03 モネ邸にて
「あれか」
割と大きな
幸次郎は邸の扉を叩いた。
するとモネの家人とおぼしき人が出て来て、紹介状を見せた。
家人は、
応接間で待っていると、モネが出てきた。
「
「
モネは髭をしごきながら「何が目的だね?」と聞いた。
「目的とは?」
「私は画家だ。それ以上でもそれ以下でもない。最近、私に会いたいという人が多くて。それも、画家の私ではなく、人気者の私に会いたいという輩が」
「
「オイ?」
突如の鹿児島弁に、さすがのモネも目を
幸次郎はかまわず、画のひとつを指差した。
「
幸次郎は次々と指を差していく。
「
「すまん、言いたいことはわかったが、やはりフランス語で頼む」
幸次郎は「おお」と手を叩き、自分が
モネは詫びた。
「画のために来たのはわかった。私が悪かった。最近、クレマンソーは来ないかと言う客が多くてね」
「クレマンソー」
フランスのジャーナリストにして、元首を務めるにまで至った人物である。
このフランスの宰相は、モネの親友であった。
「私がそういうコネを持っているのではないかと勘違いした客が多い」
そういう客を紹介した者も、「モネの画を観たい」と誤解させられていた。
だからこうしてモネは断りを入れるようにしていた。
「
幸次郎は天を仰いだ。
モネはその
「ははっ……すまない、歓迎しよう。ようこそ、ジヴェルニーへ」
どうやらモネは、幸次郎のことが気に入ったらしい。
*
ではすぐに幸次郎が画を貰えたかと言うと、そうではない。
モネはたしかに画を飾っていたが、それは自分用だと断られた。
なおも言いつのろうとしたが、第三者が現れたため、口を閉じた。
その第三者は、大きな
「シャルルはこのアトリエの建築、維持を手伝ってくれてね」
シャルルは一礼すると、眼鏡をくいっと持ち上げたが、それきり何も言わずに押し黙った。
あまり、人と接することが得意でないのかもしれない。
幸次郎はどこかでシャルルと会ったような感覚を覚えたが、そうこうするうちにシャルルは
「いつもあんな感じだ。気にすることはない」
モネは肩をすくめた。
「とにかく、君を歓迎する。今日はもう遅い。泊まっていき
酒は飲めるのだろう、とモネは笑いながら聞いた。
モネはフランス人として御多分に洩れず、酒を飲むのが好きだ。
いい相伴を見つけたといったところらしい。
「さあ、行こう。ワインだけじゃない、旨いナポレオンもある」
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