第6話 運命はどちらへ

刑務所から離れていくように男は歩いていた。

時折人がうずくまっていたり、集まって話をしたりしていたが、男はそんなことは構わずに流れに任せるように歩いていた。


(は、初めて予知夢が外れた…のか?確かに船は墜落して全ては終わりのはずだったのに……う、運命は、か、変えることができるのか!?)


オムニ・ジェネシス最大の危機的状況に、男は口を押さえながら見てはいけないものでも見てしまったような表情で歩いていた。


(運命は変えられる……運命は変えられる……運命は変えられる……)


念仏でも唱えるようにブツブツと小声でつぶやきながら、時たまヒヒヒと微かに

笑いながら歩く様はさぞ薄気味悪い印象を与えただろうが、オムニ・ジェネシス内ではもはや気が狂いそうになっている人ばかりで、この混沌の中まともに見えるほうがむしろ不自然であった。


男の名はレイナー。


オムニジェネシスがハルモニアに総攻撃をかける直前、コズモの前に立ちはだかり、総攻撃を止めるように直訴して、警察に捕まり収監されていた受刑者であった。


(なぜ俺は、こっちに向かうことにこだわっているのだろう。行け、と言われた気もする。なぜか、こっちに行かなくてはいけない気がする……なぜだ?)


レイナーは沢山の人々とすれ違う。ほとんどの人間は逆方向、いわゆる船の中央制御室のあるリトル・リーキーへと向かっているようだ。


(今までは、どうあがいても結末は変わらなかったのに、なぜ、今回は?)


思い返してみる。


運命は、どこからが違っていたのか。

一連の出来事が、どこでズレたのか…?


レイナーはピタリと立ち止まった。


(い、いや、違うぞ。よくよく考えてみれば、全てが夢で見た通りだったなんてこと

はないじゃないか。)


再び詳しく状況を思い起こす。


(微妙にズレたことがあったのは…俺が運命に抗うような行動をとった時…?)


レイナーは目を瞑る。


(いや、そうに違いない。見逃していただけだ!じっとしていれば、運命はまるで手

繰り寄せられるようにまた軌道に乗り始めるけど…そうだ!そういうことか!必

ず夢と同じ結末が待っているというわけじゃない。俺が結末を諦めた時に、運命

は結末に戻るのだ!!)


そして男はまた考えを始める。


(あの日、運命を知った俺は錯乱して死ぬほど酒を飲んで船長に突っかかっ

ていった。あれか?あれが運命を変えたのか?でもどうして…)



⭐︎⭐︎⭐︎



レイナーは知らなかった。


コズモにハルモニアへの総攻撃を止めるように直訴しに行ったあの日、ビルの前でレイナーが起こしたちょっとした騒ぎを見学していたバリーは、その脚で仕事に必要な物を取りに倉庫へと向かった。


一連の騒ぎが収束するのを見てから取りに行ったので、倉庫へ行くのが普段よりも一時間ほど遅かったのだ。


バリーが倉庫に行くと、奥から「キャッ!」という短い悲鳴が聞こえたような気がした。


バリーは何事かと思い、音を立てぬように少しずつ近づく。

すると、口と身体を壁に押さえつけられている女性と目が合う。

押さえつけていたのは、息子のハリーだった。


「そこで何をしている…?」


息子のハリーはギョッとなって、バッと振り向く。目は血走っていた。

ハリーはパッと女性から手を放す。

女性はヘタヘタと座りこんでしまった。


「あ、お、親父。いや、これは。」


ハリーは座り込んだ女性に目を配ると、女性は徐に走り出そうとしたので、ハリーがその手を掴む。


「誰かー―― !!!助けっ」


言いかけたところで、電気が弾ける音が数秒したと思うと、女性は気を失った。

ハリーの手には、スタンガンが握られていた。


バリーはバツの悪いスリラー映画でも見ているような感覚を覚えた。

たった今、息子が女性をスタンガンで気絶させたのだ。

バリーとハリーの目が合う。


「いや、ちょっと、軽く脅してやろうかなと思っただけだったんだよ。こいつ、

合コンでも舐めた態度でさ。ここの倉庫番の職員だって聞いたから、呼び出して、

ちょっと立場を分からせてやろうかなって、軽く…別に変なことするつもりは………」


そこまで言うと、バリーは思い切りハリーの顔面を殴りつけた。


「お、おやじ……」


バリーはうずくまったハリーを立たせる。


「おまえは、おまえは……なんで、いつも、こんな。」


バリーは涙を流しながら何度もハリーを殴った。

気づくとハリーは気を失ってい

た。


同じ頃、女性が目を覚ます。殴られて気を失っているハリーと、拳に血のついた

バリーが泣いている姿が目に入る。


「バ、バリー操縦士……」


バリーが女性に気付くと、「す、すまない……息子は、貴方になんてことを………」

バリーは歯を食いしばって言葉を振り絞った。


女性は気を失ったハリーを見ながら落ち着きを取り戻し、何が起こったのかを理解した。


「……この一件はオムニ警察にご報告させていただきます。よろしいですね。」


バリーは首を縦に振る。

その後、事情聴取が行われ、弁護士を通じてバリーが多額の示談金を支払い、事は終結した。


そして、スタンガンはバリーが押収した。


そして、この時に手に入れたスタンガンが思わぬ活躍をする。

自らが不時着するために操縦をするためにコズモを気絶さえ、バリーは命をかけて不時着を成功させたのだった。


バリーが船の中で思った通り、コズモが操縦していた場合、不時着には失敗していたのが本当の運命であった………



レイナーには、知る由もなかった。



第7話「復旧と課題」へと続く

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