第三章 第六話

「コウ、そこに置いてあるカメラのレンズ取って」


 大輔が指さす方向を見ると、そこにはきらりとレンズが輝いているレンズがテーブルの上に置いてあったため、僕は慌てて手に取り、大輔に手渡した。


「ありがと。助かった」と大輔は言うと、カメラ用のバッグに詰め込んでいた。その様子を片目で見ながら、撮影スタジオの床を掃除していると、右肩に手を置かれた。振り向くと、そこにはしゅんが立っており、一枚の紙を僕に差し出してきた。


「コウさん。申し訳ないんだけど、撮影で使う小道具の買い出しをお願いしてもいい?これから撮影しなくちゃいけないからさ」


「わかりました!」


 僕は紙を受け取ると、書いてある内容を確認した。買い出しを頼まれた小道具の数々は一つの店舗での買い出しでは完結できないようなものばかりだった。だから、幾つかの店舗を車で回らなければならない。


「では、もしなかったら、メッセージアプリで連絡しますね」


「助かります!」


 しゅんが会釈程度に頭を下げた。僕はその紙を折り畳んで、ポケットの中に入れると、買い出し用のエコバッグを肩にかけた。


「それじゃあ、買い出し行ってきます」


 僕はそう言うと、「お願いします」というエキサのメンバーの声がぱらぱらと聞こえてきた。今から撮影を行うとしゅんが言っていたので、きっと集中しているのだろう。

 僕は邪魔をしないように部屋のドアを静かに閉めて、僕は撮影スタジオから外に出た。


 スタジオが十五階にあるのは少し面倒だ。

階段で降りると、気温が日に日に高くなっているため、一階に着く頃には汗だくになってしまう。

エレベーターを使うと、他の住人も同様にエレベーターを使うため、待つ必要が出てくる。


 タワマンに住むのは無しだな、と僕は変化している数字をぼんやりと眺めながら思った。僕が今後タワマンの上層階に住めるような経済力を身に付けられるはずがない。


 チンというエレベーターが十五階に到着した音が聞こえ、僕は我に返った。僕の目の前ではエレベーターに乗った数人が訝しんだ目で僕を見ていた。

 「すみません」と僕は小さく呟いて、僕はエレベーターに乗り込んだ。

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2025年1月10日 18:00 毎日 18:00

端役 鈴木 正秋 @_masaaki_

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