第5話
「藤田。先輩がきてるぞ」
昼休憩、清本に言われて廊下を見るとそこには吉澤が一人で立っていた。サッカー部のマネージャーをしている藤田にキャプテンがわざわざ訪ねてきたことで何事かと思い急いで廊下の方に向かう。だが用件は部活とは全然関係ないことだった。
「これ。いきものがかりのライブDVD。棚田が観たいって言ってたから持ってきた。渡してほしいんだけど」
「え。なんですかそれ。さくらならそこにいるんだから自分で直接渡せばいいじゃないですか」
「だめだ。みんなが見てる。学年の違う教室で俺は目立ちすぎる」
「いやいやもう十分目立ってますから。なんですか。二人付き合ってるんですか」
会話の内容までは聞かれてないようだが周りの生徒から視線が集まっていてみんなが自分たちの会話に興味津々になっていることに藤田は気づいていた。
「まだ付き合ってない。でも周りから色々詮索されるのが嫌なんだ。ごめん藤田。あとはまかせた」
そういうと吉澤はDVDがはいった紙袋を押し付けると足早に自分の教室に帰っていった。みんなが陰で何か話しているのを感じながら自分の席に戻る。直接訪ねてきたのは清本だけだった。
「あのさ、藤田って吉澤さんと付き合ってんのか」
「ただ届け物を受け取っただけで別に付き合ってなんかない。ちょっと話しただけで付き合ってるとかいうの正直うざいよ」
「ごめんごめん。みんな吉澤さんの好きな人が誰なのか気になってるんだよ。でも良かったよな。悟がいないときで」
「悟君は関係ないでしょ。急になに?」
「何慌ててんだよ。だってあいつ藤田に彼氏ができたらまた暴れだすかもしれないだろ」
「違う。白木君の時のは」
事情を説明しようとしてやめた。あの時の喧嘩の理由を悟君が誰にも話さなかったのを思い出したからだ。
「悟君は別に私が吉澤さんと話しててもなんとも思わないよ。だって」
「棚田さんが好きだから?」
「え。なんで清本君が知ってるの?」
「体育祭のリレーの時に言われたんだよ。俺は棚田さんのことが好きだって。しかも俺に負けないとか意味わかんないこと言ってたんだよな。俺別に棚田さんのこと好きじゃないし、リレーも同じチームなのに変な奴だよな」
それは私のせいだと藤田は思った。てっきり清本の好きな人はさくらだと勘違いしていた。ではあのさくらを見る清本の視線はなんなのか疑問が残る。
「じゃあさ、清本君は他に好きな人がいたりするわけ?」
「いるよ。いるけど教えないよ。藤田には」
「なんで?教えてよ」
その後もしつこく清本に好きなの人が誰なのか尋ねたがはぐらかされて結局分からないままだった。悟君が戻ってきたら謝らないと。藤田はそう思うと人目につかないように紙袋をそっと鞄にしまった。
その日の放課後、藤田は棚田と学校の近くのカフェに来ていた。紙袋を渡すついでに吉澤と付き合っているのかを棚田に尋ねてみた。
「吉澤さんとは付き合ったりしてないよ」
あまりにあっさりと否定されたので藤田は拍子抜けした。棚田にはみんなの憧れの先輩も眼中にないようだ。その天性の明るい性格で学年問わず学校中の男子を魅了する彼女は果たして誰を好きでいるのかますます興味が湧いてくる。
「さくらって好きな人とかいないの?さくらなら選び放題な気がするんだけど。今までそういう話したことなかったじゃん」
「選び放題なんてそんなことないよ。実は私1年の時から片思いしている人がいて。でもその人は多分私のこと好きじゃないと思うんだ」
ショコラート・パラドックス @laviiia0603
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