16. Profonde tristesse 《深い悲しみ》

◇◆ Noah ◆◇


エリックのことはまた「魔術師が一人、天に召された」とニュースで報告されただけで、詳しいことはほかには何もなかった。

次の日、学校でも、エリックの兄ちゃんの時と同じような話をされただけで終わった。


…クラスのやつらも先生も、みんな悲しんでいた。

信じられない、と絶句したまま呆けるやつもいれば、わぁわぁと号泣してるやつもいた。



……ロンとも、全然しゃべらなかった。



魔術師は天に召されたら、肉体は残っていないが一応教会で告別式をあげる。

本当に、居なくなってしまったんだ…っていう現実に胸の奥が昏く苦しくなる。

教会内はすすり泣く声であふれた。




俺も思うことはたくさんある。

楽しかったこと。もっと、一緒に過ごしたかったこと。


……


……エリック……なんでいなくなるんだよ……




だんだんと人が減った教会で、ロンが「ノア、」って掠れたような声で話しかけてきた。


何か、言葉を選びながら「エリックは……」と言ったところで言葉が続かなくなってしまったようだった。

ロンは何かを言いたそうだったが、今にも零れそうな涙目を向けるだけだった。


「……ロン、大丈夫。エリックなら今頃兄ちゃんと一緒だよ。」


励ましのつもりで言った言葉だったが、ロンの白くて長い睫毛が瞬き、金色の瞳から大粒の涙をぱたた、と落とした


「……ロン…」

「……ねぇノア……、エリックは……ほんとに、お兄さんと…、会えたかなぁ………」

「ロンお前、」


そんなこと考えてたの、って言おうとして、やめた。ロンは、俺を見つめたまま、泣いていた


よしよしと、頭をぽんぽんってした。


こういう時どう声をかけたらいいかわかんなくて、エリックなら上手く慰めてやれるんだろうなって思ったら俺まで泣きそうになったけど、

俺がしっかりしなくちゃと思った。


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◇◆ Ron ◆◇


教会からは、ノアと二人で歩いて帰った。

見慣れた道は、いつもエリックが一緒だった。


そう思うと悲しくて、ノアと一緒にエリックの思い出話をしながら歩いた。

ノアと一緒に笑いながらも、涙がこぼれていた。

……どうしようもなかった



帰り道、分岐に差し掛かった時にノアが「元気出そうぜ、また明日な!」って大きな笑顔で言ってくれた。

ノアのミルクティ色の髪は夕焼け色に染まっていて、ノアが本当に太陽みたいに見えた。

僕の心をいつも明るく照らしてくれる、ノアは僕の、太陽みたいな人。


ノアの優しさにまた、ぶわって涙が出そうになったけど、「またね」って笑ったら、結局また涙がこぼれてしまった




ありがとう、ノア、また明日




一人、帰り道を歩く

突然夕闇が増したような気がして、残りの道を家まで走った。


家には誰もいなかった。みんな、出かけているようだった。



……寂しいな



手洗いとうがいを済ませて、僕はベッドでうつぶせになった



……


……ごめんなさい



……ごめんなさい、ノア

君はいつだって僕のことを気遣ってくれているのに、僕は君に、いつも大事なことを話せない。

《共同魔法研究所》での一切について、外部の人には話してはいけないことになっている

…それが、検査と全く関係の無いことであっても




僕が先日、《共同魔法研究所》でエリックを見かけたときから、なんとなく胸騒ぎがしていた。


だけどそれは、何かの間違いであってほしかった

確信に似たような不安……思い詰めたような横顔


あの時のエリックの表情が、足早に歩いていく後ろ姿が、今でも忘れられない

エリックは、あの時にはもう何かを決断していたのかな



エリック…エリック……




……


………ごめんなさい、僕は、



僕の特殊魔法は医療の魔法だから、神様とは全然関係ない。

だけど、僕が魔法を使う姿を、みんな「マリア様に似てる」って言う。

違うよ、って言っても、上手く伝えられない……これは《秘密》だから



人々の期待が、眼差しが、助けなきゃって重圧になる

できることなら何か、力になりたい


……だけど、僕はだれも導けない。

エリックがどこへ行ってしまったのかも、僕にはわからない。



エリック、フレデリックさん……

どうか貴方たちが、どこか穏やかな場所で再会できていますように。


" Ave Maria "

彼らに、どうか、幸せを。



そう願ったら胸が苦しくなってそして…

突然、窓が黄金色に輝いたように見えた

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