ある日の帰り道、人間に怯える吸血鬼と出会った2

 なんで感謝されてるの私?

 

「……もしかして、覚えてないですか?」

 

 キョトンとしている私を見て、少女は少し縮こまりながらそう言った。

 

「ごめん、昨日の記憶途中から飛んじゃっててさ……私って、君のこと襲おうとしたよね?」

 

 嘘偽りなく、私は本当のことを口にする。

 

 あそこからどうやったら感謝されるシュチュエーションに持ってけるんだ?

 

 記憶はそこで終わっている。まさか全て夢!?

 

「はい、襲われそうになりました」

 

 いやそれは本当なんかい。

 

 じゃあ、もう考えられる答えは一つしかない……。

 

「もしかして、私のテクが良かった、とか?」

「……っ!? ち、違います!」

 

 私の言葉に顔を赤らめ、またもや距離を離されてしまった。

 

 うん、そうだよね。私経験ないもん上手いはずないよね。私だけ才能があるとか妄想してすいません。

 

 自分のスペックの低さを思い出し、心に傷を負ってしまう。しかしその選択肢も外れたとなると、ますます分からなくなってしまった。

 

 何も思いつかないく、黙ってしまう。

 

 数秒の沈黙、それを破ったのは少女の方だった。

 

「……あなたに襲われそうになった時、私貧血で倒れてしまって、そこであなたが助けてくれました」

「あっそういうこと。てことは私、君に手を出してないの?」

「……はい」

 

 小さく頷く少女に、私は体の力が全て抜けたよな脱力感に襲われた。

 

 良かったー。まだ私、人として超えちゃいけないライン、ちゃんと超えてなかったんだ。

 

 よくやった私のストッパー係、来年の昇給は期待しとけ。

 

 自分で自分を褒めつつ安堵していた私。しかし頭の中でずっと何かが引っかかっているような感覚があった。

 

 なんだろう、何かを忘れているような……。

 

 一つ一つ、引っかかる部分を脳内で探し出す。すると、あるものが引っかかった。それは……。

 

 ってめちゃくちゃ罪犯してるじゃねぇか! 私未成年家まで連れ帰っちゃってるよ!

 

 そう、自分の罪は一つだけではなかったということに。


 何してんだストッパー係! お前はほんとに使えないな! 来年覚悟しとけよ!

 

 見事な手のひら返しを披露した私だが、上昇する心拍数に気づき、頭を振る。

 

 落ち着け、ここは冷静に対処するんだ。まだ諦める訳にはいかない。

 

「ね、ねぇ。君のお家ってここから近いのかな? 良かったら送ってくよ」

 

 なるべくいい人感を出そうと、笑顔で少女に問いかける。

 

 それが効果あったのか、少女が口を開けた。

「近くはない……かな」

「どこの県とか分かる? そうだ、親と連絡取れる? ちょっと君の親とお話することがあって……」

「……ないです」

「え?」

「この惑星には、家も、親もいないです」

 

 ……ん? 私の聞き間違い? 何この惑星にはないって。

 

「えっと……ごめんもう一回言ってくれる?」

「……私、吸血鬼で親に惑星を追い出されたから、この惑星にはどこにもいない、です」

 

 ……あれ? おかしいな、また意味のわからない単語が聞こえたんだけど。

 

 吸血鬼? 惑星? あーまだ私酒残ってるっぽいな。そうに違いない。だって、ただ日差しに当てられている右から段々と砂になってるだけで吸血鬼だなんて――――――砂になってる!?!?




「あ、ありがとうございます。すいません人間と喋ることに集中しすぎて気づきませんでした」

 

 すぐに私がカーテンを閉めたおかげなのか、少女の体から落ちていた砂が、元に戻ってゆく。

 

「いや、無事なら良かったよ。君ほんとに吸血鬼なんだね」

「……信じてくれましたか?」

「まぁ、あんなもの見せられちゃったらね……」

 

 ここまで来てまだ信じない人は、なかなかいないだろう。

 

 でも本当に存在するんだねぇ、吸血鬼なんて。

 

 日光が弱点なあたり、私が知っている吸血鬼なのだろう。他の特徴と言えば、羽があったり……血を飲んだり……ん? そういえば貧血って……まさか!?

 

 すぐに私は、首筋に跡がないかを探す。

 

 聞いたことがある。吸血鬼に血を飲まれれば、一生服従する定めや、私が吸血鬼になってしまう可能性があると。

 

 しかし探せど、少女に着いている八重歯に噛み付かれた跡はなかった。

 

 すると私が首を触る姿を見たのか、吸血鬼からはありえない言葉を言ってきた。

 

「安心してください、私あなたの血、飲んでませんよ」

「……え?」

「そもそも私、人間の血、飲めないので」

 

 真面目な顔をしながら話す少女。私はその顔を見ると、とても嘘をついているようには見えなかった。

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