軽い気持ちで宗教始めたらいつの間にかカルトの教主になってたんだが?

@NEET0Tk

第1話

「主教様、聖女一同ただいま現着致しました」


 そこには5人の少女が片膝を立て並んでいた。


 普段は真っ白な修道服に身を包み肌の一つも見せない彼女らの生足が僅かにこちらを覗かせている。


 それを見た俺はつい言葉を漏らす。


「素晴らしい」


 パァっと花が咲いたように笑顔になる少女達。


 なんて可愛らしいのだろう。


 そう、本当に可愛らしければよかったのに。


 聖女の1人が笑顔でこう尋ねる。


「それでは主教様、本日はどれ程の邪教徒を殲滅致しましょうか」

「あはは、殲滅なんてしませんよ」

「失礼致しました!!それで主教様、本日はどれ程の道に迷える子羊を救済するのでしょうか!!」


 キラキラとした目で何人殺すかを尋ねてくる少女を果たして聖女と呼んでいいのだろうか。


「はぁ……もう嫌だ」


 何故こうなったのか、それを語るにはおよそ数年前に遡る。


 俺はしがない村人の一人だった。


「おぉ神よ、どうか今年も雨のお恵みを」


 そう言って儀式を始める村長と、その周りで祈る数多くの村人。


 当然その中には俺も含まれているわけだ。


 俺は幸か不幸か妙に頭が良かった。


 いや、むしろ村一番のバカだったかもしれない。


「本当に神様はいるのか?」


 そんな疑問を持ってしまったのだ。


 その理由は様々だった。


 毎年同じ儀式をしても安定しない雨。


 俺の父親が病気も時に助けてくれなった。


 皆に問うても様々な矛盾をした神様を口にする。


 そして何より、神の名を使い村人から税を搾取する村長の存在を俺だけが知っていたのだ。


「どうにかできないだろうか」


 小さな村の王に逆らう方法。


 それを考えた時、俺はとある伝記を思い出した。


 現在俺達の国は俗に言う宗教国家と呼ばれている。


 それは遥か昔、この国を治めていた王を神の使者が打ち倒したことにより始まったそうだ。


 そんな時道の途中で子供達を見た。


「僕の言ってることは絶対だ」


 それは俗に言うガキ大将だった。


 彼の考えは絶対であり、否定すれば力が押し寄せてくる。


 それはまるで小さな王であった。


 そして俺が小さな頃にいたガキ大将に対して使った言葉はそう


「先生」


 それは王を屠る神の名前であった。


「そうだ、俺も宗教を作ればいいんだ」


 要因としてはあまりに幼稚な発想、だが既に俺の中に新たな神様が生まれた瞬間でもあった。


「そうだ、俺の神は万能じゃない。全知全能ではないけど、頑張り続ける者、優しい人に手を貸してくれる存在なんだ」


 頭の中でアイデアが溢れる。


 神が人間じゃ及ばない存在ならば、神を持って神を殺そう。


 手始めに俺は自分の手札を確認することにした。


 それは知識だった。


 両親が書物を扱う関係上、そう言った知識に触れることが多かった。


 知識は武器だが、力持ちになるわけじゃない。


 武器は強きものが大多数持つことで初めて真価を発揮するのだ。


 なら


「兵隊を集めよう」


 俺は小さな学び舎を作った。


 なんてことない、屋根すらない外で石の椅子と物書きが出来る大きな紙を張り出しただけのスペースだ。


 最初は貧しい家庭の子供達だけだった。


 本を読むこともできない、宝石の原石のような子供達だ。


「さて皆さん、授業を始める前に一つだけ約束して下さい。先生の決めた約束を守ること。いいですね?」


 その反応はまちまちだったが、とりあえず皆は分かったと返事をした。


 よしよし、初めはそれでいい。


 俺は子供達に様々なことを教えた。


 言葉、計算、歴史など。


 そして時々、少し変わったことも教えて行く。


「と、人々は考えていますが実際は違います」

「えぇ!!でもでも、村長さんは神様がそうしてくれたって言ってたよ」

「ミア、先生がこの前言った言葉は覚えているかな?」

「うーんと、人の言葉を信じちゃいけないだよね」

「その通り。ミアは先生と村長、どっちを信じる?」

「えっと……えっと……村長さんはなんだか怖いけど、先生は優しいから先生を信じる!!」


 素晴らしい。


 やはり無知は付け込みやすい。


 何故2つの問題を出されるとその中に答えがあると思い込んでいる。


「さて授業を続きましょう」


 それから俺は村での評判が上がった。


 子供達の成長を見た大人が広めていったのだろう。


 それにあの教育も親には効いたのだろう。


「大きな約束の1つ。親は大切にしましょう」


 この教えを守った子供達はよく手伝いをするようになったらしい。


 それからは村で少しずつお金を集め俺の為の学舎ができた。


 生徒の数も増えることで様々な問題が起きることもあった。


「おい、それ寄越せよ」


 途中から入ってきたガキ大将はそう要求した。


 体が大きい、きっと逆らえばあの拳が飛んでくるだろう。


「でも先生との約束、暴力を振るっちゃダメって。暴力は言葉を持たない邪教がすることだって」

「そんなの知るかよ!!」


 そう言葉にした瞬間、皆の目つきが変わった。


「な、なんだよお前ら」

「先生は凄い!!先生の教えを破る人は本当にいたんだ」

「コイツ邪教だ!!」

「先生の一番の約束は、邪教を絶対に許しちゃダメだって」


 皆が一斉にガキ大将へ躙り寄る。


「邪教には制裁が必要が大事」

「そうだ、これは制裁だ。暴力じゃない」


 そう言ってガキ大将に対して子供達は攻撃をし始めた。


 その様子に俺はクスリと笑う。


 中々よく染み付いたみたいだ。


 俺の教えを守っていると両親から痛く褒められる。


 そんな共通認識が膨れていき、俺との約束を守れば上手くいくと信じ始めている証拠だ。


 だがこのままじゃダメだ。


 困った人に手を差し伸べるのが神様というもの。


「みんなそこまで」


 俺が割って入ると皆が動きを止めた。


 褒めて褒めてと目をキラキラさせている。


「凄いじゃないかミア。前まで彼に虐められていたらいいが」

「もう大丈夫です先生。邪教の言葉が間違ってるって先生のお陰で分かったんです。それに、ミアにはお友達がいるから」

「それはよかった」


 俺は怯えたガキ大将へと詰め寄る。


「大丈夫だった?」

「ヒッ!!」

「大丈夫。君も分かっただろう、暴力をされる人の気持ちが」


 ガキ大将は何度も首を振る。


「そう、人は1人じゃ脆い生き物なんだ。だから仲間を大切にしなくちゃいけない」

「ご、ごめんなさい」

「謝れて偉いね。ならもう一度謝ろうか、約束を破ってごめんなさいって」

「や、約束を破ってごめんなさい。もう2度と約束を破りません」

「よろしい。大丈夫、君は何も知らなかっただけだから」


 俺は優しい笑顔を向ける。


「これから一緒に学んでいこう。先生が君に世界を教えてあげるから」


 俺という小さな箱庭の世界をね。

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