ニュース解説for kids

ムーゴット

五年三組の学級委員

【このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。】




小学校五年三組の朝のホームルームが始まる前のひと時。


佐糸雨さいとう「昨日、俺、職員室に呼ばれたんだよ。」


服神ふくしん「どーしたの?」


佐糸雨さいとう「先週、北校舎の窓ガラス割ったあれ、

バレて怒られた。」


服神ふくしん「あっ、掃除時間にホウキでホッケーしてた、あれ!」


佐糸雨さいとう「そう、あれ。

チックったの、お前じゃないよな!」


服神ふくしん「そんな事しないよ。学級委員様に歯向かうことはしないよ。」


佐糸雨さいとう「だよな。じゃあ、あの時、現場にいた何人かの中の誰かだな。」

「誰だか見つけて、文句言わないと気が済まない。」

「だって、割ったのは俺だけど、みんなで遊んでたんだよ。

俺だけが悪いんじゃない。」


服神ふくしん「まあ、佐糸雨さいとうが一番はしゃいでいたって聞いたよ、無茶したんだな。」


佐糸雨さいとうは、鬼の形相ぎょうそうにらむ。


服神ふくしん「ごめん、チクった奴が一番悪い。」


佐糸雨さいとう「そうだよ。よし、犯人探ししようぜ。絶対に許さない。」







帰りのホームルームの後。


否無羅いなむら極永きょくながくん、明日の図書委員会のことなんだけど、、、。」


極永きょくなが「、、、、ぅん。」


否無羅いなむら「あれ、なんか今日は元気ないね。どうかしたの?」


極永きょくなが「ぅん、、、、ちょっと、ね。」


否無羅いなむら「なによぉ、気になるじゃない。晴子はるこさんに理由を言ってみな。」


極永きょくなが「ぅん、ダメだ、言えない。」


否無羅いなむら「私は困っている人の味方だよ。教えて。」


極永きょくなが「誰にも内緒ないしょだよ。」


否無羅いなむら「約束する。極永きょくながを守るよ。言ってみて。」


極永きょくなが「実は、、、。」


そこへ、学級委員の佐糸雨さいとう乱入らんにゅう


佐糸雨さいとう「おーい、極永きょくなが、みんなから話は聞いたぞ。

お前がチクったんだな。お前だけ良い子になりやがって。」


極永きょくなが「ぼ、僕は悪いことしたから謝りに行ったんだ。

状況の説明をするように言われたから、話しただけだよ。

チクったんじゃないよ。」


否無羅いなむら「ちょっと待てよ、佐糸雨さいとう!なんの話だよ!?」


佐糸雨さいとう「信頼していた友達の極永きょくながくんに、裏切られたから、怒っているんだよ。」


否無羅いなむら「へぇ、裏切られたとか、よく言えたね。

私、知ってるよ。前から極永きょくながのこと、いじめていたでしょう!」


佐糸雨さいとう「違うよ。極永きょくながは、大切な俺のチームの仲間だ。」


否無羅いなむら「そういって、都合よくパシリにしてたじゃない!」


佐糸雨さいとう「デタラメ言うな!女だからって容赦ようしゃしないぞ!」


否無羅いなむら「なに!?おどすの!?やってみなさいよ!」


極永きょくなが否無羅いなむらさん!もういいよ!やめてよ!」

「僕は佐糸雨さいとうくんのチームなんだから。」


佐糸雨さいとう「よーし、わかればいいんだよ。

じゃあ、行こうか。」

極永きょくなが佐糸雨さいとうに連れられて行った。


否無羅いなむら極永きょくながに何かしたら、許さないぞ」


佐糸雨さいとう「はい、はい、六班の班長様」


その場はほこを収めるしかない否無羅いなむら 晴子はるこだった。







でも、次の日から、極永きょくながくんは、学校に出てこなくなった。







後日のホームルームで。


否無羅いなむら「先生、みんなに話したい事があります。」


先生「はい、否無羅いなむら 晴子はるこさん、どうぞ。」


否無羅いなむら極永きょくながくんが学校を休んで、もう一週間になります。

先生は、体調が悪いと言っていましたが、

本当の理由を私は知っています。」

極永きょくながくんはいじめに遭っていました。

犯人は、学級委員の佐糸雨さいとうくんです。」


一斉にざわつく教室。


佐糸雨さいとう「えーーー!俺、知らねーし。」


否無羅いなむら「とぼけったってダメよ。」


先生「2人ともちょっと待ちなさい。

何か誤解があるかもしれないよ。

落ち着いて、お互いの話をよく聞きましょう。」

否無羅いなむらさんは、どうしてそう思ったのですか?」


否無羅いなむら「私は、ずいぶん前から佐糸雨さいとうくんのグループで、

極永きょくながくんがいじめられていたのを見ています。」


佐糸雨さいとう「そんな事、してねーよ。」


否無羅いなむら「いつも購買こうばいまでパシリさせてるじゃない!」


佐糸雨さいとう「あれは、あいつが自分から行くって。

足が速いから、任せろって。」


服神ふくしん「そうだよ、あいつは昼休みのサッカー仲間なんだよ。

足が速いから、貴重きちょうな戦力になる大切な仲間なんだよ。」


否無羅いなむら「でも、窓ガラスを割った事で、

極永きょくながくんを裏切り者扱いしたでしょう!」


佐糸雨さいとう「あれは、あいつが自分だけ良い子になろうとしたからだよ。」


先生「それは、もう話し合って解決したでしょう。

極永きょくながくんは、先生に報告するという当たり前の事をしただけだよ。

彼の勇気を尊重そんちょうして、先生はみんなには教えなかったけれど。

もう、みんなにも知れてしまったから言うよ。

悪い出来事を知ってしまったら、恐れずに報告をしてほしい。

報告した人は、怖い思いをしないように、みんなで守るからね。」


否無羅いなむら「先生、でも、極永きょくながくんは守れていないよ。

佐糸雨さいとうが心を改めなければ、第二の極永きょくながくんが現れるよ。」


教室の声「そうだよ、佐糸雨さいとうは前から悪い奴だった。」


教室の声「佐糸雨さいとうは、給食当番をおどして、

好きなおかずを大盛りにさせていたよ。」


教室の声「私も佐糸雨さいとうくんから無茶なお願いされていやな事があった。」


教室の声「掃除当番で、いつもサボってるから困るんだよね。」


教室の声「そうそう、あの時も、、、、。」


教室の声「そうだよ、俺も、、、、。」


先生「みんな、勝手に発言しないで。

ちゃんと根拠こんきょがあって、真実である事を、責任を持って発言するように。」


発言がなくなり、シーンと静まり返る教室。


先生「では、来週の学級会は、ちょうど後期の学級委員を決める会です。

そこでみんなでちゃんと話合って、

五年三組をよくしていけるように、考えていきましょう。」







学級会が迫ってきたある日、残念なお知らせが一つ。

極永きょくながくんが転校していく事が発覚した。

家庭の都合、とのことだったが、

いじめが原因ではないか、と多くの者が疑った。


佐糸雨さいとうくんが極永きょくながくんを直接 おどして追い詰めた、とか。

もうサッカーの仲間に入れてあげない、と言ったとか言わなかったとか。


そんな悪いうわさが広がる中、佐糸雨さいとうくんは後期学級委員に立候補すると言う。

他に立候補する者が出なければ、無投票でまた佐糸雨さいとうくんの再選さいせんだ。

みんな、それでは納得できないはず。

誰か立候補するものはいないのか。

ごうやした否無羅いなむら 晴子はるこは、立ち上がった。


否無羅いなむら候補の周りには、友人らが集まった。

悪いうわさのせいで、佐糸雨さいとう候補は孤立無援こりつむえん

一番の友人と思われた服神ふくしんくんもちょっと距離を置いて、

時に悪口と取れるような発言をしている。

可哀想かわいそうなほどの、ひとりぼっちとなってしまった佐糸雨さいとうくんであった。


否無羅いなむらさんを積極的に応援するわけではないが、

佐糸雨さいとうくんはいやだ、と思っている人が、クラスの多数派たすうはであった。

ぼっちの佐糸雨さいとうくんが可哀想かわいそう、と思っている人もいくらかいた。

現時点げんじてんでは。








学級会を翌日に控えた日の朝、

五年三組はちょっとしたさわぎになっていた。


否無羅いなむらさんの親友の舞子まいこ血相けっそう変えていた。


舞子まいこ晴子はるこ、あんたスマホ持ってないのよね。」


否無羅いなむら「そうよ。6年生になったら、の約束なの。」


舞子まいこ晴子はるこ、学校のグループメッセージが大変なことになっているの。」


ネット上では、佐糸雨さいとうくんは悪くない、周囲の者にハメられたんだ、と言う記事。

隣の五年二組の佐糸雨さいとうの親友が情報をたくさんアップしている。


●先生は、佐糸雨さいとう逆贔屓ぎゃくひいきしている。

●一番の友人のはずの服神ふくしんうそを言って、佐糸雨さいとうおとしいれている。

●去年のクラスでボッチだった極永きょくながをサッカー仲間に誘ったのは佐糸雨さいとうだ。

●学級委員をしていた前期では、エアコンの導入や、

スマホ持ち込み許可を得た、など佐糸雨さいとう立派りっぱ実績じっせきを残した。

●ひとりぼっちになってしまった佐糸雨さいとうだが、めげずに立候補りっこうほして、

引き続きクラスのために頑張がんばろうとしている。


今や五年生でも、スマホを持っているものは多く、

真偽しんぎさだかではないが、もっともらしい情報は、

クラスの無党派むとうはの目に入ることとなる。

そして、クラスのインフルエンサーが、さらに拡散かくさんさせていく。


クラスの声「やっぱり、佐糸雨さいとうは悪くないよ。」


クラスの声「佐糸雨さいとうはいい仕事をしてきたんだよ。

これからも信頼しているよ。」


クラスの声「実は、クラスのごく一部の佐糸雨さいとうきらっている勢力せいりょくが、

佐糸雨さいとうを悪者にしようとしていたのではないか?」


クラスの声「否無羅いなむらさんこそ、せっかく勝ち取ったスマホの権利を、

また禁止にしようとしているんじゃないの。」







否無羅いなむら「スマホ禁止なんて考えていないよ。

誰かがデマを流しているのよ。」


否無羅いなむらがリアルに声を上げても、クラスのみんなは、

スマホをスワイプしていて、声が届かない。


いつのまにか、リアルでも、佐糸雨さいとうの周りに人が集まってきて、

リアルの声を聞くようになってきた。







学級委員の選挙は、佐糸雨さいとうくんの圧勝あっしょう

否無羅いなむらさんは敗れた。


各班の班長は、六班の班長でもあった否無羅いなむらさんを支持したが、

かえって権力主義けんりょくしゅぎ象徴しょうちょうと取られて、マイナスイメージとなったようだ。


選挙結果は素直に受け止めるべき。

小学生でも、民主主義の根幹こんかん理解りかいしている。

でも前提ぜんていとなるべき、事実、

いじめはあったのか、なかったのか、は、まだ確認が取れていない。

次の学級会で、みんなの意見を集約することになった。

百条委員会のようなものだ。


選挙も、ネット上にあふれた情報が大きく左右したわけだが、

本当のことと、うそを、見分ける力が、五年三組のクラスメイトに試される。

今後の三組の動向どうこうに注目が集まる。

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