第49話
「ついにこの時が来たか……」
バルバストル屋敷の執務室。私の机には二通の手紙が置いてあった。
学園への入学案内だ。
ついにゲームの開始の時がやって来たのだ。
「やれるだけのことはやった……よな?」
これから五年後、魔族たちとの戦争が始まるかもしれない。そのための備えをしてきたつもりだ。
もう私からアイディアは出し尽くしたと言っていい。あとは特区の者たちがこの地に合ったものを仕上げてくるだろう。そう信じる他ない。
問題は、私とヴィオの学園生活だ。
魔族はもうこの国の中枢にまで浸透している。そして、主人公の持つ【勇者】のギフトを警戒して、あの手この手で主人公を亡き者にしようとするのだ。
そのとばっちりを喰うのは御免だ。
だが、先回りして魔族の計画を潰そうとすれば、主人公の活躍がなくなってしまう。
これが原因で主人公が魔王を倒さない未来が来たらどうしようもない。
多少の犠牲は覚悟してゲーム通りに主人公に活躍させるべきなのだろうが……。私はゲーム通りに主人公の友人ポジションになるべきなのだろうか?
正直なところ、私はまだ見ぬ主人公に対して嫌悪感がある。
ゲーム通り進めば私とヴィオを殺す存在でもあるし、その数多の女性と関係を持つ生き方は好ましくないと感じてしまう。
だが、魔族に勝つためには、魔王を倒せる者、【勇者】の存在が必要だ。
その【勇者】である主人公の学園生活を助け、学園で起こるさまざま事件に対して主人公を活躍させる存在。友人ポジションの存在は重要になってくる。
心情的には手を貸したくないし、友人などにはなりたくないが、やはりゲーム通り主人公を助けた方が無難だろう。
それに、主人公とこの国の王女であるセラフィーヌは在学中から接近する。
セラフィーヌの持つアーティファクトを狙う上でも主人公に近づいておいた方がいい。
あまり気は進まないが、やるしかないな。
すべてはヴィオが生き返るためだ。
◇
王都への旅立ちは、領内の政策や特区で完成した物の確認などをしているうちにやって来てしまった。
学園の入学式の一週間前。私とヴィオは、王都に向かうためにカルラの屋敷まで来ていた。
「お忘れ物はございませんか?」
「大丈夫だ。私は爺を信頼している」
「ありがとうございます」
私の言葉に爺が嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
『準備はできたか?』
黒い巨大な宝石のようなドラゴンが問いかけてくる。カルラだ。
「ああ。行こう、ヴィオ」
「ええ!」
私はヴィオの手を取ると、一緒にカルラの背中に乗るためのスロープを登っていく。
近くで見ると、本当にカルラは美しい。その竜鱗一つ一つがまるで宝石のようだった。
『では、行くぞ』
「頼んだ」
「ええ!」
私たちが背中に座ると、さっそくカルラが翼を打ち付ける。
その瞬間、まるで重力の楔から解き放たれたように、ふわりとカルラの巨体が宙へと舞った。
それからも、カルラが翼を鳴らす度にどんどん高度が上がっていく。ちょっと怖い。
だが、私のそんな気も知らないで、カルラはゆっくりと前へと飛び始めた。
次第にその速度は速くなり、地上の景色がまるで水に流されているかのように変化していく。
相変わらず、凄まじい速度だ。
「ふんふーん♪」
私としては恐怖でカチコチになりそうだが、ヴィオは逆にリラックスしたように鼻歌まで歌っていた。その度胸が羨ましいよ。
私としてもヴィオに怖がっているのをバレるわけにはいかない。それは男の沽券にかかわる。
私は地上から目を離し、どこまでも青い空を見上げていた。
「ねえ、クロ。学園ってどんな所なのかしら?」
「え? えーと……。私もあまり詳しいわけではないけど、私たちと同じように、貴族の子女が集められた所だよ。他にも平民でも有用なギフトを賜った者も特待生として学園にいるはずだ」
「まあ? 平民の方もいるのね」
「そうだね。まぁ、学園を卒業したら、生徒には一代限りの貴族として遇されるから、その平民も将来的には貴族になるよ」
ゲームの主人公も平民の出身だったが、学園でのさまざまな事件で目覚ましい活躍をして、徐々に頭角を現していくはずだ。
主人公は平民の出だから礼儀や常識が貴族のそれとは違う。それを補うのが私の役目になるだろう。
「はぁ……」
気は重たいが、これもヴィオのためだ。
主人公が話の通じる常識人であるのを祈るばかりだな……。
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