい意地悪なことを言ってしまった。


「いいね、ちょっと良くなったよ、あんた。でもさ、あんたに温情かけられるぐらいなら、死んだ方がマシさ。」


「……と、とにかく。あなた達の処遇については、また今度協議することにします。肉体強化剤の副作用が切れるのも近いと思いますので、それまで仮拘束させていただきます。」


ウールとマニーシャとバシリスクの三人は、縛られて檻の中に入れられた。

三人とも、不適な笑みを浮かべたままだった。



⭐︎⭐︎⭐︎




数日後、肉体強化剤の副作用もなくなり、元気になった戦闘員たちは、ウールたちの処遇を不満に思った。


共に戦った仲間として思うところがあったのだろう。


暗殺組織のアジトへのアクセスは苦労したようだが、そこからは思いがけず実に多くの資料が手に入った。データとペーパー、両方で管理していたようだ。


ご丁寧に、エージェント別と案件別に分類されていたが、資料の内容は実に多かった。


グレースは、資料の一つ一つに目を通す。


ウール、マニーシャ、バシリスク…この三人はどうやら組織でも一つのチームを形成していたようだ。実にチームとしての暗殺案件が多い。


そんな中、見つけてしまった。


ハッサン・ティヤブット…


サンティティのお父さんだ。


「サンティティ、これ…」


グレースがサンティティに声をかけると、サンティティの鼓動が高鳴る。


(ど、どうしよう…これでサンティティが妙な事をし始めたら…)


グレースはサンティティの精神状態がすでに不安定なところ、こんな資料を見せるのもどうかと一瞬迷ったが、サンティティが一番に知る権利があると思い、彼に渡すことにした。


(彼がどうなっても、私が止めてあげる!)


グレースから資料を受け取ったサンティティは、それを食い入るように読み始めた。


しかし、すぐにその目からは、光が失せ始めていくのが見てとれた。


(す、すごい動揺している。やっぱり、お父様との楽しい思い出が…)


グレースは、サンティティが父との思い出を回想しながら、父が惨たらしく死んでしまったことに激しく動揺してしまったのだと思った。


「…サンティティ、大丈夫?辛ければ、読まなくてもいいのよ。」


グレースが声をかけると、サンティティはガクッと肩を落とした。


「辛い…けど、そうじゃないんだ…」


サンティティは無言でグレースに資料を返す。


グレースも、資料を読み始める。


そこには、衝撃の事実が隠れていた。


ハッサン・ティヤブット

…武器商人

…臓器密売や人身売買

…子供の娼婦専用の売春宿経営


何これ?まるで犯罪のオンパレード…


「こ、これって、何か間違って…」


グレースがそう言うと、サンティティは首を振る。


「構成員リスト…みんな、知ってる顔だ。女中や執事…全員、偽名だったんだ。覚えているんだ、昔、誰かが女中頭のイライヤのことを、エレーヌって呼んでいたのを。僕はただ、誰かが間違えたと思っただけ…」


サンティティはそう言うと、涙を流し始めた。


暗殺の依頼主は、どうやら彼のことを追っていた刑事の夫を殺され、娘は攫われ娼婦として売られた未亡人だったらしい。ハッサンの組織壊滅後、娘は保護されたようだ。


資料をもっとよく読んでいくと、他のメンバーたちは依頼が来ればどんな人間でも暗殺していたようだが、この三人のチームでは違っていたようだ。

依頼された暗殺は、どれもハッサンの暗殺と似たような案件で、彼らのターゲットになったのは、いずれも札付きの人間たちであった。




第38話「預言者の幽体離脱」へと続く。

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