第13話:異次元
「おい!手を台座から離すな!」
意識が霞みかけた頭の中で、アロリーナ部隊長の声が響く。
その声は、遠くから聞こえてくるような気がした。
僕は突如襲ってきた脱力感により、思わず台座から手を離してしまったいたのだ。
僕は重たくなった体に力を入れ、何とか立ち上がる。
そして、アロリーナ部隊長に視線を向け、苦言を呈す。
「アロリーナ部隊長...」
僕は歯を食いしばりながら言った。
「ちゃんと説明してくださいよ...」
アロリーナ部隊長は手を顎に当て、わざとらしく咳払いをした。
その仕草には、どこか愉快そうな雰囲気が漂っている。
「少しいたずらが過ぎたようだな。すまない」
わざとらしく手を顎に当て、コホンと咳払いをするアロリーナ部隊長。
「魔力を吸い取るとは、体中のエネルギーを抜き取ることと同じなのだ。
なので、魔力測定中は異常な倦怠感に襲われる。
それは、まぁ、我慢してくれ。」
(そこは気合いで何とかするんですね...)
「...わかりました。」
僕はもう一度気合いを入れ、台座に両手を乗せる。
「では、引き続き魔力測定を始めるぞ。」
「はい!」
僕は気合の入った声で返事する。
そして、返事をしたと同時に僕は脱力感に襲われた。
だが、今回は膝から崩れ落ちることはない。
僕は台座に手を置き続ける。
すると、巨大なガラスの空洞に青白い光が滲み始めた。
まるで霧のような魔力が、ゆっくりと渦を巻きながら空洞の底から立ち上っていく。
その光は次第に濃さを増し、確かな存在感を帯びていった。
魔力が溜まっていくのと反比例し、僕の体から力が抜ける。
「アロリーナ部隊長...
これっていつまで続ければ良いんですか...?」
「魔力がもう増えなくなったら終了だ。
まだ増え続けてるから、そのまま手を乗せ続けてくれ。」
僕は息を吐き、天井を仰ぐ。
質問などするんじゃなかった。
答えを聞いた瞬間、背筋が凍る思いがした。
そんな気持ちとは裏腹にどんどん魔力はガラスの中に溜まっていく。
空洞だった場所の1/4が青白い魔力で満たされていた。
ガラスの向こうで渦を巻く魔力は、まるで生き物のように蠢いている。
その様子に気を取られた瞬間、膝が震え始めた。
だが、魔力が溜まっていくスピードは一向に衰える気配を見せない。
僕はその様子を見て、まだまだ終わらなさそうだなと感じた。
◾︎◾︎◾︎◾︎◾︎
「アロリーナ部隊長...
まだ...ですか...?」
「あぁ...まだ続けてくれ...」
魔力測定をしてから、もう5分ほど時間が経っている。
だが、僕の魔力は一向に止まらない。
先ほどあった空洞は8割ほど埋まっている。
僕は横目でアロリーナ部隊長を見た。
その表情は驚きを隠せないでいる。
だが、僕にはその驚きがなぜ起きているのか分からない。
というより、そこまで考える余裕が無かった。
僕は少しでも集中が切れたら、台座から手を離してしまいそうなほど、ギリギリの状態なのだ。
言葉を発するのもしんどい。
早く終わって欲しいというのが正直な感想だ。
だが、アロリーナ部隊長から続行の指示が出ているので、辞めることは許されない。
僕は目を細めて、自分の魔力が溜まったガラスを見つめた。
これほどの量の魔力が自分の体にあったのかと驚く。
いまだに少しずつ魔力が増えており、あと1割ほどしか魔力が入るスペースが無い。
(このままじゃ溢れるんじゃないか...)
僕は心配になる。
ただ、僕の体も限界に近い。
恐らくあと少し魔力を抜き続ければ、僕の魔力は空になるだろう。
何となくだが、感覚でそう思うのだ。
「カナン...まだいけそうか...?」
「いや...もう...限界が...近いです...」
「分かった。」
僕は振り絞るような声でアロリーナ部隊長の質問に答える。
気のせいかも知れないが、アロリーナ部隊長の声が若干だが震えているように感じた。
そんなことを考えていると、僕は今までとは別次元の脱力感に襲われる。
そして、思わず膝から崩れ落ちた。
だが、何とか両手だけは台座から離さないでいる。
意識を保つのももう限界だ。
視界が歪み、まともに焦点が合わなくなる。
「終了だ!カナン!
もう手を離して良いぞ!!」
僕は薄れゆく意識の中で、その声をギリギリ拾い、台座から手を離した。
そして、そのまま倒れ込む。
目の前が真っ白になり、僕の体はピクリとも動かなくなった。
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Side アロリーナ
私はこの光景に驚きを隠せなかった。
カタノール・フォン・カナン。
私の部隊に配属された第六騎士団の新入団員。
その魔力量が異次元なのだ。
「アロリーナ部隊長...
まだ...ですか...?」
「あぁ...まだ続けてくれ...」
いまだ増え続ける魔力に戸惑ってしまい、カナンに歯切れの悪い返事をしてしまった。
私は今までの人生でこれほど魔力量の多い人物を見たことがない。
第六騎士団の団員の魔力量の平均は、ガラス張りの空洞の約2割ほど。
私は貴族家出身なので第六騎士団の中でも魔力量が比較的多い方だ。
だとしても、魔力量はガラス張りの空洞の約4割ほど。
それなのに、カナンは私の魔力の2倍をゆうに超えている。
皇族である点を加味したとしても、明らかに異常だ。
帝国の歴史上、この空洞の8割以上の魔力量を持つ者は3人しか記録に残っていない。
この3人のうち1人は、帝国を築き上げ、1人は悪名を世の中に轟かせ、1人は国を股にかける覇者となった。
この時点で、カナンの素質はその3人に匹敵する。
私は思わず息を飲んだ。
「カナン...まだいけそうか...?」
「いや...もう...限界が...近いです...」
「分かった。」
変な緊張感が私を襲い、震えながらカナンに話しかけてしまった。
だが、決して怯えているわけではない。
むしろ、わくわくしている自分がいる。
カナンがこの魔力量を使いこなすことができるようになれば...
私はそう思わずにはいられなかった。
カナンが限界が近いというのは、本当のことだろう。
魔力が無くなってくると、体感ではあるがこれ以上はやばいという感覚が体中から感じ取れる。
私は魔力が溜まるスピードを注視する。
少しずつだが、魔力の溜まるスピードが遅くなってきている様子を肉眼で捉えた。
そして、ピタッと魔力の溜まるスピードが止まる。
それと同時に、台座の近くからドサっと音が聞こえた。
台座に視線をやると、カナンが膝から崩れ落ちている。
「終了だ!カナン!
もう手を離して良いぞ!!」
私は大声で魔力測定終了の合図を出す。
その声を聞いた後、カナンはその場に倒れ込んだ。
私はすぐに回復魔法を発動させ、カナンにかける。
カナンの周りを白い光が包み込んだ。
「とんでもない新人の部隊長になったものだな...」
そう呟く私の頬は少し上がっていたと思う。
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