第十一夜
@oryo
第十一夜
こんな夢を見た。
真っ白い
樹下に在ったのは薄桃色の花。花が密集しているのを見ると、
自分は何かを忘れてしまっているような強迫観念に駆られ、半ば強引に
「いいや、私はあそこを目指してはいない。もとよりあそこ行く資格も、思い出す権利もまだ持ち得ないのだ、お前とは違って」
推測だが男と自分は初対面である。にも拘らず随分と
自分は
「聞こえるかい」
男の声が聞こえた。
「そうさ。だけれど私は辿り着きそうにはない。着けば、その
同じだ、返答まで。違うのは自分がその発言を理解しつつあること。その真意に手を掛けようとしていることだ。忘れていたこと、が明確化している。自分はその答えの
「歩め。走れ。
言い終える前には進んでいた。世界がじんわりと色付き、彩られる。白黒の世界に誰かが絵の具を零す。いや、本当はもう誰が施したのか理解しているのかもしれない。覚悟溢れんばかりの前進。どんっ! 鈍く響く。自分でも
靄は突如に途絶える。何年も目指していた、いただきに自分は立っている。真実を受け止めている。木の横には赤色の紫陽花が自生していた。靄で色が薄くなっていて赤が薄桃で見えていたのだなと気づいた。木の幹を一周するように咲いている紫陽花、これらには通常香りがない。
「間違ってはいなかったとも。木の側には春があった」
視界が光で一杯になった。過去に感じたあの
──目が覚めた。自分が知り尽くし何度も見た天井だ。我が家だ。窓掛けから細く光が漏れている。勢い良く開くと、目を細めてしまうほどに輝かしい陽が差す、良き朝だ。用を足して手を洗う。
第十一夜 @oryo
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