復讐の時

「距離三七〇〇〇」


「1番主砲射撃準備よし!」

「2番、3番もいけます!」


それらの報告を聞いて有賀は全身が奮い立つのを感じた。

遂にこの艦が、敵戦艦と砲火を交えるのだ。


「1番、2番、3番主砲、撃てぇ!」


9発の46㎝砲弾は唸り声をあげながら敵一番艦に突進した。


4ヶ月間対馬にいた第一遊撃部隊だったが、何もしてないわけではなかった。訓練は毎日していたし、弾薬や兵器の手入れも怠らなかった。


そして何より、高橋の浮きドックによって魔改造とは言わないまでも明らかに艦の外見にも変化が生じていた。


水平線上に火柱が立ち上がる。


「命中!1、...2発」


敵一番艦に初撃で命中させたのも、高橋が装備させた機器のおかげだった。


「電探射撃、か。これが捷号作戦レイテ沖海戦の時にあったのならばな...」




※ ※ ※



第54任務部隊は「ネバダ」「ニューメキシコ」「ミシシッピ」「テネシー」「コロラド」「ウェストバージニア」の6隻の戦艦と16隻の駆逐艦から構成されていた。


巡洋艦が無いのは第3艦隊の本隊と合流後に補充してもらう予定だったからだ。


最初に犠牲になったのは先頭を進んでいた「ニューメキシコ」だった。


直撃したのは2発の46㎝砲弾。


一発目は第2砲塔の右側の最上甲板に上から食い込むように命中し、副砲の弾薬庫まで進んだ後、そのまま船底まで内部構造を破壊し突き抜けた。


二発目は第1砲塔の天蓋に直撃した。


ニューメキシコ級戦艦の主砲塔の天蓋装甲は127㎜と、建造当時の基準で言えば重装甲だった(まあ伊勢とか扶桑のは150㎜あるんだが)。


ただ重装甲というのは対14インチ砲弾(35.6㎝砲弾)に対してであり、当時の設計者がふた周り4インチも上のサイズの46㎝砲弾の直撃を考慮している訳が無かった。


たやすく天蓋を突き破るとそのまま弾薬庫に直行した。


建造30年近くが経過していた「ニューメキシコ」は初めて体感する激痛と爆発に身を唸らせたあと、内側から大爆発を起こし2番砲塔の付け根あたりからポッキリと折れた。


次に犠牲になったのは「ニューメキシコ」の後方を進んでいた「ネバダ」だった。


彼女は真珠湾攻撃アタック・パールハーバーで一度沈んだものの、引き上げられ大改装を受けて生まれ変わった真珠湾帰り組の一隻だった。


見た目が変わるほど改装されたといっても所詮は前大戦時の旧式艦。


46㎝砲弾を防げないのは変わらなかった。


命中したのは1発とも2発とも言われるが、どちらにせよ被弾から数秒もたたずして「ネバダ」は轟沈した。




「て、提督、ネバダがやられましたあっ!!」


一度沈み、生き返ったその船は、再び日本軍の手によって沈められたのだ。


だが、デヨに下がるという選択肢は無かった。


ヤマトの艦隊の目的が何であれ、進路上にあるのはマリアナ諸島であり、そこにあるB29の基地を艦砲射撃で叩こうとしているのは明らかだった。


それに第54任務部隊の旧式戦艦群はどんなに頑張っても19.5ノットが最高であり、快速の大和に逃げられてしまうと二度と戦えない可能性が高かった。


「分かっている。もう少しの辛抱だ」


旧式戦艦群の14インチ砲、16インチ砲の最大射程は310003万1千メートルほどだ。


射程内に収めれば数の力で叩きのめすことができよう。

それこそ、あの戦艦の本当の最期になるだろう。


ただ、その時を迎えることはなかった。


6000m、その距離を詰める間にも「ミシシッピ」「ウェストバージニア」が46㎝砲弾に叩きのめされ、海底へと消え、デヨの乗る旗艦「テネシー」も一発の46㎝砲弾を被弾した。


たった一発、それだけで「テネシー」は射撃盤と機関に加え後部砲塔群を破壊され戦闘不能になった。


「コロラドが...轟沈しました!」


沈没しかけの「テネシー」から救命ボートに乗り移るデヨは、ふと敵艦隊の方向に目をやった。


壊滅し沈みゆく第54任務部隊の戦艦群を尻目に、その巨艦は悠々と戦場を横切って、サイパンの方に向かっていった。

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