リルーナの目的1

「いつも帰り遅くてごめんねー。大丈夫だった? 押し売りとか来なかった?」


 リルーナが来てから一週間がたった。


 正直色々不安はあったけれど、今はその不安が嘘のように、家に帰るのが待ち遠しくなっている。


 笑顔で「大丈夫でした」と答えるリルーナに、私は気づかなかっただけで、寂しかったんだなと実感する。


 ルンルンで靴を脱ぎ、リルーナとともにリビングへ向かう。


 ガチャ、とドアを開ける。すると、リビングが変わっていることに気づいた。


「綺麗になってる!?」


 いつも散らばっている服や靴下がなくなっており、洗面所を見てみると綺麗に積まれていた。


「掃除してくれたの? 全然放置してても良かったのに」


 あまりの嬉しさに私は、隣にいるリルーナの頭を撫でようとする。


「いえ、私にできることは……これだけなので」


 しかしリルーナの複雑そうな顔を見て、止まってしまう。


 最初は具合でも悪いのかと思ったのだが、リルーナの言葉で、私はあることを思い出した。


 この一週間、リルーナは私が普段やっている洗濯や料理などの家事を見て、どうやってするのかを質問してきていた。


 そういうのに興味があるのかと思い、色々教えていた。しかし初めて触るものが多いのか、リルーナは上手く出来なかった。


 しかしリルーナは興味を無くすどころか、どうやって上手くできるのかを聞いてきた。


 何故そこまでして家事にこだわるのか、今までは分からなかった。が、今のリルーナの表情を見ればすぐにわかる。


 多分、リルーナは私に恩返しをしたかったんだな、と。


 だからリルーナは、私がちょっとでも休んでいいようにと、あんなにも熱心に聞いて来たんだな。と。


 そんな優しくて、熱心なリルーナを見た私は、思わず抱きついてしまった。


「ちょ、ちょっと真宮さん……急にどうしたんですか!?」

「リルーナー、どこにも行かないでくれよー!。私はリルーナがいるだけで毎日仕事頑張れるんだよー」


 急な出来事に困惑するリルーナ。しかし見間違いだろうか、リルーナの表情は、何か不安が吹っ切れたように、微笑んでいたような気がした。


 しかしすぐに、リルーナは切り替えるかのようにいつもの顔に戻り、私を引き剥がした。


「本当にどうしたんですか、急に抱きつくなんて……今までそんなことやってこなかったじゃないですか」


 両手でガードしつつ、私に問いたしてきた。


「いやー何となく、抱きつきたくなったっていうかー」


 リルーナの言葉に私は、少し迷いつつも、真実をはぐらかす。


 このままリルーナに恩返しのことを言うことだってできる。けどそれは、リルーナがやろうとしていることを邪魔してしまうんじゃないか。そう思ってしまったからだ。


 だったら私は、リルーナが満足するような恩返しをするまで待つべきなんじゃないか。


 たとえリルーナが……恩返しをやめたって私は構わない。


 だってそれはリルーナが望んた事だし……それに――。


 と、私はリルーナの名前を呼び、笑顔で話した。


「これだけは覚えといて、私はリルーナがいるおかげで、今日も生きれた。リルーナが家でただいまって言ってくれるから、笑顔でいられた。だからリルーナ、あんまり考え込まないで、私はリルーナが笑顔でいるだけで、頑張れるんだから」

「……っ!」


 その瞬間、リルーナは目を見開いた。しかしその後、隠すように顔を隠してしまった。


「……まったく、本当に人間は何を考えてるか分かりません」

「えぇ、そうかな?」

「だから怖いんですよ。人間は……」


 そんなことを言い、そっぽを向いてしまったリルーナ。しかし私には……リルーナの表情は怖がっているようには、見えなかった。

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ある日の帰り道、人間に怯える吸血鬼と出会った なんでだよ @Nandedayo

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