第8話:第六騎士団(6)

あれほどきつかった山ランは地獄の入り口に過ぎなかった。


山ランが終わった後は、疲れた体をさらに追い込むように、徹底的に筋力トレーニングで、体をいじめ抜く。


全身の筋肉がちぎれるような音が聞こえようとお構いなしで、手足が動かなくなるまで行われ、僕の体は言うことを聞かなくなっていた。


筋力トレーニングを終了後、第三部隊はそのまま剣術の訓練に移動する。

鍛えた筋肉を剣術で活用できるようにするために、筋トレ後すぐに剣術訓練を行うのだと、同室のフラハードが教えてくれた。


そして、僕は動かなくなった手足で何とか木刀を握り、剣術訓練を行う。

だが、まともに木刀を振ることができない。


姿勢を正しく保つことだけで、精一杯だった。

しかし、第三部隊の団員は訓練の手を緩めない。


団員との打ち込みでは、何度もめった打ちにされ、1度打ちどころが悪く、気を失ったりもした。


そこからは、剣術でどのような訓練をしたのかあまり覚えていない。

ただ、この人たちについていくという想いだけで動いていた気がする。


気づけば剣術訓練が終わり、実践を想定したチーム訓練に移っていった。


魔獣には数多くの種が存在し、基本的に人よりも圧倒的な力を持つ。

そのため、討伐には最低でも4人1チームが必要となるのだ。


最大の場合は第六騎士団全員での対応も辞さない。

それほどまでに魔獣は恐ろしい存在なのだ。


だからこそ、第六騎士団は実践を想定した訓練を欠かさない。


僕もその訓練に入ろうと思ったが、「いきなり理解し、動くことはできないから、外で見て、どのように動くのかを学べ。」とアロリーナ部隊長に言われ、僕は実践訓練を見学することになった。


そして、実践訓練を見れば見るほど、まだ参加しなくて良かったと安堵する。

もちろん、体が動かず、足手纏いになるという理由もあるが、それ以上にこの実践訓練についていける気がしなかったからだ。


剣術訓練では、自分のことで精一杯で団員の様子を見る余裕がなかったが、素人目で見てもこの第三部隊が強いことが分かる。


団員一人一人の剣術や魔法のレベルが高く、常に組織的にフォーメーションを変えながら、戦っているのが分かる。


そのレベルの高さもそうだが、何より目を見張るのは持続力だ。

もう2時間はぶっ通しで実践訓練を行っているが、それでも誰一人脱落していない。

もちろん、団員の誰かが魔力枯渇を起こしている様子もないのだ。


僕はチーム戦闘の戦術理解や動きなどそっちのけで、食い入るように訓練を見ていた。


(これぐらいの力をつけないと、生き残ることができないのか...)


僕は思わず息を呑む。


そんな訓練の中、明らかに際立つ存在が一人。

アロリーナ部隊長だ。


なんとアロリーナ部隊長は、実践訓練の魔獣役をたった1人で請け負いながら、第三部隊の組織的な猛攻を全て受け切り、相手チームに優勢に戦闘を進めている。


1人だけレベルが違う。

どこが凄いのかは僕の目では正確に分からなかったが、誰が見ても文句なしで強すぎる。

そのことだけは分かった。


僕はこの光景を目にして驚きを隠せないでいる。


第三部隊のレベルの高さ。

アロリーナ部隊長の圧倒的な強さ。


しかし、同時に不安も襲う。

これほどの実力を持つ部隊がいながら、なぜ第六騎士団は他の騎士団と比べてダントツの死亡率を記録しているのか。


その謎が、重い現実として僕の心にのしかかった。


『どれだけ鍛えても人は魔獣に殺られてしまう...』


実践訓練を行うアロリーナ部隊長の鬼気迫るような表情を見ると、先ほどかけられた言葉を思い出してしまう。


そんな僕の感傷を打ち砕くように、突如として施設に鐘の音が響き渡った。

ガラン、ガラン――。

訓練終了の合図とは明らかに違う、緊迫感を帯びた音色が空気を震わせる。

その音を聞いてか、先ほどまで激しく戦闘をしていた第三部隊の団員全員が手を止めた。


鐘の音が鳴り止むと、ブライス団長の声が聞こえてくる。


「魔獣討伐に出ていた第四、第五、第六部隊が帰還した!

 第三部隊は至急、城門に集合し魔獣討伐隊を迎えよ!」


「「「はい!!!」」」


訓練所に第三部隊全員の声が響き渡る。

次にアロリーナ部隊長の指示が飛ぶ。


「回復術を少しでも使える団員は今すぐ城門へ迎え!

 フラハードはカマタ商会とタモニア医療院に連絡!

 他の者は運搬荷物を準備し、城門に集合!

 では、解散!」


その指示を聞いた第三部隊の団員が、一気に動き出していく。

僕は訳も分からず、その様子を見ていた。


「カナン!緊急だ!

 お前もこっち来て、運搬荷物の準備を手伝え!」


第三部隊の男から声がかけられる。

僕はその声のする方へ、すぐに駆け出した。

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