タイトルにいう「デリヘル」とは、「店舗がなく、客のいる自宅やホテルなどに風俗嬢を派遣し性的サービスを行う業態」(出典:ウィキペディア)の性風俗店、いわゆる「デリバリーヘルス」の略。
――なんて説明は必要ないかもしれませんね。総じていわゆる「夜職」は、怪談と結びつけられることが多い気がします。
本作は、そんな業界で働く「恵美さん」から聞いたさまざまな話を、彼女の飲み友達となった(小説家志望の?)書き手が小説の体裁にまとめたもの、という触れ込みです。『デリヘル怪談』というタイトルも「恵美さん」の発案なのだとか。
同じ仕事にかかわるさまざまな人々(風俗嬢だけでなく、店長、オーナー、ドライバーなど)の「体験談」が、このレビューを書いている時点で全九十六話。
百話まで掲載される予定とのことなので、いわば令和版「百物語」というところでしょうか。
ただ「怪談」とは言っても、よくいう「怖い話」ばかりとはかぎりません。ちょっと不思議だけど近くで起きてもおかしくないような話もあれば、想像を絶するような奇妙な話もおさめられています(もともと「怪談」という言葉も「不思議な話」を意味したようですね)。
もちろん、本作は「フィクション」です。作者の瘴気領域さんがもつ引き出しの多さ、想像力=創造力の豊かさには驚かされます。
「不思議」な部分をのぞけば、描かれている出来事は、実話にもとづくのではと思うほどリアルです。実在の関係者などからいろいろな話を聞いてきたのだとしても、よくこんな話を思いつくなぁ、と感心します。
現在、103エピソードで134,727文字なので、一つ一つのエピソードは平均して1,000字強といったところ。衒いがなく読みやすい文章のおかげもあり、さらりと読めてしまいますが、まるでフィールド調査にもとづいた民俗学や人類学の著作を読んでいるかのような気分になります。
そう、まさに令和版「百物語」ですね。百物語は、参加者が夜通し代わる代わる怪談を披露し、最後の百話目が終わると怪異があらわれるとされています。
まもなく百話。最終話までカウントダウンです! その時なにが起きるのか? 今からでも遅くはありません。ぜひその目で見届けてみてください!