激突、マリアナ沖
第3艦隊の本隊、ハルゼーの旗艦である戦艦「ミズーリ」から成る艦隊は東北沖で艦砲射撃を終え、ヤマトを撃沈した第38任務部隊の空母と合流すべく南下していた。
第38任務部隊壊滅の報が届いたのはその時だった。
「カミカゼは空母を集中攻撃したのか...。ヤマトの出撃のための陽動だな。それならば他にも特攻機や艦艇が出撃してくる可能性があるのでは」
ハルゼーの予感は的中した。
第3艦隊の空母艦載機が和歌山湾から出撃する敵艦隊を発見したのだ。
かつてのビックセブンの一隻であった「長門」を先頭に日本海軍の殆どの大型残存艦艇が揃っているという。
第3艦隊本隊には戦艦「ミズーリ」「アイオワ」と五隻の空母(エセックス級二隻、インディペンデンス級三隻)があり、加えて、壊滅した第38任務部隊から戦艦「ウィスコンシン」「サウスダコタ」「インディアナ」「マサチューセッツ」「ノースカロライナ」、空母3隻を抽出して、これらの日本艦隊に当たることが計画された。
第38任務部隊の空母はその大半がやられていてしまっているので、残存空母艦載機で撃滅できなかった場合は新鋭高速戦艦群を持って戦う腹づもりだった。
しかしだが、その計画は第54任務部隊から届いた通信で立ち消えることになった。
第3艦隊本隊と合流すべく太平洋上を北上していた第54任務部隊の付属空母の艦載機が、北方から迫る日本艦隊を補足したのだ。
大和型戦艦1隻を中心に巡洋艦1隻、駆逐艦8隻の編成、まさに四ヶ月前に坊ノ岬沖で見失ったその艦隊の形容だった。
これに「ミズーリ」の第3艦隊司令部は大変な騒ぎになり、はたまた日本の秘密艦隊なのではないかと言う人もいた。
先ほど第38任務部隊が坊ノ岬沖で沈めた船は一体なんだったのであろうか。
その問いの答えはいくら考えても浮かぶことはなかった。
いづれにせよ日本艦隊の進路上にはマリアナ諸島、サイパン島があり、そこのB29の基地を目指しているのは明確であった。
太平洋艦隊司令部も「長門」の艦隊よりもヤマトの艦隊を優先的に排除するよう命じ、実際、近海に居た第54任務部隊の戦艦群が迎撃を行った。
だが結果は散々たるもので6隻の旧式戦艦群は全滅し、護衛の駆逐艦は蹴散らされ、命からがら付属の護衛空母群は逃げ切ることができたが、一死も報いることができずに第54任務部隊は壊滅したのだ。
それを受けてもあるが、太平洋艦隊司令部からはマリアナ諸島の死守命令、大統領からはヤマトの艦隊を最優先で迎撃するようハルゼーに命令が下ったため、第3艦隊本隊は一路マリアナに全速力で向かった。
トルーマン大統領が直に命令を出すほどのものがサイパンにはあるのだろう。
ハルゼーはあの新型爆弾なのではないかと思っていた。
そして、36時間後、8月14日の夕刻、第3艦隊本隊はマリアナ沖に布陣を終えていた。
「偵察機より通信、北方に戦艦1、巡洋艦1、その他複数から成る敵艦隊を見ゆ」
ハルゼーは今まで高速空母部隊を率いて戦ってきた身だ、戦艦を指揮して戦闘したことはなかった。
だから今回の迎撃作戦でもまずは空母艦載機とサイパンの基地航空隊で「ヤマト」に戦闘不能になるほどの損傷を負わせてから、戦艦群でボッコボコに叩きのめすつもりだった。
しかし、「ヤマト」を攻撃しに向かう編隊の姿はなかった。
第3艦隊の空母群はカミカゼの暴風に遭い、その多くが空母としての機能を失ったのだ。
普段ならありえないことだろう、だがそのカミカゼは普段のものとは違ったらしい、なんでも誘導弾の可能性があるという。
日本軍はどうせ負けるなら、降伏するなら、と出し惜しみしてた高価な秘密兵器を今になって使ってきているのかもしれなかった。
幸いマリアナ諸島の防空網は数百機のP51によって欠けることなく維持できているが、「ヤマト」を航空攻撃することはできなくなった。
「これで、本当の最期に、あの戦艦の最期にしなければな」
8月15日、午前5時、第3艦隊と日本艦隊は、お互いが目視で見える距離まで接近していた。
そして、最初に咆哮したのは、ヤマトだった。
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