承(Ⅰ)-Rising Action【上昇展開】

 まあ、実のところ世界大戦で世界人口は激減したし、まともに機能している都市すら少なくなっている有様だったので、すでに十分終末だったのだが。


 複数多数個別の核誘導弾頭再突弾を入体ばら搭載まく大陸間弾道ミサイルMIRV-ICBMが一度使われてからは国際条約で規制されている兵器まで際限なく投入され、水掛け論のごとく相手を非難し合う不毛な戦況がひたすら続いた。


 消耗し合ったその果てに、苦し紛れに連邦が引っ張り出したいわば兵器で、両陣営共に地球ごと止めを刺されたわけだ。

 よもや狂人の空想科学によって滅ぼされるなど、誰が予想しただろうか。


 そして今、その逆にが、私の手の中に、ある。


 これもまた机上の空論、ファンタジーだと揶揄された研究。

 『デザイナーユニヴァース-シミュレーション美しく設計された宇宙の模擬実験理論』。別名『神の精緻な箱庭実験』。

 地球に限らずこの宇宙空間全体、その全てが任意の存在によって巧妙に設計された空間であるとする理論。

 原子分子の成り立ちから天体の運行まで、あらゆる事象が実に絶妙なバランスで、奇跡的な都合のよさで成り立っていることを、設計者デザイナーの存在を設定することで説明しようとする仮説である。


 これに類する見解は以前から漠然とはあり、要は別名に表れているように神の存在を認めるもので、批判を浴びてきた。

 しかし一方で、例えば、物理学を追求する者が全てが事実を前にして神の存在を否定しがたくなる、といったようなことはそれなりに有り、これに類する意見は以前から漠然とあって、意外と排斥されてこなかった経緯もある。


 そして、デザイナーDesignerユニヴァースUniverseシミュレーションSimulation理論TheoryDU-STダストと略され塵ゴミと暗にあしらわれた理論は、それらの最新版に当たるものだ。


 いや、最版と呼ぶべきだろうか。

 何しろ、設計者デザイナー、いわゆる神の存在をのだから。

 しかも、理路整然とした、瑕疵の無い数式で。


 それが問題運の尽きだった。


 矛盾なく欠陥も無い、認めざるを得ない美しい証明が成された。

 しかし、だからと言って『神は居る』と声高には言いづらい。


 結果、人はそれに関しては口をつぐむようになり、腫れもの扱いとなっていった。見て見ぬふりか、陰口を叩かれるかの、空想科学扱いとなったわけだ。


 この瞬間終末に、その空想が救済になろうとは。

 ただし、ここで言うとは、目前の滅亡を打ち消すような類のものではない。


 10代でDU-STダストを確立した提唱者は、世界大戦が泥沼と化す手前頃から、その理論に基づいてある解析を始めていた。


 世界中に残された遺跡、神話、僻地で口伝だけで残されていた民間伝承フォークロアから果ては製造不可能な遺物オーパーツまで、可能な限りの『遺されたもの』の情報を収集し、演算処理にかけながら、彼女は飄々と言った。


 ――「ノアの方舟を作れないかな、って思うんだ。


 いや、ね、どうも設計者デザイナーはこの空間が死んだらまたリスタートさせてるみたいなんだ。

 意図的にするか、繰り返しを物理法則に組み込んでおくか、どういう方法を採用しているかは分からないんだけれどさ。


 私個人としては、始まりたる爆発的膨張ビッグバン、からの終焉たる収縮圧潰ビッグクランチ、そのリピートかなと思うんだけれど、まあその話は置いといてだね、終焉時そのときに、どうやらがあるみたいなんだよね」――

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