授業風景

「ではまずは簡単な計算問題から初めましょうか」


 俺がそう言うと子供達は「はーい」と手を挙げた。


 関心関心、実に良い事である。


「ここに美味しそうな果物があります。さて、これをみんなで同じように分けた時、1人何個持てばいいでしょう」


 子供達は全員で4人。


 そして果物は12個。


 つまり答えは3つだ。


 さあ導き出せるかな。


「えっとね、えっとね」


 1人の少女が頭を抱えていた。


 彼女の名前はミア。


 両親が生まれて直ぐに他界した為孤児院で暮らしているらしい。


 だがこんな小さな村の孤児はまともな教育など受けていない。


 おそらく足し算すら習っていないだろう。


 それでも一生懸命考えている姿には、確かな生きる力を感じた。


「きっと2個だよ」

「試してみる?」

「そうしよう」


 皆は話し合いながら、実際に果物を持って確かめ始めた。


 考える力を育てる。


 これもまた教育の一つだろう。


「3だ!!ほら、今みんな3つずつ持ってる!!」


 今年で10歳となったマルクの提案により、答えを導き出すことに成功した。


 俺は拍手を送ろうとすると、何故か皆の果物が4っつになっていた。


「ミアは大丈夫だから」


 そう言って果物を皆に渡す。


「ミアちゃん、これはそういう問題じゃないよ」


 皆がミアを攻め始める。


 これはよくない流れだと感じ、間に入った。


「ミア、どうしてみんなに果物を渡したんですか?」

「だって、そうしろってクリスが」

「クリスとは?」

「体のデカい奴。いつも人を殴ってるんだ」


 あー、あのガキ大将か。


 そういえば取り巻きの中にミアがいた気がする。


「もしかして、いつも食べ物を?」


 ミアは小さく頷いた。


「そうですか」


 力が弱い物から搾取する。


 俺の最も嫌悪する存在の一つだ。


 だが相手は子供、まだ白と黒の判別が難しい年頃だ。


「大丈夫ですよミア。ここでは食べ物を奪う人はいませんから」

「本当?」

「はい。それでは皆さん約束です。仲間を大切にすることを心がけましょう」


 俺は皆に果物を食べるよう促す。


 ミアはまだ戸惑っている様子だが、俺が何も言わないと自然と食べ始めた。


「時にお互いで意見の食い違いも起きるでしょう。喧嘩をすることもあります。ですが、私達は仲間。それで奪い合っては誰も幸せにまれません」


 だから助け合う。


「あ」

「ミア、どうかしました?」

「先生……これ」


 そう言ってミアは果物を一つ手渡す。


「こういうこと?」


 俺は心からミアを褒めた。


 それを見た皆も真似をし俺に果物を分けてくれた。


「美味しいですね」

「うん!!」


 多分、これが最も平和な道だったのかもしれない。

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