決戦



第一遊撃部隊はマリアナまであと5時間のところで、百二十隻から成る第3艦隊に行く手を阻まれていた。


第3艦隊には戦艦が「ミズーリ」「アイオワ」「ウィスコンシン」「サウスダコタ」「インディアナ」「マサチューセッツ」「ノースカロライナ」の7隻。


巡洋艦はボルチモア級やらクリーブランド級、旧式のペンサコーラ級まで大小新旧18隻、駆逐艦に至ってはフレッチャー級を中心に80隻はある。


だから、日本艦隊が世界最大の戦艦「大和」を持っていようと、ハルゼーであっても勝利を確信していたし、それはどの米将兵も同じだった。


「敵艦発砲!」


第54任務部隊を打ち破った際、ヤマトは驚異的な射撃制度で遠距離から一方的に第54任務部隊の戦艦群を叩きのめしたと報告にあったことハルゼーは思い出す。


「ヤマト」はくるりと転舵し、こちらに横腹を向ける形で左砲のみを撃ったようだ。


三発の敵弾は先頭の戦艦「アイオワ」の少し手前に着弾した。

巨大な水柱が立ち上がった。


まさかジャップがレーダー射撃を実用化しているとは考えもしなかったが、ハルゼーは念のため、サイパン基地の英軍の電子戦部隊に協力を仰いでいた。


「よお、ハルゼー提督。これからジャミングを開始するぜ。ヤマトをさっさと沈めな」


英国なまりの声がレシーバーから響いた。


サイパン基地のB29に配備されている対レーダー用ジャミング装置「エアボーン・グローサー」


英国最先端の電子戦装置で、元々はドイツ軍のレーダーを無効化する目的で製造されたが、対独戦終結後は太平洋にも配備されていた。


航空機搭載型で日本空襲を行うB29に取り付けて、日本軍の電探を搭載した夜間戦闘機や電探基地を無力化する目的で配備されていたのだが、今回はヤマトのレーダー射撃を無力化するために参戦していた。


一機のB29が5、6機のP51に護衛されながらヤマトの方に近づいて行った。


日本のレーダーと米軍のレーダーでは周波数が違うのでジャミング効果を及ぼすのは日本側だけである。


「ヤマト」が第二射を放つ。


水柱は「アイオワ」から大きくそれたところにできた。電波妨害は効果を出しているようだ。


※ ※ ※


「駆逐艦群、突撃開始します!」


80隻の駆逐艦のうちのおよそ半数が「ヤマト」の左右に回り込み、突撃を開始した。


ほぼ同時に巡洋艦群もそれを支援すべく随伴して接近を開始している。


7隻の戦艦のうち、アイオワ級3隻を除く4隻が所属する第8戦艦群の旗艦である「サウスダコタ」では指揮官のジョン・F・シャフロス・ジュニア少将が、部下が報告する「ヤマト」との距離に神経をとがらせていた。


第8戦艦群のノースカロライナ級及びサウスダコタ級の最大射程は33000mであり、距離を詰める必要があったのだが、その間、戦艦群はヤマトの18インチ砲の攻撃をほぼ一方的に受けなければならないのだ。


ハルゼーの乗艦である「ミズーリ」、そして「アイオワ」「ウィスコンシン」は砲撃を開始していた。


まだヤマトに対して命中弾は得ていないようだが、ヤマトが16インチ砲弾の嵐に打たれるのも近かった。


それは、ヤマトが射程に収まるまで、あと30秒というところで起こった。


ヤマトの艦尾から猛烈な爆発がしたかと思うと、幾つもの光点がヤマトから打ち上がり、ものすごい速度でハルゼー艦隊の方に向かった。


それを見たある将兵は呟いた。


チェリーブロッサムバカ・ボム...」


打ち上がった光点は3つ、その全てがアイオワ級の3隻にぶつかった。


一瞬にして3隻に爆炎が吹き上がった。

戦闘能力を損失したのは誰の目から見ても明らかだった。


「そんな...」


シャフロスはその光景を、ただただ唖然として、受け入れられずにいた。


※ ※ ※



「電探が使えません!ノイズがひどいです」


電探室からの報告を聞いて、艦長の有賀はまずいことになったことを理解した。


一昨日に敵戦艦を6隻も撃沈することができたのは電探射撃にたよるところが大きかった。

だから今使えないとなると、敵は7隻もの新型戦艦と100隻近い巡洋艦、駆逐艦を有しているので、きわめて不利になることが予想された。


そして、目視射撃に切り替えた第3射は大きく目標を逸れてしまった。


「独逸や英国にはレーダーを妨害する装置があるらしいな。今のもそれかもしれん」


伊藤はその原因について心当たりがあるようだったが、だとしてもどうしようもない。


だが、有賀は負けるとは思っていなかった、いや、負けるわけにはいかなかった。


桜花改マルケは撃てるか?」


有賀は艦内電話を自ら手に取ると後部格納庫の要員にそう尋ねた。


「はい、いつでも」


「撃て、目標は敵1番から3番艦だ」


「了解」


数秒の間ののち、艦尾射出口から3発の飛翔体が続けて撃ちだされた。


それらは固体ロケットエンジンを点火し、時速700km/sにまで加速すると「アイオワ」「ミズーリ」「ウィスコンシン」を赤外線シーカーによって探知し、それぞれ発射時点で割り当てられていた目標に向きを変えた。


発射時点で目標艦とその予測位置を入力されているので、重複して着弾することはなかった。


3発の桜花改は3隻の戦艦にそれぞれ命中、猛烈な爆発が3回、立て続けに起こり、爆炎が晴れた時、そこにはかつて戦艦であったであろうものが、速度を大幅に落とし、浮いているだけであった。



※何故か「ウィスコンシン」のはずが、オーバーホールを終えてアメリカ本土から移動中の「ニュージャージー」と誤って書いていたので修正しました。

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帝国海軍最後の作戦 波斗 @3710minat

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