第4話 焼肉パーティー

範囲魔法は三人を巻き込む可能性があるから却下、かといって甲羅を避けて肉に魔法を当てる方法がわからない。いや、あれを使えば…でもうまくいくのだろうか…


「拓魔!どうにかしてくれ!できるだろ!お前なら!」


足やくちばしで攻撃してくるカメをよけながら剣で攻撃を加えようとしているが有効打にはなってないみたいだ。そんななかこちらの気配を感じ取ったのか、振り向いて叫んできた


「……期待には応えないとね」


大杖を地面に突き刺して両手で握る。深呼吸をして集中する


「十秒頂戴!合図を出したら離れて!」


「「「了解!」」」


僕の言葉にそう答えて総攻撃にかかった。矢筒さんは矢でカメの視線を逸らし、香さんは剣一の動きについて行って攻撃を防ぎ続けている


「できた!!」


僕の大声に反応してみんな素早く下がっていく


「さっきの突風から着想を得た特大ハリケーンだ」


大技を放つ時によくなる吸い取られる感覚に少しくすぐられながら叫ぶ


「アド ムンディ ソムニア」


制御しきれず漏れ出た風が木々を吹き飛ばす。僕の魔法はカメの下に移動して、カメを切りつけながら上へ押し上げる

上へ上げられているカメの叫び声がどんどん小さくなっていく、そしてカメの顔がはっきりと見えなくなってきたころ風をなくす

はるか上空から落ちてくるカメ、途中でバランスを崩して半回転し甲羅が地面にたたきつけられた


大きな衝撃音の中に聞こえてくる小さなバキッという音


でも甲羅を壊すことはできなかった。多分どこかにひびが入ってるんだけど…


「ここにヒビが入ってる!矢を狙え!」


矢筒さんはそう叫びながら矢を放つ、それは小さな切れ込みに突き刺さった


「初めて見たときからずっと思ってますけど、よく当てますね」


「この前、話聞いたら弓道とアーチェリーやってたんだって。銃も自衛隊入ってからトップクラスの成績らしいし」


「は~それは、すごいですね」


「うん、すごい」


三人の戦いに集中しておざなりな返事になってしまったけど許してくれるだろう


僕の魔法はどれだけ小さくしても周りに被害が出る、それで重友さんの視界をふさいだら前線が崩れるかもしれない


「ボス戦の連携とか考えておかないとね」


「そうですね。このまま見ていても暇ですから」


話をしながらジッと見つめる。剣一が持っている剣を、大きくなったひび割れに突き立てたまま後ろに下がる


あぁなるほど


「そういうことね」


そう呟きながら、突き刺さったままの大杖を軽く触る、周りに被害が出ないように線で通すイメージで…!


「拓魔!後頼んだ!」


にやけ顔で僕の声を呼ぶ。どうせ、僕が暇してるのが見えたんだろう。そのまま僕の居る場所に近づいてくる


「よし、!重友さん下がって!アド ムンディ ソムニア」


大杖上部についているオーブからバチバチと稲妻が走り、そのまま、亀の甲羅に刺さっている剣へと向かっていく。金属でできているからか吸い付くように甲羅に直撃した



大きな叫び声と衝撃で、吹き飛ばされそうになる。吹き飛ぶ前に剣一が回収しに来てくれて事なきを得た


「あっぶね、なんかいやな予感がしたんだよな。正解だった」


僕を片手で支えながら大杖を引き抜いてこっちに渡してくる。僕は浮遊魔法をかけなおしてお礼を言った。それに対して、いや、いーよ。と笑って答えた


「俺じゃ決定打になりえなかったしな。耐久が高い奴は魔法で対処ってことよ」


「そうだね。あ、矢筒さんが解体してる。カメの肉っておいしいのかな」


「しらね、それこそこの配信観てる有識者に聞けばいいんじゃね」


「カメ食べたことある人~レビューよろ~」


ぷかぷか浮かびながら二人に近づく。影浦さんは僕たちの横を歩きながらコメントを読んでいるみたいだ。その間、矢筒さんと重友さんは解体作業を進めていた。まだ少し静電気が残っているみたいで、苦戦している。重友さんはスキルのおかげで、いろいろなものに耐性がついたらしいけど、矢筒さんは大丈夫なの?


「うっし、このくらいでいいかな。重友さん、助かりました。ありがとうございます」


「いえいえ、カメのお肉食べてみたかったのでちょうどいいです」


「そ、そうなんだ」


(意外とパワフルなんだな、重友さんって)


少しひきつる顔をごまかしながら、笑顔を浮かべる。俺は同僚に勧められて食べたことはあるけど進んで食べようだなんて、もの好きな人だ


「お~い、そろそろ休む~?」


「おい、あんまり大声出すなよ。また、咳が出るぞ」


「治癒魔法あるもーん」


スマートフォンとにらめっこしている影浦と二人が森の奥からやってきた。黒崎に剣を渡してから、小枝を広場の真ん中に集める。ここはさっきの戦闘のおかげでかなり開けている、だから万が一にでも山火事の心配はないだろう

だがライターを使って火をつけようとしても、なかなか続かない。落ちていたものとはいえしっかりと乾いていないようだ。落ち葉でも集めるかと小枝の前で降ろしていた腰を上げようとすると、焚火に影がかかる


「僕が付けようか?頑張ればいい感じの火、出せると思うんだけど」


白野がそう話しかけてきた。流石にやけどの跡がある人間に炎は使わせたくないため、断ろうとするが、それより先に火がつけられた


「火は、怖くないのか?」


「うん、剣一がいないうちにつけたかったんだよね」


「黒崎がいないうちに…?」


周りを見渡すと、森の方で木を切り木材を作っているようだった。それももう終わったようで、両手に抱えながら、戻ってきた


俺と目があった瞬間、いや、火の前に座り白野を見たとき駆けてきた


「あぶねぇぞ!もっと下がれ!」


そう言って白野の腕をつかみ、火の粉すら飛ばない場所へ引っ張る。そこに丸太を使った簡易的な椅子を置きそこに座らせた


その間に俺の隣へ丸太が飛んできた。おそらく浮遊魔法だろう。すばらしい連携だ、幼馴染とはいえ、ここまでスムーズにいくことはないだろう


「そんなに過剰反応しなくてもいいじゃん」


「煙吸い込んだらどうすんだ」


「うぐぅ」


口喧嘩で勝てなかったようで、浮遊魔法で浮かせた杖で黒崎をつついていた


「いてぇよ」


その様子を笑いながら、枝をくしのように細くしていく。いつのまにか帰ってきた重友さんを入れて、3人でくしを生産し続け白野はそれに対して消毒を行い肉にさす。五本揃ったらそれを焚火に置く。その間、影浦は何か作業を続けていた


肉汁が垂れながら焼かれていく。いいにおいが漂ってきた。肉を全員に配り、とりあえず乾杯をした。うんうまい。だがあの時食べたカメとは違う味だ、似て非なる生物なのかもしれない


一本のくしを食べ終えたころに、影浦から喜びの声がもれる


「どうしたんですか?」


隣で突然の奇行が起きたからか、声を震わせながら影浦の方を見る重友さん。それに対して申し訳なさそうに、嬉しそうに語りだした


「今回少し特殊なカメラとスマホを持ってきたんです。ステータス画面と同じように投影できるもので、それで、今日作ってもらったばかりだったのでうまく使いこなせなくて!

今説明を聞きながらようやくできたんですよ!」


一呼吸おいて、スマホをタップする。ブォンという音とともにステータス画面のような背景と上へ流れ続ける白い文字があった


「コメント欄!」


「す、すげぇーー」


「す、すごーーい」


ドヤ顔を隠さない影浦と、ほめちぎる高校生組、処理しきれないほど早く流れるコメント欄に失神しそうな重友さん。気にせず肉を焼き続ける俺

これがカオスって奴だろうか


“”

キターーーーーー

目回してるのかわい(笑)

ガメ“ち“ゃ”ぁ“ぁ”ん“

モンスター肉?カメ肉?

感想暮れ

“”

「ねぇねぇ、カメ肉の感想ほしいって!」


「結構うまいぞ。本物のカメは食ったことないけど」


「淡泊な味だぞ、たいしてうまくもない。ま、調理方法が悪かっただけかもしれねぇが」


黒崎にカメの味を教えた後に、沈黙が訪れる。不思議に思って火から顔を上げた瞬間、重友さんが真っ青な顔でつぶやいた


「自衛隊ってそんなに大変なんですね…」


「…!?」


「ぶはっ、ハハ!すい、ませ、ん…アハハ!」


影浦の笑いを皮切りに高校生組も続き、笑いだす。コメント欄も笑いの文字であふれかえってきても重友さんは何もわかっていないようだった


「この人結構な天然ボケだぞ…」


「ひ~笑った笑った。さて、もう一本頂戴」


「俺もください!」


「ご、ごめんなさい、私もおかわりを…」


「気に入ったんですね、それなら私の分も食べていいですよ」


ある程度食べ進めたとき、コメント欄の雰囲気が一気に変わった


“”

うまそ~

カメ肉食べてみようかな

なんか後ろにみえない?

煙だろ。山火事みたいな感じじゃないし気にすんなよ

なんで、ダンジョンで煙が上がってんだよ

たしかに

閉じ込められてる人じゃね?

後ろ!気づいてくれ!

“”


「煙?」


体が小さいから胃袋の許容値が少なく、三本目でダウンしてコメント欄と話していた時、みな煙が見えるといい始めた


「うしろ?」


後ろという言葉に従って振り向くと、細長い煙が上がっていた


「あ!みんな見て!」


「ん?どうした?」


後片付けを始めていた面々に煙を見せる。敵か、味方か、僕には判断着かない。もしかしたら火を扱うモンスターだっているかもしれない

煙をじっと見つめていた矢筒さんが顎に手を当てながら言った


「あれは、狼煙だな。狼煙にしか出せない高さだ」


「遭難者ですかね。急ぎましょう!」


盾を素早く背負い、今にも駆けだしそうな勢いで重友さんが声を出す。火の始末をしっかりしてから狼煙を目指して走り出した


一言メモ

重友 香/しげとも かおる

心優しく臆病な性格だが、昔からヒーローにあこがれており、日々誰かの小さな手助けをしている。チュートリアルダンジョンに吸い込まれたときから、誰かを守り続けている。その姿を目撃され討伐メンバーにスカウトされた

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