第1話 孤独な戦い

オムニ・ジェネシス墜落…の混乱の中、人々は我先にとポッドに入り込んでゆく。

EMP波との接触まで、もう数秒というカウントダウンが始まっていた。


ただ一人リトル・チーキーに残されたバリーは、不時着のための準備に入った。

コズモの席の見慣れた操縦レイアウトはとっくにフロアに沈んで無くなっており、代わりに見慣れないハンドルバーとスイッチの数々が現れていたが、バリーは地球時代の思い出にと、たまにこういった操作のシュミレーションで遊んでいたので、すぐにどう動かせばいいのかを理解した。


シートベルトをキツく締めて、身体能力を一時的に向上させるという覚醒ドリンクを飲む。無論違法ものだ。


ミズナの言った通りにEMP波に突入すると、船内のほとんどのマシンが停止して、船体が大きく揺れ始めた。


孤独な戦いの始まりだった。


マニュアルで点火できるブースターと操縦桿そうじゅうかんだけが機能する。


そして間も無く、オムニ・ジェネシスは大気圏へと突入する。

振動が増して、バリーは力一杯操縦桿を握る。

EMP波を喰らう直前までのAI操縦で、大気圏への入射角度は完璧であるはずだが、マニュアル動作を誤ってコースをそらしてはいけない。


(このまま方向を維持し、勢いを失わないためにもブースターを定期的に点火し、先ずは大気圏を抜ける!)


バリーは滲み出る汗を拭こうともしない。

歯を食いしばりながら、操縦桿を握って離さない。


揺れが急に収まる。

大気圏を抜けたのだ。


そしてその下に見えたのは、どこまでも続く真っ白な雲だった。


仕事はここからだ!


…速度を落とし、出来るだけゆっくりと

…ブースターを制御し、出来るだけフラットに

…インパクトの瞬間は、出来るだけ揺らさずにそっと


バリーは全神経を機体と一体となる感覚に注いだ。


ブースターを定期的に逆噴射してブレーキをかけながら進む。

機械サポートがないので、肌感覚でやるしかない。

少しずつ、少しずつ…


そして、濃い雲に突入していく。視界が遮られる。


バリーは相変わらず神経を研ぎ澄ましながら操縦桿そうじゅうかんを握る。


雲を出てからが勝負だ、と思っていたが、不測の事態が起こる。

いつまで経っても雲から出れない。


長年パイロットをしてきた経験のあるバリーは、これが延々と続く濃い霧であることに気付き始める。

(なんてこった!!こんな時にこの悪天候かよ!)


バリーはオムニ・ジェネシスの運命を呪った。

しかし、諦めるわけにはいかない。


バリーは思い切って逆噴射を細かく出して速度を落とし、かなり速度が落ちたところで、ブースターと逆噴射をこまめに切り替えてスロースピードを維持する。これで平行に機体を保ちながら、急降下しないように飛ばさなくてはいけないのだ。


もういつ機体が地面に着くのかわからない。せめてあと何秒で地面に着くのかが分かれば、それに合わせて速度を落とせるのだが…


さらに、しばらく視界を遮られたせいで、平衡感覚が麻痺する。


バリーは素早くポケットから錠剤を取り出す。

その錠剤をカップの中にいれた。少しでも傾けば、錠剤は転がる…

その転がり具合を見て、船をよりフラットにするように調整する。

バリーはもはや、錠剤しか見ていなかった。


オムニ・ジェネシスは円筒の形状のせいでスポイラーや着陸用の車輪がついていない。操縦桿は最早じゃじゃ馬で、気を抜けば勝手に動く。


この状態で安全に不時着させようなどとは、目を瞑って綱渡りをしているような神業に挑戦するようなものだ。


(泣き言を言ってる場合じゃねえな。これは長年オムニ・ジェネシスをいじってきた俺じゃないと…)


バリーはチラッとコズモが連れ去られた方向を見た。


(俺がパイロットで良かった。この操縦は、コズモ船長では無理だ…)


濃霧対策ゴーグルを取りにいく余裕もない。

山のようなものに激突すれば、一貫の終わり。

もはや、運を天に任せるしかなかった。


ドォォォン!!


急に爆音と共にバリーはとてつもない衝撃に襲われて、暴れ始めた操縦桿を、握り潰すような勢いで握った。




第2話 「英雄」へと続く

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オムニ・ジェネシス 第二部 海藻ネオ @NoriWakame

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