エピローグ
「あの娘、マジでいい娘だろう」
「そう……だな」
窓辺で新品の万年筆を掲げながら気のない返事をする。それは小夢が元丘に相談して、どこか元気がない陽介のためにと選んだものだった。
「意地悪して悪かったな。あの娘が渡すまでは秘密にしないとって思ってたけど、結局、焦るお前のことちょっと面白がってたしな」
「お前のそういうとこ、ちょっとだけ尊敬するよ」
「そうだろ。もっと、誉めていいんだぞ」
そう言って大袈裟に笑ったあと、けどお前もこれからが大変か、と神妙な顔になる。
「色々言われるだろうけど、お前とあの娘と……それと子供のことは応援してるぜ」
そういうことになっている事実に、顔が強張るのを感じつつも、
「ありがと」
短く応じる。大きな諦めの念を滲ませた声とともに。
*
夜。恋人が心配だから泊まるという名目で小夢の家にやってきた陽介は、 老いた男性に馬乗りに跨り声を出す、恋人のことを睨みつけている。
お腹を膨らませとても気持ち良さそうに喘ぐ女を、満足げに見上げる男。二人だけの世界にもはや俺など要らないだろう、と陽介は自嘲気味に思うのだが。
不意にぐるっと女が振り向く。
「ヨォ、くん」
頷き、ベッドに歩み寄る。その途中、老いた男が、愛だねぇ、などと呟くの苛立たしく感じつつも、差しだされた掌を掴む。汗ばんでいるそれを見ても、陽介の下半身はもう起き上がらない。あの日以来、ずっとそうだ。ただ、こうして手を握れば、小夢の笑みが底抜けに明るくなる。
「わたし、とってもとってもしあわせ」
勝手な恋人の言を、いい気なもんだと忌々しく感じつつも、ほんの少しだけ安堵した。とにかく、取り戻せたのだから、良かったのだと。息を切らし笑う小夢を見て、そう深く深く言い聞かせた。
いつでも微笑みを ムラサキハルカ @harukamurasaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます