第12話 ミジーとキュリーとモリーマなんです!
コズモとミズナと黒豹がベースを出てから30分後、三人は、見た目はどう見てもただの壁となっているドアを何度か潜り抜け、何やら秘密の通路らしき道を通り抜けてから比較的広いスペースへと辿り着く。
驚いたことに、このスペースには、ポツンと一軒家があるではないか。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、つ、着いたか。」
黒豹は肩で息をしながらバタンと倒れ込んだ。
「呆れたわ…本当に自転車でついてきちゃうなんて…スピードを抑えたとはいえ、平均速度50キロは出ていたわよ。」
「さ、30分ぐらいなら、このペースでも余裕だ…ぜ…」
全然余裕そうでもない黒豹を見て、ミズナとコズモは放っておいてさっさと家へ向かって行った。
「あ、ま、待って…もう現役から離れてたから、回復が…」
黒豹は脚を引き摺りながら家へと向かう。
⭐︎⭐︎⭐︎
家の中は、完全に普通の生活空間となっていたが、少し散らかっている。
「いやー、普段はこんなに散らかってないんだけど、回転を停止させたモンだから、物がバラバラになっちゃって…お掃除ロボもお料理ロボもみんな壊れちゃったから、自分で全部やらなきゃいけなくなっちゃって…しかもずっと機械につきっきりだったし。」
「そんなことより、そのアナウンスができる場所は、どこにあるんだ。」
「焦っちゃダメよ〜、先ずはシャワーを…」
コズモは、ミズナの悪ふざけは完全にスルーすることにした。
「もう、ノリが悪いな〜」っと言いながら、ミズナはドアの一つを開く。
「ここで〜す!」
中に入ると、その部屋は、違う意味で散らかっていた。至るところに工具や金属部品やらが散らばっている。
「あっちゃ〜、ここもめちゃくちゃ散らかってんな〜。片付けるの、後で手伝ってやるよ。」
黒豹が眉を顰めながら部品を拾い上げる。
しかし、コズモの胸中には、別の思いが飛来していた。
この部屋を見れば、ミズナがどれほど頑張って修繕を試みていたのかがわかる。
兵役時代、追い詰められた国の科学部の部屋に、ちょうどこんな感じの部屋があったからだ。
軽いノリではあるが、誰かのために一生懸命になれる人なのだろう。
この家を見る限り、自分が生き残るためだけにその頭脳を利用していれば、問題なく生きていけそうな人だ。
「ほらほら、何をボーっとしているんですか。早速準備に入りましょう!先ずはテストですね。」
ミズナが「あ、あ、あ、」というと、別の場所から『あ、あ、あ、』という音が聞こえてくる。
「よし、バッチリね。本番でこのエコーみたいなのは聞こえないようにしておくから、気にしないで喋ってね。」
モニター画面には、ドローンからのデータ送信と思われる映像が映っている。
その画像には、生物に追われて恐怖する人々の姿が映し出されていた。
それを一瞥したミズナの顔が一瞬曇ったことも見逃さなかった。
破茶滅茶だけど、素晴らしい人柄であろう、とコズモは確信した。
「もうそろそろ時間ですよ、準備はいいですか!?」
「ああ、大丈夫だ!!俺に任せろ!」
急に頼り甲斐が出てきたコズモにミズナが親指をあげてグットのサインを出す。
コズモはマイクの前に立つ。
⭐︎⭐︎⭐︎
『オムニ・ジェネシスの民の諸君。コズモだ。ミズナ氏に連れられて、私はこうして皆に声を届けることができている。』
ここで一呼吸置く。
『この放送を聞けているということは、諸君はまだ生き残っているということだと思う。それだけでも凄いことだ。そして、こうしている間も、不安と恐怖で打ちひしがれているに違いないであろう。それは、私や私の周りにいる人間たちにとっても同じことだ。』
(バッテリー残量78%…まだまだ大丈夫ね。)
『しかし、希望を失わないで欲しい。我々は、絶体絶命の危機から奇跡的に生き延びることができたのだ。この船を不時着させるために、バリー操縦士は他界した。今の全ての人の命は彼のお陰であったと言っても過言ではない。』
また一呼吸が置かれる。
コズモたちは知らないだろうが、今、外層に辿り着けている全ての人間がこの放送に細心の注意を払い、多くのものは涙を流していた。我らが船長、よくぞご無事で…
『そして、今更ではあるが、謝罪もさせて欲しい。船の行く末にとって、最も良い選択をしてきたつもりであったが、我々が至らぬせいで、このような状況を招いてしまった。』
多くの人々は首を横に振っていた。
コズモ船長が生きている…それだけで、どれだけの多くの人間に希望を与えたのだろうか。そういう意味では、ミズナの目論見は大成功であったと言える。
『今の船の状況を説明しておきたい。我々は、船首の地下、いわゆる外層に巨大ベースを構築中である。安全な場所や行き場のない人間は、ここに集まってほしい。そこいらに地図も貼っているので、それを頼りに来てほしい。そして、我々が今まで報告に受けたところによると、船内には無数の生物が集まってきているようだが、人間に害を与えるであろう三種の生物を紹介する。』
コズモは、咳払いをして続ける。
『先ずは、巨大なミジンコのような見た目をした、体長1メートルほどの生物。我々はこれを、ミ、ミジーと名付けた。』
このふざけた名前はなんとかならなかったのか!コズモはうぅっと唸る。
「ミミジー?」
なんとなく私の名前から取ってないだろうな、とミズナは一瞬疑った。
『い、いや、ミジーだ。ミジンコっぽいからミジーだ…命名したのはこの生物を解析した学者である。ええっと、それから、大きなキュウリのような生物、こいつは…キュリーだ。キュ、キュウリっぽいから…それと、緑の球体の…マリモに脚が生えたような、ぴょんぴょん飛び跳ねる生物、こいつは…モリーマだ!』
ミズナは、マジか、という目でコズモを見る。
バツが悪くなり、コズモはミズナのことは見ないようにして続ける。
『と、とにかく、ミジーとキュリーとモリーマ、この三種の生物はかなり広く我らの船に侵入し、積極的に人を襲っているという報告がある。くれぐれもご注意願いたい。その他、体長10cm〜50cmほどの小動物又は爬虫類に似た類の生物の目撃例もあるらしいが、これらの生物は大抵人が近づくと去っていくらしいので、今のところは害獣に認定しないでおく。』
第六区では、ミジーの死体を椅子がわりにしている暗殺組織No.2のウールが「ハ!!まだその程度の情報か。」と先ほど仕留めた身体中にキノコをつけた虎のような生物を睨みながら捨て台詞を吐く。
『今から、まずはこの学者の見地を説明する。あくまでも、推測に基づいていることをご了承願う。さて、このように我らの船に生物が侵入してきているところを見ると、船のどこかに穴が空いているのは確実であるが、同時にそれほど大きな穴ではないことが推測される。事前のハルモニアの地表調査で見受けられた生物には巨大な生物も珍しくはなかったからだ。そして、恐らく我々は、このミジーとキュリーとモリーマが多く生息する地域に不時着。外気が入り込んでいて、これが霧になっているところを見ると、恐らく外は霧で覆われており、もしかしたらこのせいでいまだにゾアンには見つかっていない可能性がある…』
⭐︎⭐︎⭐︎
「ゾアンは、多分近くにはいないと思うわ…」
第四区まで辿り着き、自宅まで目前に来ていたグレースは、コズモのアナウンスを聞きながら語る。
「病気が治ってから、能力がなくなってしまったとか?」
ダニーが尋ねる。
「いいえ、むしろ、病気が治った直後、スペッツ、ミドリコニト、マンゴーの声は、よりハッキリ聞こえるようになっていたわ。それこそ、かなり遠い距離まで行っても声が聞こえていたのよ。それが、ここだと聞こえないわ…その代わり。」
「…その代わり?」
「ゾアンではない、別の生物の波長を時々感じるの…しかも、すごい、嫌な感じの。」
グレースは少し身震いをした。
第13話『二百年前の惨劇』へと続く
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