ある日の帰り道、人間に怯える吸血鬼に出会った3

「じゃあどうやって私は君を助けたの?」

「それは――」

 

 そういうと、少女はベットの下にあるゴミ箱に手を伸ばし、あるものを取り出した。

 

「あなたがこれを買ってきてくれたからですよ」

 

 手を持っているのはトマト100%と書かれているトマトジュースであった。

 

「……え? 今の吸血鬼ってそんなんで代用できるの?」

 

 確かにトマトジュースで生きる吸血鬼は聞いたことはあるが……。

 

「あーみんながみんなトマトジュースって訳じゃないです。私だけで」


「そうなんだ。でもどうして?」

 

 その言葉に、少女は躊躇いつつも、答えた。

 

「私、子供の頃から、人間を見ると怖さで体が震えて、血を吸うどころじゃ無くなっちゃうんです」

「……吸血鬼なのに?」

「……はい、なのでそのころから血の代わりにトマトジュースを飲んでいて、そのおかげで体が馴染んだみたいで……」

「なるほどねー、吸血鬼が人間を恐れる……か」

 

 血が飲めない以外普通の吸血鬼。だったら力は人間よりあるはず。そもそも不死身なんだから恐れる理由が分からない。

 そう思っていると、少女が何かを思い出し、震えながら答えた。

「だって怖いじゃないですか。私子供の頃、【アメリカン・サ〇コ】っていう本見ちゃったんです。最初めちゃくちゃいい人そうな主人公が、夜あんなにも狂気的になる姿を。これを見て怖がらない方がおかしいですよ。こんなにも何考えているのか分からない生物初めてです」

 

 初めて長文を熱弁する少女を、私は、まぁ人間の私ですら他人の考えなんて分からないしな、と納得した。がまたもや疑問が一つ生まれた。

 

「あれ? じゃあなんで私と普通に話せてるの?」

 

 私も同じく人間だ。確かに昨日の夜に会った時は、震えていたのかもしれないが、今は少し怯えてはいるが、震えているようには見えない。

 

 これで私の顔が人間には思えなかったとか言われたら、私は死のうと思う。

 

 そんな回答を想像しながら、私は少女の言葉を待った。

 

 すると少女は、何故か顔を赤らめた。

 

「それは……昨日の夜、あなたが私のことを……」

 

「ちょっと待って! 私、君のこと襲ってないんだよね?」

「……」

「なんで黙るの!? ちょっと、ねぇ――!」



 何度も聞いても、少女は約束があるといい、昨日の夜の出来事を教えてくれなかった。

 

 私もそう言われると聞き出すことはできず、仕方がないと思い、話を変えた。

 

「そういえばまだ君の名前聞いてなかったね。私は真宮友恵」

「リルーナ・ヴァネッサです。真宮さん、何度も助けていただいてありがとうございます」

「いいって、それよりこれからどうするの? 家もないんだよね、いくとことか決まってる?」

「……いえ、急に追い出されてしまったので、何も」

「そう……」

 

 少し俯いてしまった少女。そんな悲しそうな姿に、私は後先のことなど何も考えず、言葉が出てしまった。

 

「じゃあ、私の家で一緒に暮らす?」

「え? でも吸血鬼なんていたら、迷惑どころじゃ……」

「いいって、私の会社残業だらけだから、遊びにもいけなくてお金余っちゃってるんだよね。だからなにも問題ないよ」

「で、でも……」

 

 これ以上迷惑はかけられない、そんな言葉を口にしようとしている少女に、私は――。

 

「私も一人じゃ寂しいからさ、おしゃべり相手がいてくれた方が嬉しい。……それともこんな家じゃ、いや?」

「……! そんなことないです……いいん、ですか?」

 

 今にも泣き出しそうな少女に、私は手を伸ばす。

 

「もし、嫌じゃなかったら、この手を取って、リルーナ」

 

 私が名前を呼ぶと、少女は我慢していたであろう涙が溢れだした。

 

 そして少女は小さな両手で、私の手を掴んだ。

 

「ようこそリルーナ、我が真宮家へ、今日からリルーナは家族だ」

「はい! よろしくお願いします」

 

 少女と私の笑顔が、初めてあった瞬間だった。



 いつもの帰り道、満員電車から降り、狭いホームを抜け、駅を出る。数分歩くと住宅地に入り、家の近くにある赤い橋を渡る。いつもの光景。いつもの日常。しかしここ数日、変わったことがある。それは――――。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 家のドアを開けると、人形のような可愛い笑顔で、帰りを待ってる家族がいることだ。

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ある日の帰り道、人間に怯える吸血鬼と出会った なんでだよ @Nandedayo

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