第2話 ギルドマスター
ヒーラーというのは冒険者に与えられる役職である。
ゆえにまず最初に向かうは冒険者ギルドだ。
カタルジア王国に本部を置く冒険者ギルドにちょうど一人、知り合いがいる。
世界最大の流通国は伊達ではないようで、賑わいを見せていた。
王都レガンで一層目立つ大きな建物こそがギルド本部だ。
ギルドが近づくにつれて増えていく、武装した者たち。
武器を身につけている者や、杖を持ち歩いている者。
この光景には、昔の頃を思い出させられる。
「ようこそお越しくださいました。本日はどのような御用でしょうか?」
受付嬢がテンプレートな挨拶をしてきたので、率直に目的を述べる。
「ここのギルドマスターはいるか?会って話がしたい」
「あっ……えっと、それは一体どういう……?」
「そのままの意味だ。ギルドマスターを出してくれ」
しかし受付嬢はたじろぎ動揺するだけでギルドマスターを呼びに行こうとしない。
歳は俺よりも若いだろうがそれほど変わらないだろう。
新人の受付嬢なのかもしれない。
「すっ、すいません……!く、クレームは、その、お控えくださいぃ……」
あれ、俺もしかしてクレーマーだと思われている?
彼女と言い合っているうちにいつの間にか周囲の視線がこちらへ向いている。
明らかに厄介者扱いの目を向けられてしまっている。
「申し訳ございません、この子まだ入ったばかりで教育中でして……それで、ギルドマスターにどのような御用でしょうか?」
彼女の横から現れたもう一人の受付嬢が対応を変わるようだ。
「ここのギルドマスターとは知り合いだ。アラン・ボライカが来た、とだけでも伝えてくれるか?」
「……分かりました。少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか」
「構わない。ここで待っていよう」
不審な表情を浮かべつつも、彼女はギルドマスターへ伝えるべく奥の方へと消えていった。
考えてみれば、クレーマーはところ構わず責任者を呼ぶ厄介者だ。
ギルドにやってきていきなりギルドマスターを呼べと言うような奴には、警戒して当然だ。
「悪かったな」
そこにいる新人の受付嬢の彼女に一言謝罪をした。
俺が言葉を発しただけでビクんと身体を震わせている。
本当に悪いことをしてしまった。
どうか俺が原因で受付嬢を辞めなければいいが……
先ほどの受付嬢が戻ってきて、問題なくギルドマスターの元へと案内されることとなった。
扉を開けた先には件のギルドマスターである大柄な男が立って出迎えてきた。
「よくぞ来た。さあ入れ」
俺とアイコンタクトを取りながら、肩に腕を回してきた。
受付嬢は扉の前で折り返し、受付へと戻っていった。
俺は椅子へ座り、男が扉を閉めた。
「お久しぶりです、アラン様」
腰を綺麗に曲げて丁寧な口調で申した。
「先ほどの無礼な行動をお許しください。もしやまたお忍びで来たのかと思い……」
「いやいい。お前の言う通り身分は隠しているからな。久しぶりだオグン」
大公神官になる以前の知り合いの一人で、かつての後輩だ。
「お前がギルドマスターになると聞いた時は驚いたぞ。あのヒヨッコが長の座に就くだなんてな」
「ははっ、アラン様からしたら私はまだまだです」
荒くれ者ばかりの冒険者をまとめるというのはそう簡単なことではない。
ギルドマスターがひ弱では誰も下につかないし、力で支配しようものなら信頼など得られない。
以前会った時と比べると、体つきがだいぶ良くなっている。
見た感じではギルドマスターになった今でも鍛錬を積んでいるのだろう。
まだまだやれるといった風格だ。
「なぁオグン、少し力を貸してほしい」
「分かりました。どのような用件ですか?」
「ちょっとばかり教育をしようと思っている。冒険者として融通が効くようにしてもらいたい」
女神からの御告げを他人に明かすわけにはいかない。
それはオグンも理解しているだろう。
「……それは、またアラン様が冒険者をなさるということですか?」
「そうだ。とりあえず適当に冒険者証を作ることはできるか?」
ランクなどはどうでもいいのだ。
目立たず、平凡な冒険者として身分を隠せれば一番いい。
「申し訳ないですが、いくらギルドマスターの権限を行使してもそれはできないです。アラン様直々に登録を受けていただかないと……」
恐る恐る、俺の顔色を窺いながらそう言った。
「……そうか、それなら仕方がない。それじゃあ冒険者登録をしよう」
俺の身勝手さでオグンの今の地位を失わせるわけにはいかない。
「ありがとうございます。今からすぐに受けますか?」
「お、できるか?それならお願いしたい」
そうしてオグンが呼んだギルドスタッフによって、俺は連れられた。
【大公神官、生意気なメスガキを分からせる旅に出る】ヒーラーを見下す奴らは徹底的に躾ける必要があるようです はるのはるか @nchnngh
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