30 シャルル ①

 最後の花火が上がった。この花火は祭りを締めくくるに相応しかった。中央が白く、外側に行くにつれて黄、橙、赤、紅と変化している。まさに火球だった。火球は十秒以上、空の上であらん限りの輝きを放つと、後には何も残さなかった。


 ギルとユーグが歓声を上げ、他のみんなも拍手を送っている。だけど、僕はその気にはならなかった。長かった火祭りの終わりを告げたこの花火が、これからの僕らを暗示しているように思えてならなかったからだ。遥か昔、この地に落ちてきた火球は植物を焼き尽くしたと言われている。


 僕は胸に手を当て、深く息を吐いた。そして、肩に乗っているフーダーを下すと、無理矢理部屋の中へ押し込んだ。フーダーはそのことが気に入らなかったのか、僕に向かって小さく火を噴くと、部屋の奥の暗がりへ消えていった。


「ごめんね、フーダー」

 僕はそう呟き、みんなのいる柵の方へ戻る。


「話したいことがある」

 みんなが一斉に僕を見る。

 一段と緊張が増す。その視線が怖かった。何て言い出すか決めていたはずなのに、言葉がまとまらない。


「どうしたんだ?」

 ギルはいたっていつも通りだった。

 他のみんなは僕の態度から何かを察したようだった。みんなが何を察したにせよ、これから僕が話すことは予想できないだろう。

 僕は柵を背にして立ち、みんなは僕を囲うようにして立った。部屋への扉に近い方から、アレッサ、ユーグ、ミラ、ギル、リックと並んでいる。


「なんだよシャル。もったいぶらないで話せよ」

 ギルは僕の顔を覗き込んできた。

 血の気が引いているのは自分でも分かっていた。きっと顔が真っ青だと思う。それでも夜空の下だったのが幸いだった。それに、ギルだけがいつも通りのギルでいてくれるだけで、この喉元に絡みつくような緊張が少し和らぐ。おかげで、声が出せる僅かな隙間ができた。


「僕は。僕は、スパイが誰かつきとめた」

 どよめきが走った。


「裏切り者をつきとめたのか⁉」

 ギルが真っ先に飛びついた。僕はぎこちなくうなずく。


「まじかよ」

 ユーグが呟く声が聞こえた。横のアレッサは口を真一文字に結んでいる。


「それで、誰なんだ? いったいどこのどいつが俺たちを裏切ったんだ? 俺たちの知ってるやつか?」

 ギルが僕の肩を掴んで、矢継ぎ早に質問をする。さっきまでフーダーが乗っていた方の肩が痛い。


「落ち着いてギル」

 僕はギルを一先ず落ち着かせることにした。

 このまま言ったらどうなるか分からない。


 ミラが後ろからギルを引っ張って僕から引きはがしてくれた。

 リックはその様子を、腕組みをしてじっと眺めていた。


「落ち着いて聞いてほしい。僕が、誰の名前を言おうとだ。分かったかい、ギル」

「そんな言い方するってことは、俺たちがよく知る奴ってことだよな。誰なんだ。一体誰が──」

「分かったかい、ギル」

 ギルは一瞬口を開けたまま制止すると、渋々うなずいた。

 僕もそれを見て小さくうなずく。


「僕が見つけたスパイは二人だ」

「それは間違いないのか?」

 僕はユーグの問いにただうなずいてみせた。


「そうか」

 ユーグは覚悟を決めたようだった。それでも、僕がその名を口にしたら、今の覚悟も意味をなさないだろう。


 ここまで来て迷った。言うべきか、言わざるべきか。どちらがみんなのためになるのか。この一か月、さんざん考えたはずだ。

 そして、言うと決めた。


「シャル。それで裏切り者は誰なんだ」

 僕は再び大きく息を吐いて、そして吸った。微かに風に乗ってきた煙の臭いが混じっている。


 僕は両腕をそれぞれ別の方向に向けた。一つは左に、もう一つは右に。そして、震える手で指さした。みんなの表情が見えた。


 ギルは首をちぎれるほど左右に振り、ミラはリックの方を見た後、困惑した表情を僕に向ける。ユーグは何が起こっているのか理解できないまま、アレッサを凝視し、アレッサは微動だにせず地面を見つめ、リックは片手をポケットに入れ、もう片方の手で口元を覆い隠した。


「スパイは、リックと、アレッサだ」


 

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