第17話
シャドウ「ま、そういうことだから素人は黙っていてもらおうか。百万人越えユーチューバーの俺が言うんだから間違いなし。なー、ひよりん」
「うんうん」
俺はいけしゃあしゃあと煽りまくり、仕舞いには朝日向を味方につけて絶頂を迎える。視聴者としては後塵を拝していたので、まるで寝取ったかのような気分だ。
これで立場は完全に上となった。雑魚はしっしっ、である。
朝日向を悪い道へ行かせたりはしない。
どうした。ドヤなんとかとやら。何とか言ったらどうだ。
言えるものならな。
ドヤキング「二百万人」
は?
ドヤキング「あれ、言ってなかったっけ。おいらもユーチューバーで、しかも登録者二百万人越えてるんだわ」
な、なにぃぃぃぃ。
こいつ俺を越えてきただと!
馬鹿が。そんな取ってつけたような話なんか誰が信じるかよ。
「すごーい」
いた。はい、いました。
ひよりという名前の由来はたぶん日和だと思うが、いくらなんでも日和見がすぎるんじゃないのか。
「初めたばかり私の配信に百万人のシャドウさんと、二百万人のドヤキングさんが常連になってくれるなんて、こんな偶然あるんだ。すごーい」
ねーよ。
んなことありません。
頼むから少しくらい他人を疑ってくれ。
なんて、内心ツッコんでいる場合ではなかった。オセロの如くあっという間に形勢が逆転してしまっている。
「百万人越えと二百万人越えのどっちの言っていることが正しいかなんて子供でもわかる。ワンピースで言えばこれは懸賞金の額だぞ。頭が高い」
ぐぬぬ。
ドヤキング「ま、そういうことだから格下は引っ込んでてもらえるかい。おいらの言うことを聞いてればまず間違いないから、ひよりんもおいらのアドバイスをしっかり聞いてね」
「うんうん」
くっそ。寝取られ返されていまにも泣きそうだ。
朝日向、そいつは平気で数字を捏造してお前を操ろうとする悪だ。目を覚ませ。
ドヤキング「どうした、何か言ったらどうかね。登録者百万人くらいで言えることがあるならね」
絶対に負けられない。
俺の初恋愛がかかってるんだ。ここで退けるかよ。
もうこうなったら。
シャドウ「三百万人」
ドヤキング「は?」
シャドウ「チャンネル登録者三百万人越え」
ドヤキング「おいっ」
シャドウ「あちゃー。あんまり初心者のひよりんが萎縮しないように少なく伝えていたんだけど、ここまで言われたらばらすしかないかー」
普通、こんな眉唾を信じるお人よしなど世界中どこにもいるわけがないが、ちらりと画面の中を窺うと、
「すごーい」
案の定、通っていた。小さく拍手までしている。
「三百万人のシャドウさんと、二百万人のドヤキングさんが、同時に私の配信に来てくれてる。こんな偶然が」
だからねーって。
ねーんですって。
でも朝日向、好きになったのがお前でよかった。
逆転したのも束の間、俺は次なる手をブラインドタッチで打ち込み始める。
往々にして、オセロというのはひっくり返されるとまたひっくり返されるものである。しかもルールどころか審査員までもここまでガバガバでチョロいとなると、先読みしなければ勝利はできない。
ドヤキング。お前は俺に対抗していま「実は四百万人だったわー」とか書き込もうとしていることだろう。
だがそうはさせないぜ。甘いわ。
シャドウ「あれ、登録者数と一人称でぴんと来ましたけど、もしかしてあの方ですか。絶対そうでしょ。二百万の登録者となるとあの方だ。完全にわかりました」
これでインフレを強制終了させる。
不自然な間断。朝日向が不思議そうに体を傾ける。
そして、慌ててバックスペースキーで書いたものを削除している気配。
さあどう出る。
ドヤキング「あー、ばれたかー。ってことはもしかしてシャドウさんってあの方かな。そうだ。間違いなくそうだ」
なるほど、そっちもそうきたか。
相手も意趣返しで牽制して、これ以上あとで盛れないようにしてきた。
さしもの朝日向もこれ以上のインフレは嘘だと見抜く恐れがある。痛み分けを狙った形だ。
シャドウ「おや、やっぱり、わかりますか」
ドヤキング「三百万人越えの人ってなると限りがありますからね」
シャドウ「いやー、いつの間にか俺のほうが登録者数が上になってしまいましたね」
ドヤキング「お気になさらず。二百万人越えと言っても、あと数人で三百万人達成しますから」
シャドウ「もうそんなところまで。いやーめでたい」
ドヤキング「いやはやまったく」
シャドウ「まさかあの方とは」
ドヤキング「あの方とここで会えるとは」
シャドウ「はっはっは」
ドヤキング「はっはっは」
このクソがっ。
あの方って誰だよ。コナンじゃあるまいし。
いや名前を出したらダメならハリーポッターか。
とにかく、俺が上位のまま固定しておきたがったが、相手がどうにかイーブンまで持ってきた。
これで振り出しだ。
いったい何だったんだこの無駄な時間はっ。
「すごーい」
見ると、朝日向は相も変わらずパチパチと感動していた。
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