それは雛鳥の如く 後編

「コルウス様、良いお話があります」


 僕が継承権を放棄してから二年。僕が十五歳になってしばらくしてからのことだった。ノックと同時に入ってきたのは、艶やかな腰まで伸ばした黒い髪を尾のように後ろで一つに結んでいる見目の良い男性だ。

 左目を隠すように深い紫色をした革の眼帯をつけておるが、その欠陥すらも彼の美しさを際立たせているように思える。


「セプス、従者ごっこが気に入ってるのかい? いつものように呼んでくれて良いよ」


 恭しく僕に傅いたセプスは、そう言われてニタリと小さな牙を覗かせて笑うと立ち上がって僕の肩に肘を置きながら口を開く。


「コル、ようやくお目当てのものが出品されそうだ。来週末の夜に、例の場所へ行きたいと親父殿に伝えてくれ」


「ああ、わかったよ。君の捜し物が出品されるんだね」


「そうだ。この身体をあのちっぽけな石に詰め込まれてから数百年……ようやくこの手に取り戻せる」


 はしゃぐようにそういったセプスは、真紅の虹彩をきらきらとさせてそう言った。いつもは僕の教育係として物静かに過ごしている彼が本来の明るさで話していると僕まで楽しくなってくる。


「とっても強そうな君がなぜ封印をされたのかを、今は聞かないけれどいつかは教えてくれるかい?」


「ああ、お前が一人前の魔法使いになるまで時間は十分にあるだろうからな。いつか話を聞かせてやるよ。でもまずは、俺の願いを叶えることが先決だ」


 浮かれているセプスとそんな会話をしながら、寝床に着いた翌日、僕は早速父上に自分のやりたいことを伝えることにした。


「父上」


 父上はすっかり僕のことを信頼してくれたらしい。新しい母上もすれ違うときに僕を気味悪いものを見るような目付きで見てくるけれど、特に危害を加えてくる様子はない。


「例のオークションへ行きたいんです。来週末の夜、ヘブリニッジのとある会館で行われるっていう……」


 機嫌の良さそうな父上にそう伝えると、父上は眉尻を下げて少しだけ困ったように笑いながら僕の頭に手を伸ばしてきた。


「まったく、耳聡い子で困るな。しかし、約束は約束だ。連れて行ってやろう。しかし、欲しいものがあってもほいほい金を出すことは出来ないぞ」


「大丈夫です父上。僕も継承権を放棄した代わりにいただいた小さな事業で得た蓄えが少しばかりあります」


 父上は安心したような表情で頷くと、僕にオークションへ参加してもいいと言ってくれた。

 今ではすっかり僕の良い父親として振る舞ってくれている。僕も檻に閉じ込められていた期間が無ければ、ずっと父上のことを良き親として慕えていたんだろうなと思う。一家の主としては必要な振る舞いだということもわかるから、命を取って復讐してやろうなんてことは思っていないけれど……。

 心の中で「もうすぐさようならですね」と思いながら、僕は自室へと戻ってオークションが開かれる夜を待つことにした。

 この二年間で、初歩的な魔法はセプスから習うことが出来た。セプスは「百年、いや千年に一人の才能かもしれない」なんて褒めてくれている。十分だとは思わないけれど、セプスと二人で生きていく分には足手まといにならないだけの力はあると思いたい。

 オークションが開催される日の朝、最低限の荷物をまとめて僕とセプスは馬車へと乗り込んだ。


「……では行って参ります。迎えには来なくて結構です。寄り合い馬車にでも乗って帰りますから」


 見送りに来てくれた父上に馬車の窓からそう告げると、父上がこちらへ近付いて来てなにやら小さな小袋を手に握らせてくれた。


「朝になれば迎えの馬車を出すくらいはしてやろう。夜を明かすならば酒場にでもいるといい。金貨を一枚でも払えば上客として扱われるはずだから」


 小袋を開けてみると、金貨が五枚ほど入っている。子供への小遣いにしては多い方だろう。本当に、あのことがなければ僕は貴方を良い父親として見ていられたのにな。


「ありがとうございます、父上。お元気で」


 笑顔で父上に挨拶をする。もう二度と会うことはないだろうから。


「ははは、今生の別れのようなことをいう。なに、確かに非合法な品を扱っているが命まで奪うようなものがあることは稀だ。楽しんできなさい」


「はい」


「では、セプス、コルウスを頼んだぞ」


「畏まりました、旦那様。ではコルウス様、参りましょう」


 僕たちを乗せた馬車は、屋敷を後にしてオークション会場であるヘブリニッジへと向かうために走り出した。

 ヘブリニッジは小さな港町だが人の往来は多いようだった。それともこの非合法なオークションのためにいつもより人が集まっているのか、僕には判断がつかないけれど。


「坊ちゃん?」


 受付をしてきたセプスが持ってきた顔の上半分を隠すような仮面を身に付けて、これからオークション会場へ入るための列へと並んでいると、聞き覚えのある声と共に肩を軽く叩かれた。


「……え」


 慌てて僕は声の方へと目を向ける。それは、聞こえてくるはずの無い声だったから。

 目の前には、老婆のように真っ白な髪の女性が立っていた。かつてのような艶のないパサパサとした髪ではなく、今は艶のある白髪を上品に頭の高い位置でまとめている。服装もきめ細かい刺繍の入ったお仕着せを身につけていて、僕の屋敷にいたときよりも待遇が良さそうだ。


「ギーラ……どうして」


 一瞬、別人かと思って名を呼んだ。隣に居るセプスは鋭い目付きでギーラのことを警戒するように睨み付けている。


「今にも死にそうなわたしを、ある御方が助けてくれたのです」


 ギーラは見たことも無いような穏やかな微笑みを浮かべながらそう答えた。あの熱に浮かされたような不気味な笑顔では無く、本当に穏やかという表現が相応しい表情で驚いていると彼女は微笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


「ぼっちゃんのことは恨んでいませんよ。あの屋敷から出たお陰で今の主人と出会えたので」


「そ、それならよかったよ」


「卑しい魔女とバカにされたわたしを、今の主人は崇高な血筋だと言って大切にしてくれますから。こうして呪いも解いていただいて……今はこちらの……オークション会場の主に雇われているのです」


 彼女が話している間に、オークション会場の重々しい鉄の門がゆっくりと開いていく。


「さあどうぞお入りください」


 うやうやしく頭を下げたギーラに見送られるようにして、僕とセプスは妖しげな雰囲気の立ち籠める館へと足を踏み入れた。

 中は不思議な香りが充満している。セプスが小声で「吸血鬼避けに柊の葉を焚いているな」と顔を顰めながら伝えてくる。

『大丈夫なのかい?』と心の中で聞いてみると「心配するな」とだけ返事をされた。そのまま廊下を進んでいくと広いホールへと辿り着く。使用人に案内されるがまま僕たちは小さな仕切りの間にある二つの椅子へ腰を下ろした。

 ホールの中が広いからか不思議な香りはかなり薄まっている。

 ガヤガヤしていたホールがしばらくして静まりかえり、部屋を照らしていた天井の灯りが落とされる。魔石を使った大きな角燈ランタンが舞台の上に設置され、いよいよオークションが始まった。

 人魚の稚魚、人狼の子供、火竜と人間の間に生まれた子供、魔女の子宮など色々なものが競りに出され、そして参加者たちが様々な値を付けて競り落としていく。今日は特別に趣味の悪いものが出品されているみたいだった。これなら、僕の罪悪感も薄くて済みそうだ。同じ生き物を、物のように扱うやつらなんて、死んだとしても問題無いだろう。


「さあて、いよいよお目当てのものだ」


 セプスが僕に耳打ちをしたので、身を乗り出して舞台の上へ目を凝らした。


「登録番号三十八番、黒の吸血鬼の瞳。出品者は明かせませんが身元は確かな方からの出品です。鑑定証ももちろん本物でございます。銀貨五十枚からスタートしましょう」


 舞台の上に置かれた小さな瓶の中には球状の白い物体があることだけはわかる。でも、目玉だと言われれば目玉に見えるけれど遠くから見ても正直良くわからない。


「銀貨五十七枚」


 どこかの男性が値段を口にしたのを皮切りにして次々と色々な人が自分の望む値段を口にしていく。


「あれが、君の左目かい?」


「そうだ。よく見て見ろきれいな夕焼けみたいな赤色を」


 自慢げにそう言ったセプスは、僕の手を取って自分の口元へとゆっくりと運んでいく。


「契約者、お前の血を貰うぞ。了承してくれ」


『互いの契約の名の下にコルウス・アディンセルは、黒の吸血鬼セプス・イムプレカーティオーの左目を取り戻すために最善を尽すと誓う。今、彼に我が血を捧げよう』


 心の中でそう言うと、セプスが僕の手の親指に牙を立てる。プツリと牙が僕の手の皮を貫く感覚がして、温かくて熱い彼の舌が僕の指を撫でる感覚がした。


「じゃあ、ここで一つ、静止の魔法を頼む」


「わかったよ」


 何も変わった気はしない。ただ、セプスの声が楽しそうに少しだけ上擦っていることだけ伝わってくる。

 僕は息を思いきり息を吸い込んで目を閉じてから、ゆっくりと目を開く。魔法を使う時は強い意志を持って、言葉を発すること……。


動くなPeidiwch â symud


 ざわめきが一瞬で静かになる。あれだけ動いていた人々は口を閉じ、誰も動こうとしない。


「原初の言葉を用いた魔法……、上出来だコル」


 そう言ったセプスが、椅子を足蹴にしてホールの中心に躍り出た。グルリとまわると尾のように垂れていた髪が靡き、風を起こす。突風はホールの上方にあった窓という窓を割り、夜の湿った潮風と共に新鮮な空気がホールの中を満たしていくのがわかった。


「聖水も、柊の枝で焚かれた煙も、我が肌に触れさえしなければ怖くは無い」


 楽しそうに髪を靡かせ、手当たり次第に掴んだ人の首に噛みついていく。躾のなっていない飢えた犬のようにセプスは人々の血を浴び、血を飲んでいく。


「陽の光も、聖なる言葉も我が身に届かなければ意味は無い」


 ははははと大きな声で笑っていたセプスが、足を止めてホールの外から飛び込んできた黒い影に伸ばした髪を鞭のように叩き付けた。

 黒い影は猫のように背を丸めてそれを避けると、そのままセプスの方まで真っ直ぐに突っ込んでくる。


「さすが闇オークションだ。コルの魔法を喰らっても動ける奴はいるとはな」


 黒い影のテッペンは雪のように白かった。


「ギーラ?」

「……三流魔女か」


 セプスの前に立っていたのは、紛れもなくギーラだった。鋭い目付きで彼女は全身血にまみれているセプスのことを睨み付けている。


「吸血鬼除けを焚いていたのに無効化されるとは予想外でしたが……いいでしょう。主人のためせめて商品は守ります」


「……へえ、三流魔女よ、お前が俺に勝てるつもりか?」


「確かにわたしは、坊ちゃんのお屋敷に居た頃はお粗末な魔女でした。ですが、主人から魔法の手ほどきを受けてわたしは変わりました。三流とは言わせません」


「コル、一応気をつけろよ」 


 大きく飛び退いて僕の隣に戻ってきたセプスはギーラを睨み付けたままそう言った。

 再び大きく飛び上がったセプスがギーラに向かって鋭い蹴りを放つ。それを両腕で受け止めたギーラへ振り上げた髪を鞭のようにしならせたが、後ろに飛び退いた彼女はそれをすんでのところで避ける。


「影よ闇よ芽吹け我が花、寄り合い貫け夜の遣いを」


 魔女の呪文だった。地面に広がっていた影が植物の蔓のような形になったかと思うと勢い良く伸びてセプスが足っている場所を鋭く穿つために伸びてくる。


「伸びて絡め蜘蛛の糸が如く、阻め止めよ夜の羽音」


 上に飛んだセプスの足に影の蔓が絡みつき、セプスが床に叩き付けられた。


「チッ……本当に魔女として少しは成長したようだな。コル!」


 床に叩き付けられたセプスを覆うように盛り上がった影の蔓たちが先端を尖らせて鎌首をもたげた蛇のような姿勢になる。

 影で出来た植物なら、きっとこれで枯れるはず!


枯れろsychu i fyny


 思った通り、セプスに絡みついていた影の蔓たちはしおれ始め、セプスが床を蹴って髪を振り回してしおれた影の蔓たちを一掃した。


「あらあら坊ちゃん、やはりあなたの喉は封じるのでは無く潰してしまった方がよかったかもしれませんね! 芽吹け闇から、伸びろ影から、摘み取れ刈り取れ最初の人アダムの林檎を」


 ――しまった。自分の方へ伸びてくる影の蔓たちにもう一度「枯れろsychu i fyny」と言おうとした時、目の前が真っ暗になって思いきり突き飛ばされた。


「セプス!」


 突き飛ばされたときにはもう手遅れで……影の蔓に胸を貫かれるセプスの姿に手を伸ばすことしか出来なかった。


「なに、俺様は黒の吸血鬼。心臓を貫かれたくらいかすり傷さ」


「吸血鬼って強がりもいうんですね。他の吸血鬼は動けなくなったというのに動けているのは、賞賛に値しますが」


 口から血を吐いて胸を押さえながら僕を見ているセプスに、ギーラが楽しそうにそんな言葉を投げかけてくる。


「ククク……三流魔女と馬鹿にしたのは訂正しよう。あんたは立派な魔女だ」


 勝利を確信しているからか、ゆっくりとこちらへ近付いてくるギーラを見て、セプスは溜め息を吐きながら僕を見た。


「もう少し先に取っておこうと思ったが仕方がない。コル、頼む」

「わかった」


 セプスに言われて、僕は急いで立ち上がって彼の元へ行くために床を蹴る。


僕は捧げよう、力をRwy'n cysegru fy nerth……契約者へI'r cyfaill


 そう唱えると、何をするのか察したのか歩いていたギーラが慌てて走り出そうとするのが見えた。


動くなPeidiwch â symud絶対にyn hollol


 僕が呪文を唱えてギーラの動きは止まったけれど、彼女の笑みは崩れない。

 セプスが僕を抱き留めて、ゆっくりと僕の手首に牙が突き立てられている。彼女に隠し球があるのか、それとも、彼女は吸血鬼の本当の力を知らないのか……。


「ふふ……優しいですね坊ちゃん。その魔法でわたしの死を願えばよかったのに」


 呪文の効果が切れたのか、彼女が再び動き出す。


「命を奪えぬ魔法使いは、己が奪われる側になるのですよ」


 懐から小さな杖を取り出した彼女は僕とセプスに向かって、その杖を何度か振るった。


「それは追々、俺が教育をしておく。心配するな」


 僕の手首から口を話したセプスが、前屈みのまま高揚した口調でそう述べる。それから首を軽く動かすと長い黒髪がしなってこちらへ伸び来てた鋭い魔法の蔓を全て叩き落とした。


「死に損ないの穢らわしい種族が! 邪魔だ」


「知らなかったのか? 穢らわしい種族ってのは血を飲めば怪我は治るんだ」


 怒ったギーラを嘲るようにセプトはいうと、さっき穴の空いた胸の辺りを彼女へ見せつけるように上体を起こして見せた。


「それに」


 口の端から流れる僕の血を指先で拭ったセプスが地面を爪先で軽く叩く。


「魔法使いの言霊が乗った血は、一滴でもそこいらの魔女の血十人分くらいの力を得られる」


 人々の死体から噴き出た赤黒い血がセプスの右手に集まって来て鎌のような形になる。

 血で出来た大きな鎌を彼が振るうとギーラが派手にホールの壁に叩き付けられた。


「コル、見ていろ。これが夜の一族……吸血鬼ヴァンパイアの力だ。といっても全盛期の半分といったところだが」


 ガラガラと音がしてボロボロになったギーラが立ち上がる。このまま倒れておけば命までは奪われなかったかもしれないのに……そう思いながら僕は彼女へ哀れみの視線を向けた。


「クソ! クソ、クソ、クソ……伸びろ生えろ我が蔓、しなれ鞭のように!」


 ヤケクソのように放たれる魔法をスイスイと避けながらセプスはギーラのすぐ近くまで歩いて行く。


「せっかくだ。あんたの血もまた貰ってやろう。今度は命ごともらうけどな」


 そう言ってセプスは彼女の首に噛みついた。暴れていた彼女の四肢はすぐにだらりと力なく垂れ、しばらくして床の上へ身体が落とされる。

 こうして、僕はセプスとの契約を果たすことが出来た。


※※※※ 


「ああ、俺の左目……ようやく取り戻せた」


 宿の一室で、瓶の中に入っていた目玉を取り出したセプスはそういいながら眼帯を外して左目を自分の目に嵌めたようだった。


「そもそも何故左目を失っていたんだい?」


 眼帯を外したセプスの顔は今まで以上に整っていてなんだか気恥ずかしい。ずっと眼帯のままでもよかったのにななんて思いながらやけに真面目な顔をしてこちらを見ているセプスにずっと疑問に思っていたことを聞くことにした。


「……笑わないか?」


「君が大切な身体の一部を失った理由を笑うもんか」


 僕がそういうと、セプスは少し照れたように小鼻を人差し指で掻きながらぽつりぽつりと話を始めてくれた。


「好きな女がいてな、離れなきゃいけない理由があって、そいつと別れるときに愛の証として左目を捧げたんだ。そいつは俺の目を家宝にしてくれたまではいいが……俺は封印されちまってな……」


 そこまで話して、セプスは大きく溜め息を吐いて更に言葉を続ける。


「愛しい女の家が、数世代後に没落し、俺の目が人の手を次々と渡っているのなら自分の元に取り戻したくなった。それだけの理由さ」


「……」


 まさか、そんな俗な理由だと思わなくて僕は笑わないように自分の頬の内側を噛んで必死に笑いを耐えようとした。


「コル、ちょっと笑ってるだろ?」


「そ、そんなことないよ」


「ったく。まあいい。コルウス・アディンセルは今日死んだ。新しい名前が必要だな」


 拗ねたようにそう言ったセプスは、思い出したようにそんなことを言い出した。確かに、アディンセル家の長男としての僕は今日死んだ。


「セプス、君が付けてくれないか? 名字に変わる二つ名的なものを」


「そうだな」


 少し悩んだように目を閉じていたセプスは、真紅の双眸で僕をしっかりと見ながら僕の両肩に手を置いた。


響音ひびきねの魔法使い……とかか? まあ、そのうちもっといい二つ名が生まれるかもしれないがな」


響音ひびきねの魔法使いコルウス、いいね。ふふ……ありがとう」


 良い二つ名だなってそう思った。原初の言葉を使って魔法を操る僕にぴったりの名前。

 僕が名前を気に入ったことがわかると嬉しそうに牙を見せてセプスは笑う。 


「じゃあコル、明日からは新しい旅の始まりだから早く寝よう。俺の昔なじみの店へ連れて行ってやるからさ。同類魔法使いや夜の一族たちが集う賑やかな場所がある」


「わかったよ」


 そう言い合って僕たちはお互いベッドに潜り込んだ。

 明日からの響音ひびきねの魔法使いコルウスとしての日々がきっと良いものになるとわかるから……。

 祝福も呪いも我が身に返る、それは雛鳥がねぐらに帰るように……。

 きっと戻ってくる先日オークションでの大殺戮の報いが来るその日まで悔いの残らないようにすごそう。そう思うんだ。



 ―END―

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それは雛鳥の如く 小紫-こむらさきー @violetsnake206

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