第2話
それからというのも特に大きな変化はなかった。
子供達に授業という名のちょっとした洗脳こそすれど、村自体は大きく変わっていない。
まぁ仕方ない、俺は所詮凡人。
大きな牙城を崩すには小さく穴を掘って行くしかないのだ。
だがそんな小さなものでも、奴にとっては目障りらしい。
「ここが最近有名な寺子屋か」
「村長さん!!何故ここに」
現れたのは紛れもないこの村の長であった。
「なに、ここが出来て村が豊かになったと聞いてな。村長として顔を出しにきたんじゃ」
「そんな、私はただ知識を与えているだけ。それを活躍する子供達が立派なのです」
「ほっほっほ、謙遜するでない。だが悲しいかな、有名になると良からぬ話を聞くものじゃ」
神様を否定する子供が増えてきていると。
「……なんという罰当たりなことでしょう」
「全くその通りじゃ。酷い話と思わんかね」
「えぇ。正しく邪教、許されざる行いです」
「その通りじゃ。主からも子供達に神を信じるよう伝えるのじゃぞ」
「承知しました」
そう言って村長は去って行った。
あれは警告だ。
これ以上不審なことをすればただじゃおかないぞと。
「神を騙るだけはある。頭はキレるか」
面倒だ。
これだから実用的な武器を持った相手は嫌いなのだ。
「どうにかするしかないか」
最早このまま動き続けてもいつか潰される。
むしろ逃げるなら今だ。
今なら村を発展させた一役者として重宝される。
だが……だが俺の神がアイツ如きに屈しろと言うのか!?
「違う、アイツの作った神も国の神も誰も俺を救おうとしなかった」
大事なのは支え合いだ。
神は手助けをするだけ。
本当に人同士を助けられるのは人だけなのだ。
「なにか作戦を考えないと」
まだ神の名前を出すのは早計だ。
皆は小さな頃から国の教えた神を信じている。
子供のようにまだ根付いていない内ならまだしも、大人に言ったところで信じるどころか酷い反発を受けるだろう。
大事なことは神の置き換え。
その為に必要な手段は
「奇跡と信頼」
信頼は少しずつ溜まってきている。
だが肝心の奇跡には全く足りていない。
俺は凡人、知識があるだけの人間でしかないのだ。
「ダメだ。足りない、何もかもが」
やはりまだ動く時ではないのか。
だがこれ以上足踏みしていると
「先生?」
顔を上げた。
そこにいたのは困った様子のミアだった。
「どうかしましたか?」
「ごめんなさい、勝手に入って」
「いいんですよ。先生は皆んなが良い子だって信じてますから」
「うん。だけどね先生。先生以外の大人は皆んな悪い子なんだよ」
「どうして?」
「だって、みんな先生の約束を守ってない」
ミアは悲しそうにそう言った。
「ここはみんなが先生の約束を守って優しいのに、外ではみんなが悪い人ばっかり」
「仕方ありません。私は所詮凡人、皆に約束を守らせることは出来ないのです」
「え?」
ゾクリと背筋が凍った。
「先生が普通なわけないよね?」
「ミア?」
「先生は凄いの!!先生が言うことはいつもみんなを幸せにする。なのにどうして先生はそれを否定するの?」
「えっと、それは……」
なんだ、ミアから凄まじい恐怖を感じる。
おかしい、少し前までガキ大将に虐められるだけのか弱い女の子だったはず。
「あ、そっか。えへへ、先生も意地悪だなぁ」
「え?」
「謙遜って言うんだっけ?村長さんが話してる時に使ってた言葉」
「よ、よく意味が分かりましたね。偉いですよー」
俺がミアの頭を撫でればいつものように嬉しがる。
気のせいだったか?
そうだ、相手は子供だ。
きっとその無邪気さを感じ取っただけだろう。
「よーし、先生。ミアが先生の凄さをみんなに教えてくる!!」
「頑張って下さいね」
俺は深く考えることなくミアを送り出した。
「そういえば何故、あの子は俺と村長との会話を知ってるんだ?」
俺の始めた物語は最早想定の大きく外へと動き出していた。
◇◆◇◆
俺は日記を書いていた。
日常のことも勿論書くのだが、どちらかと言えば妄想日記だった。
こんなだったらいいなという、将来読み返せば痛々しくて悶絶するようなものだった。
「そうだな。奇跡……そう、やっぱり人を癒せる力とかいいよな」
もしこんな奇跡が使えたら。
そんなことを考えては日記になぞる。
「本当にこの力があれば父さんを救えたのに」
父さんの病気は決して治らないものではなかった。
だがうちは書物を扱う関係上他より裕福であったが、大きな病気を治す程ではなかった。
その原因の一つが村長の悪行であった。
もう誰にも俺のような思いをして欲しくない。
そう思い始めたことだが、そろそろ限界が来そうだ。
それでも
「最後まで抗ってみるか」
行き着く先はおそらく極刑。
小さいながらも王は王だ。
逆らえばそれ相応の罰が待っている。
「せめて、俺の意思を引き継いでくれる人がいたらな」
そう考えた俺は自身の神様についての約束を定めた。
一つ
神は一つの存在である。
二つ
神の名前を無闇に騙らないこと
三つ
親を大切にせよ
四つ
暴力を行ってはいけない
五つ
欲に身を任せてはいけない
六つ
仲間を大切にすること
七つ
怠けてはいけない
八つ
常に善行を重ねること
九つ
人に愛を持って接しよ
「その十。邪教を決して許してはならない」
そして俺は日記を閉じた。
この教えが誰かに届くことはおそらくないだろう。
あったとすれば死んだ俺の家から狂信者である証拠が見つかった、というオチだ。
「あークソが」
俺は苛立ちを抑えながら布団に潜り込む。
早速欲を抑えれていないじゃないか。
「今日はもう寝よう」
そして俺は眠りについた。
次の日
「なるほど、分かりました」
俺は一応仕事をしている。
書物を扱うのだ。
本は一冊一冊の価値が高い。
売れる数こそ少ないが、生活することが出来ている。
そんな中、とある人物が尋ねて来た。
「こちらの本はございますか」
それは有名な伝記だった。
「勿論です」
「実は王都でこれらの本が邪教により焚書され、数が少なくなったのです」
そんなわけで暫く俺は村を出ることとなった。
本を持ち逃げされたら溜まったものじゃない。
その言葉に向こうも納得し、旅費含めて出すと約束し村を出た。
取引自体は簡単に終わった。
本当に困っていたのだろう、想像以上の金銭を貰った。
本来なら嬉しいはずだが、俺としては最早奴らの信仰する神が腐っているとしか思えない。
俺は直ぐに帰路についた。
最後にこのお金を使って悪足掻きしてみるか。
そうして村へと帰った時、事件は起きた。
「先生が帰ってきた!!」
「これは……何の騒ぎですか」
そこでは村人同士が睨み合っていた。
しかもその手には武器まで持っている。
穏やかじゃない。
その上、何故か皆が俺に注目していた。
「やってくれたな、クソガキ」
村長が怒りを表した様子でこちらを睨む。
「黙れ邪教!!神を騙る邪教が!!」
一番前で声を上げていたのはミアだった。
しかもその手には
「俺の日記!!」
何故?
そんな疑問が浮かぶが、それよりもまずい。
あの中には色々と村に対してのあれこれを書いたのだ。
「まさか俺達を騙してたなんて」
「そんな汚い本を信じるなんて頭がおかしいんじゃないか!!」
村人達が互いに怒号を叫ぶ。
状況がさっぱりだが、一つだけ分かる。
これは可能性だ。
そうか
「最後まで諦めなかったから」
神様が助けてくれたんだ。
与えられたチャンス。
これをものにしなければ神への冒涜だ。
俺は笑顔で皆に語りかける。
「素晴らしい」
軽い気持ちで宗教始めたらいつの間にかカルトの教主になってたんだが? @NEET0Tk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。軽い気持ちで宗教始めたらいつの間にかカルトの教主になってたんだが?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます