ある日の帰り道、人間に怯える吸血鬼と出会った

なんでだよ

ある日の帰り道、人間に怯える吸血鬼と出会った1

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いつもの帰り道、満員電車から降り、狭いホームを抜け、駅を出る。数分歩くと住宅地に入り、家の近くにある赤い橋を渡り家を目指す。いつもの光景。いつもの日常。しかしここ数日、変わったことがある。それは――――。

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 家のドアを開けると、人形のような可愛い笑顔で、帰りを待ってる家族がいることだ。

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「あー視界が歪む。さすがに飲みすぎた」


 会社の飲み会終わり、一人で家に帰る私、真宮友恵二十四歳はお酒の力で少し、情緒が不安定になっていた。

 

 ったくあのクソ上司、何が死んだ目をしてるからもっと飲めだ。お前のせいでこんな目になってんだよ。

 

 仕事の愚痴を口にしながら、上司の顔を地面に思い出し、蹴り歩く。

 

 しばらくし、上司の顔が腫れ上がったころ、いつの間にか住宅地に差し掛かっていた。

 

 やっとだ、早く帰ってもふもふのベットに飛び込もう。

 そう思いながら、いつも通る赤い橋を見つけ、渡ろうとした。その時――。

 

「タ、タベチャウゾ」

 

 か弱で小さな少女の声が、後ろから聞こえた。

 

 普段ならこんな声が聞こえたら、幽霊などホラー展開を想像するだろう。しかし今の私はお酒の力で危機感知能力が低下しており、それ以上に可愛すぎる声であったため、不意にも振り向いてしまった。

 

「…………」

 私はそこにいた少女の姿に、固まってしまった。

 

 十代前半程の年齢の少女。白髪を腰まで伸ばしており、目の色は赤。口には刃がキラリと輝き、黒い衣装をまとったその姿はまるで、吸血鬼のようだった。

 

 しかし私は、その姿よりも少女がしているポーズに目がいってしまった。

 

 威嚇だろうか、手を上にあげ、体を大きく見せようとしていた。しかし時間が経つにつれ、腰が引いてゆき、徐々に手が落ち、頭の上に手が乗ってしまい、猫のポーズになっていた。

 

 その小柄で今にも「にゃぁー」と鳴きそうな少女を見た私は、保たれていた理性が吹っ飛んでしまった。

 可愛い! なんて可愛いんだ!

 

「食べる? いいよ!」

「……え?」

「どうやって食べる? 私はあなたに食べられるならなんでもいいよ!」

 

 自分でもわかるほどに鼻息を荒くし、少女に少しづつ近づいてゆく。

 

「さぁ! さぁー!」

「いやあああああーーー」

 

 少女の叫びが鼓膜に響き、そこで私は意識を失った。



 ぴよぴよぴよ。そんな音が聞こえてくる。

 

 いつも間にか閉じていた瞼を、小さく開ける。

 

 最初に映ったのは、自分の家の白い天井、体から伝わる柔らかな感触から、ベットに眠っていたことがわかった。

 

 やべー、昨日の記憶途中から飛んじゃってるわ。私どうやって家に帰ってきたっけ?

 

 昨日の記憶を頭の中で思い出すも、飲み会の帰りにつれ、徐々に記憶が薄れていることがわかった。

 

 ……まぁいいか、なんでも。

 

 無事、家に帰っただけで偉いと思い、今の時間を確認しようと手だけでスマホを探る。

 

 たしかいつもここら辺に……ん?

 

 私が寝ているすぐ隣らへんで、もちもちした何かを触った。

 

 なんだこれ? いつまでも触っていたいようなこの感触は……。

 

 まだ眠たい目を向け、そのものを確認する。

 

「……うわぁ!?」

 

 右手で触っていたその物は、小さく体を丸めていた少女の胸だった。

 

 な、なんで私の家に子供がいるんだ? ちょっと待ってこの子供、たしか夜に会ったような……。

 

 微かな記憶を思い出す。だが思い出す度に、私の顔が青ざめてゆく。

 

 もしかして私、やっちゃった!?

 【ニュース 少女を攫い、性的行為を繰り返した真宮容疑者】そうテレビに出る自分を想像してしまう。

 

 バタバタしてしまい、どうしようかと頭を抱える私。するとその音に反応したのか、眠っていた少女が目を擦りながら体を起こした。

 

 そして不意にも、少女と目が合ってしまう。


 寝癖であらゆる方向にぴょこっと跳ねている髪、まだ眠いのか、目を擦る少女。カーテンから抜ける朝日が、そんな姿を神々しく照らす。まるで女神が舞い降りたかのようなその可愛らしさに、私はお酒が抜けているのにもかかわらず、再びときめいてしまった。

 

 しかしそんな少女が、私の顔を見た瞬間、「ひっ!」と声を上げ、引いた。

 

 こんな顔させるって私どんなことやったの!?

 

 少女の顔で我に返った私。そうだ、まずは謝んないと。許されないことはわかってるけど、それでも罪の償いとしてやることはやらないと。

 

 そう思い、私は今にも逃げ出しそうな少女に体を向け、頭を下げようとした。――その時。

 

「あ、ありが……」

「……え?」

 少女が先に小さく口を開けた。

 

「昨日は、ありがとうございました……」

「えぇ……?」

 

 意味が分からない謎の感謝に、私の頭は真っ白になってしまった。

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