第14話:魔力適性
指先がピクリと動く。
それは僕が深い眠りから目を覚ます最初の合図だった。
目蓋の裏側で光が揺れているように感じる。
ゆっくりと目を開けると、僕の体が白い光で包まれていた。
「起きたか。」
声のする方を見ると、アロリーナ部隊長がいた。
アロリーナ部隊長は両手を重ね、白い光を出している。
僕の体から放たれる白い光。
これもアロリーナ部隊長の魔法の効果に違いない。
僕は上体をゆっくりと起こした。
「ありがとうございます。
気を失っていました...」
僕は申し訳なさそうにアロリーナ部隊長に言う。
「気にするな。
魔力を全て抜いたら誰だって意識を失う。」
アロリーナ部隊長の優しい声に、僕は少し安堵する。
「にしても...とてつもない魔力量を持っているな。」
「それってどういう意味でしょうか...?」
僕はアロリーナ部隊長の言葉に疑問を持ち、思わず聞き返してしまった。
「そのままの意味だ。
あぁ、カナンは魔力測定をしたことがないんだったな。
お前の魔力総量は私の2倍以上はあるんだ。」
その言葉に僕は驚きを隠せない。
実践訓練でのアロリーナ部隊長の強さを僕は鮮明に覚えている。
アロリーナ部隊長は2時間以上も第三部隊の団員と接戦を繰り広げていた。
その訓練では、もちろん魔法を2時間ぶっ通しで使っていた。
だからこそ、アロリーナ部隊長の2倍以上の魔力量があると聞いて驚いている。
僕は自分の魔力総量を確認するために、魔力測定装置に目を向けた。
空洞だったものは、僕の魔力がパンパンに詰まっている。
ほんのちょっと魔力を注いでしまったら、溢れ出してしまうだろう。
「通常、この容器の4割も満たせれば魔力が多いとされる。だが、お前は...」
アロリーナ部隊長はゆっくりと測定器に視線を向けた。
「第六騎士団の団員たちは、平均してこの2割程度しか満たせないというのに。」
「...第六騎士団の平均の4倍...以上はあるということですか...」
僕は思わず声に出してしまっていた。
そして、僕の言葉に応えるようにアロリーナ部隊長がコクリと頷く。
さて、僕の魔力量の多さは、祝福なのか、それとも呪いなのか。
自分の凄さの実感が湧いてきたと同時に、嬉しさと戸惑いの両方が僕を襲ってくる。
第六騎士団の活動における生命線である魔法。
その原動力となる魔力が多いことは素直に嬉しい。
だが、魔力は僕にとって忌々しい力。
僕が引き起こした魔力暴走事故で母上は命を失った。
それなのに...
僕はもう一度、僕の魔力が溜まったものを見る。
ガラスの向こうで生き物のように蠢く魔力は青白い光を放っていた。
その光は神秘的なものに感じる一方で、今にも全てを飲み込んでしまいそうな恐ろしさを感じさせる。
魔力測定装置を見つめていた僕の体は、気づかぬうちに震えていた。
「...カナン...!カナン!!」
アロリーナ部隊長の声が、暗い記憶の淵から僕を引き戻した。
「は、はい!」
「聞いていたのか!全く...
急にボーッとしだしたからびっくりしたぞ。」
「お騒がせしてすみません...」
「まぁいい。
ここからは魔力適性検査に移る。
見ているだけで良いから、そのまま座って見ていろ。」
「わかりました。お手数おかけします。」
アロリーナ部隊長は僕の回復を止める。
すると、白い光が徐々に薄れていき、その光が完全に消えると、体に倦怠感が押し寄せてきた。
おそらくアロリーナ部隊長の回復魔法が無くなったせいだろう。
アロリーナ部隊長は魔力測定装置に向かって歩き出し、巨大な装置をいじる。
ガギギギギギーー
重低音が魔力測定所に鳴り響く。
その音が収まると同時に、7本の管が不吉な輝きを放ち始めた。
「よし」とアロリーナ部隊長が呟くのが聞こえる。
「カナン、用意ができた。
今から魔力適性検査を行うぞ。
魔力容器の上の7つの管にお前の魔力を流す。
適性があれば、管が光るからちゃんと見ておけよ。」
「わかりました。お願いします!」
僕の返事を聞いて、アロリーナ部隊長は魔力測定装置の横にあるレバーを引いた。
すると、僕の魔力が7つの管に一斉に流れ出す。
まるで堰き止められていたダムのように。
僕は魔力で満たされた7つの管を順に見ていく。
1番左の管から、火、水、土、風、雷、光、闇と並んでおり、その管が光れば、適性が分かるようになっているのだ。
僕が1番右にある闇の管まで目を通したところで、一番左の管が赤い光を発した。
「火が光ったか。
カナン、お前は火属性の魔法に適性があるぞ!」
アロリーナ部隊長がそう告げたと同時に隣の水属性の管も青く光り出す。
火属性の赤い光が灯り、続いて水属性の管が青く光り出した。
「おぉ!水属性の適性もあるか...!」
アロリーナ部隊長の言葉が終わらないうちに、次々と管が光り始めた。
土の茶色、風の緑、そして—
「まだ光るのか...!」
なんと残り全ての管が、まるで競うように光を放ち始めたのだ。
「魔力量だけでなく...全属性にも適性があるじゃないか...!
とんでもない魔法の才能の持ち主だぞ...!」
アロリーナ部隊長は興奮気味に僕の肩を揺らしながら、話しかけてくる。
だが、僕はこの適性に関しても知識が無い分、イマイチ凄さが分かっていない。
「アロリーナ部隊長...ちょっと痛いです...」
「あ、あぁ、すまなかったな。
取り乱してしまったようだ...
だが、全属性に適性があるのは本当にすごいことなのだ。」
「そうなんですね。」
「カナン、お前はもっと驚け。
全属性適性を持つ人間はいないんだぞ。」
アロリーナ部隊長は1つ溜め息をつき、「やれやれ」という仕草をする。
「まぁいい。
とりあえず、これで魔力測定は終了だ。
私はこの結果をブライス団長に伝えてくる。
カナン、お前は上がって良いぞ。
回復魔法をかけたとは言え、最低限しか回復させてないから訓練もできないだろう。
しっかり休んで、明日までに魔力を回復させておけ。
魔力使用許可が認められ次第、魔法を優先的に訓練していくぞ。」
「はい。承知いたしました。」
そう告げると、アロリーナ部隊長は足早に魔力測定所を去っていった。
僕はアロリーナ部隊長が視界から消えたのを確認し、魔力測定装置に目を向ける。
上部には、7色の光が煌々と光っている。
そして、僕は複雑な気持ちになった。
これから僕はこの強大な力と向き合っていかなければならない。
母上の命を奪うことになったこの力とーーー
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