第2話 せんざんき
「すまんのう、20分ほど遅刻や。待ったか?」
村上幸雄がやって来たのだ。
山瀬と村上はカウンターに座って、ビール瓶から互いに注いでコップをもって乾杯をした。
その時、郁子が注文を受けてきたのだ。
「せんざんきでよろしいですか?」
郁子が云うと、
「ああ、せんざんきでな」
村上が云うが、郁子は、いつもの明るい顔が無いのだ。
ひと月に一回あるか無いかのスターであるが、郁子の今宵は違うのだ。
「典三さん、せんざんき二つ」
郁子は職人の典三に注文を出した。
村上が山瀬の方を聞くと、
「今日は、何か云う事あるんか?」
「俺の事やけど、郁子の事もあるのや」
山瀬は口を出した。
「何や?」
村上が云うと、
「どうしたらええんのや?」
山瀬は、思い切って話を始めた。
「俺は、郁子と出来てしもたんや」
しばらく話は途絶えた。
「…………」
「ほうーー」
村上は、次の言葉が出て来ない。
「で……、あっちの方は?」
村上は中指と人差し指なかに親指を出している。
山瀬はそれを見て、
「ああ、一応の事はやっとる」
「ほう……大したもんや。わしゃ素人の女は知らん。お前大したもんや」
その時、郁子がせんざんきを持ってカウンターの二人に出した。
「ゆっくりしてね」
と云うと郁子は二人に軽く会釈をすると厨房に入って行った。
「せんざんきは、やっぱり旨いのう」
二人は、舌鼓をした。
せんざんきは、ニワトリをぶつ切りにし、醤油、味醂、塩、しょうが・にんにくを下ろし、生卵を入れて混ぜ二時間ほど寝る。そして、鶏を小麦粉と片栗粉を混ぜてまぶし、160度ぐらいの油で揚げ、少し時間をして180度の油で揚げる。小麦粉と片栗粉の中に残ったたれと水を入れると衣も味があり旨くなる。
「せんざんき」と云う名前は、スターの大将が台湾か上海に居た時、中国人の職人が「チェン・サン・チー」と発音していたのを「せん・ざん・きー」と合わして「せんざんき」と名前を付けていたようです。意味は、千(せん)、斬(ざん)、鶏(き)の事だと思います。
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