15. Conclusion 《結論》
◇◆ Liam ◆◇
いつの間にか日が変わっていた。そうして今日も、既に日が傾き始めている。
昨日救急搬送されてきた患者は、緊急オペにより命をとりとめたものの危険な状態が続いており、今日の昼過ぎにようやく容体が安定したところだった。
……安心したのも束の間、さらに立て続けにもう1件別の緊急オペが入り、つい先ほどまで手術をしていた。窓の外のオレンジ色の光を見て、夕刻を実感したところだ。
丸2日ほど全く寝ていないが今はエリックと話がしたい……ロンによると、エリックは昨日少し様子がいつもとは違ったとのこと。彼は《共同魔法研究所》でジル先生に連れられて、関係者立入禁止区域へ入っていったようだ。あそこは……ジル先生以外に入っていく者を、私も見たことがない。ロンの腕も治してやりたかったが、立て続けの緊急オペで、まだ会えていない。
今のエリックのメンタルでジル先生に会うのは、危険だと感じる。
ジル先生は……。
……
なんとなく嫌な予感がする。座ればすぐにでも眠ってしまいそうだが仮眠をとっている時間が惜しい……もし向かうとしたらあそこだろう。
指示書を書き、少し離れる、と看護師に告げた後、術衣からスーツに着替え病院を後にした。
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◇◆ Eric ◆◇
昨日のジル室長の反応で確信した。冥界は存在する。
それに僕は……やっぱり、非魔術師が許せない。
冥界にはきっと非魔術師なんていない。
そして……大好きな兄さんがいる。
……兄さんが、僕の救いなんだ
……
……
" Ave Maria "
どうか、僕を兄さんに会わせてください
僕は、大好きな兄さんがいれば、それでよかったんだ
……
……
先生ごめんなさい。
僕は、兄さんのいないこの世界では生きていけないよ……
……
…
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◇◆ Haru ◆◇
パン屋さんからの帰り道、総合病院の近くを通ったら、ちょうど玄関から出てきたスーツを着た男の人が目に入った。
あの人は……有名な魔術師さんで、お医者さんの人。
真剣な顔をして、何か、呪文を唱えているようだった。
一瞬はっとしたかと思ったら、私と目が合った。
あの先生は……笑わないし、泣かないし、怒らない……感情表現しない先生だって聞く。今のこの表情も、どんな感情なのか全くわからない。
すごく綺麗な顔をしているのに、いつも難しい顔をしていて、意志の強そうな鋭い目つきと吊り眉は厳しそうな印象を与えるけれど、本当は、すごくいい先生なんだって。話をちゃんと聞いてくれて、話してみたら優しい人らしい。
だから、この町の人たちからの信頼も厚い。
いつだったっけ……先生と、どこかで会ったことがあるような気がするんだけど、わからない
普段診てくださる先生は違う先生だから、もっと前に診てもらったことがあるのかな
白とパールブルーのオッドアイに、色素の薄いアイスブルーの短い髪をきちんと分けている、厳しそうな先生
オッドアイなんて珍しいから、一度見たら忘れないと思うんだけど
その先生が、今一瞬だけ、悲しそうな顔をした
……ように、見えただけかもしれない。
そうして、続きの呪文を唱えて、消えた
私たちにとって魔法って、本当に不思議なことばかり。消えたっていうことは、もしかしたらどこかへ瞬間移動とか、したのかな?
彼らにとっては当たり前にできることなのかな
だけど、
悲しそうな顔をしたのは、今目が合った時に感じた、吹き抜けるようなぞわっとするような不思議な風と、何か関係があるのかな?
この風は……この間大聖堂で感じたものと、すごく、よく似ていた。
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◇◆ Noah ◆◇
一瞬、強い風が吹き抜けた。
夕日がその日一日の最後に眩く輝いて山の向こうに消えた時、微かに魔力の揺れを感じた。
俺には分かった。これはエリックだ。
なんでだよ……なんで、あいつまでいなくなるんだよ
エリックお前……わざと天に召されたんじゃないのか…?
お兄さんの後を追って
夕焼けが綺麗だったこの日、エリックとその魔力は、この世から消えてなくなった。
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