第5話 再開

急ぎながらされど慎重に進む。なるべく早く救助することも大切だが、俺たちがつぶれてしまったら、意味がないからだ。走りながら横をちらっと見る。拓魔は浮遊魔法のおかげか疲れている様子はない。だが急いでいるせいで砂埃が立っていること、魔法で周囲を警戒し続けていることからあと五分で着かなければ休憩しないといけない。そう焦っていた時に、拓魔が叫ぶ


「熱探知に反応があった!炎の音と、多数の人型!ここから300m!」


「了解!皆さんスピード上げれます?」


「俺はいける!」


「自分はスキルがあるので大丈夫です」


「私は、盾がなければいけます、今は、このスピードが、限界です!」


重友さんの言葉を聞いて拓魔に視線をずらす。目があった瞬間に頷いて、俺につかまってから重友さんの盾に掌を向ける


「アド ムンディ ソムニア、はい、うかせたよ。行けそう?」


「はい!ありがとうございます。行きましょう!」


あと、100M…あった。崖の上から焚火の音が聞こえる。きっと洞窟の前で焚いているんだろう。小さな話し声も聞こえる。ただ、それ以上に大きな獣の声が周囲から聞こえる


臨時的な避難所ってだけで、ずっといれるわけじゃなさそうだ


「これはきつそうだね。みんなちょっと待ってて飛ばすよ」


大杖を空中においておき、杖を手に取る。個人的には補助魔法って思ってるからね。よし、できた。僕と重友さんは浮かせてるものがあるから、それにつかまって…他のみんなも、武器浮かせればいいじゃん


「よし、行こ~武器につかまって~行くよ?……ゴー!」


フワッて、浮いていく。崖は50mもないけど捕まってるのがきつくなってくる。最悪、自分ごと浮かせればいいか、と考えていたら腕を手で支えられる


横を見ると剣一が支えてくれた。浮いていく途中時々落ちそうになったけどそのたびに支えてくれた。助かったぁ、コメント欄でも僕が滑り落ちそうになるたびに悲鳴が上がっていたし、安心させる意味でも支えているんだろう


「もうそろそろ、ようやく!とうちゃ~く」


「ごめんなさい、通して!」


「皆さん無事ですか!って灯!」


ざわざわと洞窟の入り口に集まりだす遭難者たち、その人をかき分けながら出てくる見覚えのある女子。腰まで伸ばしている金髪はボサボサになっていた。でも体に包帯やら添え木やらをしていることもなく五体満足で僕たちのもとへ走ってきた


「よか…」


「なんで拓魔がここにいるの!こんなところに連れてきて症状が悪化したらどうするのよ!私がいなかったら止めるのは貴方の仕事じゃないの!?」


再会を喜ぶ僕たちに向けられたのは、般若のように怖い顔をしている灯だった。その明かりに僕は驚きすぎて声が出なくなり、剣一は圧に押され少しずつ後ろに下がってしまっていた


「まったく!とりあえず洞窟の中に入って頂戴、情報交換をしましょう。解決しなきゃいけない問題があるわ」


だが、そこはさすが灯といったところか、すぐに切り替えて洞窟の中へと案内してくれた。洞窟前に集まって僕らを見ていた人たちも、灯の一声でサッと道を開けてくれた。灯はリーダー的なポジションなのか?


「ここでいいかしら?女性と拓魔はこっちへどうぞ、悪いけど椅子の数が少ないの」


洞窟を進み何やら広い空間へと出る。その中には休んでいる人や集まって鬼ごっこをしている子供たちやら多種多様の人たちであふれかえっていた


灯はそのさらに奥へと進み、岩で作られた(いや自然の岩を利用しているのか?)机と椅子に案内してそう言った。確かに椅子は多く見積もっても三人しか座れない。それなら女性と体の弱い僕を座らせるのはよくわかる。わかるけど…


「なんか複雑」


「どうした?座り心地でも悪いのか?」


「いや、座り心地はいいよ、剣一が切ってくれたおかげでね。でもさぁ、女性と隣で座るってさぁ」


「なによ、席が足りないから仕方がないじゃない」


「うぅ~」


こう、男としてのプライドというかぁ、なんというかぁ


そんな僕の葛藤を見抜いたのか、幼馴染二人はため息をついて僕にかまうことをやめた


「ねぇ、あなたたちは私たちを救出するために来たってことでいいのね?」


「あぁそうだ」


「なら、ちょっと討伐を手伝ってほしいモンスターがいるんだけど」


「ちょっと待った!その前に自己紹介しないか?俺たち同士は分かるけどこの人たちは知らないだろ?」


「あぁそうね!」


灯は岩から立ち上がり全員の顔が見える位置に移動する

そのまま、スカートのすそを上げて貴族さながらの挨拶をした。こういうところにイギリスの血を感じる


「初めまして、私、灯・スミスと申します。灯が名前です。この二人とは幼馴染で幼少期からの中です。これは…スキルの説明をした方がいいかしら?」


「あ~いいけど…僕たち配信してるよ」


「は!?そんなの一言も聞いてないのだけど?ちょっとそういうのはあってすぐいうものじゃないの?」


配信という言葉を聞いた瞬間に僕に詰め寄ってくる。僕のことを叱りながら髪の毛を手櫛で溶かし始めたから、きっとボサボサになっている髪が世界に拡散されているのが嫌なんだろう。配慮が足りなかったな。反省反省


「灯が無事だったからさ、吹っ飛んじゃって~ごめんね?」


手を顔の前で合わせて目をつぶり謝る。精一杯の申し訳なさを体全体で表したら灯たちは結構許してくれる。案の定


「そ、それならしょうがないわね!」


と、許してくれた。その様子を半眼で眺めていた剣一は笑いながら言った


「相変わらず拓魔には甘いな」


「あなたには言われたくないわ!はっ!ごほん…失礼。スキルの話ですよね?」


いつもの小競り合いを始めようとしたら他の人がいることに気づいて真っ赤な顔でスキルの話へ軌道修正した


「私のスキルは、簡単に言うと回復です。治療方法がわかっているもの、治りきってないものはすべて治せます。また、水の精霊が私のそばにいて、水をどこからでも出すことができます」


「回復スキル!!あまりにもでかすぎる!!」


思わず立ち上がって大声を出してしまった。僕は体質だか何だか知らないけど回復は比較的多くのMPを吸われた。このチームの足りないピースが一瞬で埋められた!


「マジかよ!さいっこうだな!しかも水をいつでも出せるって!!」


「ええ、本当に良かった。これで……。いや、時間を取り過ぎたわ!私はこれで終わりにしましょう!」


「あぁそうか、俺たちはいいよな?矢筒さんから時計回りでよろしくお願いします」


「ん?おう」


指名された矢筒さんは立ち上がり、背負っていた弓を取り出した


「俺は矢筒大将。自衛隊に所属している。俺のスキルは、矢の飛ばすスピードをいじれるってスキルだ」


「そんなスキルだったんだ…待って?もしかしてあの制度って自前?」


「もちろん」


わ~おいかれてらぁ、さすが階級を昇りまくっている男。このくらい本体性能がいかれてないと


「次は私ですね。初めまして、影浦と申します。ここではカメラマンを務めていて、スキルは影に潜ったり移動したりできるものですね」


「影浦さんは基本後ろからとってもらうから、灯の近くで待機する感じかも」


「そうですね。では重友さん。お願いします」


「は、はい!」


「私は、重友香です!えっと盾…違うか、スキルは、盾を持っているときに、自分の、身体能力を向上さ、せてくれるものです!」


一度テレビの前で自己紹介したからか、その時よりはどもらずにしゃべれていた


「もしかしたら、一番スミスさんの手を借りるかもです…」


「盾だもの、しょうがないわ」


「そうですね!その傷は勲章ですから」


笑いながら二人がいう言葉に感動したのか、うるんだ瞳で笑った。少しは息抜きになったかな?

その会話が終わった後、灯が突然話を切り出した


「終わったわね。悪いけど急がないといけないの。ここには倒れている人がいっぱいいるでしょう?」


そういわれて改めて周りを見渡す。言われてみれば子供のスペース以外は、眠っている人で埋め尽くされていた


「ここから出るためのゲートの位置は見つけてあるの。ただ、その前に毒沼に住む主がいる。その主がこのあたりに毒をばらまいてる。その主を倒せば、毒を完全に抜ききることができるはずなの。それを手伝ってほしいの」


出来るわよね?と挑発を隠さずに笑う。そんなの見せられたら…ねぇ?


「やってやるさ!」


「よゆ~だね!」


「「いや、拓魔はあんまり前に出るなよ/でないでね」」


「ええ!?ちょっと!そういう雰囲気じゃなかったのいま!?」


僕へのいじりで緩んだ空気を引き締めて、灯に毒沼へと案内してもらう。はずだったんだけど、流石に疲労がたまり過ぎだからと、一回寝てから再出発することになった。そういわれたときは全然眠くなかったんだけど…


「ほら、諦めて目閉じろ」


「早く寝ないといいことないわよ、大丈夫今は私がそばにいるからすぐ治すわ」


「んぐぅ」


案外疲れがたまっていたのかもしれない。横になって毛皮を敷かれた瞬間に寝てしまった


一言メモ

スミス・灯/すみす・あかり

黒崎ほどではないか、富豪ではある。昔から勉学意欲が高く、複数の塾に通っていた。白野が巻き込まれた事件の犯人を見たことがあり、あの時立ち止まらなかったことを後悔している



あとがき

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