承(Ⅱ)-Climax【クライマックス】
軽やかに語る傍ら、「あ、せっかく君のために淹れたんだから遠慮なく飲みなよ?」と、こちらの手のコーヒーを指しながら一拍子だけ脱線する。
まだ
――「何もかもを
ほら、遺物の中には『ナニコレ?』と思っちゃうような、脈絡も何も無いとしか思えないものだってあるだろう? 例えばそういうものさ」――
薄っすら麦茶風味の白湯を淹れたカップを弄ぶ、形の良い、長い指。
そのお気に入りのカップは、寄付先の孤児院から贈られたものだ。何の変哲もない安物のカップに、子どもたちが絵とメッセージを書いたもの。
よく知っている。
寄付先の施設の情報だけではなく、そこにいる子どもたちの顔も思い浮かべられる。
だって、私が仲介したのだから。
なお、その寄付先は私と彼女が過ごした孤児院ではない。
私たちが居た孤児院は、子供のころに、記録的な悪天候による土砂崩れに巻き込まれて潰れてしまった。
元々資金難に
その数が幸いなことに意外と多かったのは、そもそも土砂崩れによる被害者が思いのほか少なくて済んだのは、全くの偶然ではあるが、
当時にしても珍しい、もはや絶滅危惧種並と言ってもよい旅芸人の一座が偶然すぐ近くに滞在していて、可能な限りの人命救助、避難誘導、状況確認と各行政機関への情報伝達等々に尽力したのだ。
どうも彼らのリーダーが何らかの経験があったらしく、その手際が過不足なく迅速なものだったのが功を奏した形だ。
そして、旅芸人の一座らしく、常に人を励ましながら、共に悲しみながら、必要であれば虚勢であっても笑顔を作りながら、人と人とをつないでいった。
その姿は、どうにも
それが原風景にでもなったのか、成人した彼女は、寄附やら社会貢献的な出資やらへ際限無く持ち金を投じてしまうお人好しになっていた。
その度合いは底抜けと評しても言い過ぎではないレベルで、見かねた私が検閲する羽目になったぐらいである。
例えば眼の前で低血糖で倒れられたことがあり、理由を追及したら、あちらこちらへと求められるままに寄付やら出資やらして金欠になって水だけで生活していたと白状した。その中には、あからさまに不審な話も平気な顔で混じっていた。
本末転倒だし無警戒すぎると散々説教したが、その後もまた同じ事態に直面したため、やむなく私が窓口になって調整することにしたのだ。
――「そこに法則性の匂いを感じるんだよねぇ。
これは自論なんだけれど、
奇跡的な偶然で、みたいなことに覚えはないかい?
例えば、計算上は地球に直撃するはずだった大型隕石が、何故か絶妙に外れてくれたり、とか。その外れるコースは最も起こり得ないはずだったのに、とても幸運な偶然で何の被害も起きなかった。
こういう、あまりにも都合が良すぎる偶然って、むしろ作為と考えた方がしっくりくるんだよね、私的には。
おっといかん話が逸れたね。
話を戻して、もしアタリなら、
それが分かれば、人間という存在を次の世界に引き継げるかもしれない。
人間という種のデータ、遺伝情報だけではなくて文明文化とか諸々の情報全てを、まるっと次の世界に再現する。次の世界でも人間を芽吹かせる、
裏山を探検する子供のように、楽しげに語る彼女。「私に出来ることといえば、
そこに妬みが混じっていることは、否定できない。
稀有な才能故に、妬まれ、冷遇される。
人の良さにつけ込まれ、騙される。
それでも。
――「私はね、人間はやり直す価値があるモノだと思うんだよ。今回は残念な結果に終わることになるだろうけれど、でもやり直しが許されるだけの価値を持ってると思うんだ」――
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