第2話 勇者様は笑う。

 時は流れ、新一年の入学式や諸々も終わり、朝の3人+後輩2人の計5人でファミレスに来ている。


「優也先輩!コレ見て下さい!面白くないですか!?」


 この騒がしい少女は、「篠宮しのみや 陽菜」だ。運動神経抜群のスレンダー美少女である。


「ちょっと、陽菜ちゃん!ここは、公共の場だから、あまり大きな声は出さないで!」


 そして、そんな陽菜を窘める少女は「橘 優乃」だ。お察しの通り、優也の妹であるが!!ここからが大事だ...義妹である。ちなみに、大人しい感じの文学美少女である。


 それに、どっちも名前に「優」が付くから、実の兄妹って、よく勘違いされてる。


「すみません。お兄ちゃん、陽菜が...」


「僕は大丈夫だよ。でも、陽菜ちゃんは優乃の言う通り、少し抑えてね」


「すみません。分かりました」


 んー?


 もしかして、召喚させる前は気付いていなかったけど、優乃ちゃんも優也のこと...


 声には出せないので、雨宮に、LI〇Eで聞いてみる。


 直ぐに、俺が送った内容を見て、直ぐに返信してきた。


『そうだよ〜』


『今、気付いたの?』


 なんて、返信までしてきた。


 その返信の答えとして、雨宮に頷くと、めちゃくちゃ驚いた顔をされた。


『てっきり、気付いていると思っていた...』


『いや、俺も自分に驚いてる。こんなに分かりやすいのに気付かなかったんだって』


『ホントだよ...私、てっきり気付いてるものだと思ってたよ』


『まぁ、しゃーなし』


『でも、以外かも』


『何が?』


『霧崎君って、こんな時は羨ましがってるのに、今は何とも思っていないでしょ?』


 あ?


 確かに...前までの俺なら、羨ましがって、確実に「爆ぜろっ!」って言ってたな。

 でも、今は何も感じないわ。


 ...あれか?異世界での経験のせいか?っていうか、それしかないか。


『多分、腹減っていて、それどころじゃないのかも?』


『なら、早く注文しないとね笑』


「ちょっと!咲夜先輩!陽菜が話しかけてるんですから、返事して下さい!」


 陽菜が話しかけてたようだが、全然気付かなかった。


「うるせぇ!こっちは、考え事してるんだよ!沈めるぞ!」


 まぁ、コイツには、これくらい雑な対応でいいだろう。


「えっ!?沈めるって、どこにですか!?」


 その問いに、前髪をかきあげて、キメ顔で答える。


「ふっ...俺の底無しの愛へさ。キラッ!」


「うわっ...キモッ」


 よし、お仕置決定。


「なら、東京湾でいいか」


「そっちは、ホントにシャレになりませんよ!!」


 俺と陽菜のコントを見て、周りのお客さんが笑っている。


「咲夜先輩?陽菜?私、さっき言いましたよね?公共の場だから、大きな声は出さないで、と」


 あっ、ヤッべ...これ以上、優乃ちゃんを怒らせたらマズイ!!

 陽菜をチラリと見ると、俺と同じ考えのようだ。


「「はい...すみません」」


 俺と陽菜の声が重なる。


「気を付けて下さいよ?」


 本気で怒っていなかったようで、少し微笑みながら念を押してくる。


「「はい...」」


 陽菜と目を合わせ頷き合う。


「そういえば、咲夜先輩の雰囲気が、いつもと違う気がします」


 優乃ちゃんも、そう思うんか。


「あっ!陽菜もそれ思った!」


「(; ・`д・´)ダッ…ダニィ…!?」


 馬鹿...アホの子の陽菜も感じた...だとッ!?


「あー、今、陽菜のことバカにしましたね!?」


「うん」


 事実なので、ノータイムで肯定すると陽菜が怒りだしたので、何かを言われる前に待ったをかける。


「騒いだら優乃ちゃんに怒られるぞ」


「うっ...それは、ズルですよ」


 その一言で、陽菜の一気に勢いが削がれる。


「まぁ、陽菜ちゃんのことは一旦どうでもいいです」


「優乃!?」


 ウケるwww


「それより、咲夜先輩は何か心当たりありますか?もしくは、お兄ちゃんか美涼先輩は何か知っていますか?」


「いや、知らないかな。それに、僕も気になっているんだよ」


「私も同じかな」


「陽菜も気になります!」


 んー、取り敢えずホントのこと言ってみるか。


「実は、俺さ」


 俺が、真剣な雰囲気に変わったから4人の顔も真面目なものになる。


「異世界で10年間、勇者として地獄を見てきたんだよね」


 そう言った瞬間。空気が一気に弛緩する。


「咲夜」


「霧崎君、疲れてるなら休んだ方がいいよ」


「心当たりは無いみたいですね」


「咲夜先輩っ...陽菜は、先輩がっ...例え、厨二病でもっ...仲良くっ...してあげますよっ...www」


 誰も信じないやん。


 まぁ、立場が逆なら俺もそうなるわな。


「陽菜、後で一緒に東京湾に遊びに行こうか。俺と仲良くしてくれるんでしょ?」


「ごめんなさい。陽菜、咲夜先輩とは付き合えません」


「なんで、俺は告白してもないのに振られてんの?」


「えっ?東京湾にデートに行って、陽菜に告白するつもりなんですよね?」


「は?違うよ。陽菜に重りを付けて沈めに行くんだよ?」


「優也先輩!助けて下さい!咲夜先輩が沈めようとしてきます!」


 優也が苦笑しながら「まぁまぁ」と俺を宥めてくるので、ふざけるのもヤメにする。


「お腹空いたから、早く注文しよ〜」


 雨宮の言葉に、俺と陽菜は急いでメニューから食べたいものを決める。


 そして、穏やかな時間が流れる。


 その中で、勇者は友に囲まれ、幸せそうに笑っている。




 それは、咲夜が異世界で望んでいたものだった。







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界から帰ってきた勇者様、今度はラブコメの親友ポジとして暗躍するようです。 あくはに@ 『孫ダン』執筆中 @Akhn496

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画