28 ユーグ

 祭壇が広場を出て行く。その先には急な坂があり、頂上には大神殿の白い平らな屋根が、幽霊が手を伸ばすようにぼやっと浮かんでいる。

 祭壇の火は最初に見たときよりもかなり小さくなり、その大きさは半分以下になっていると思う。

 その小さくなった後ろ姿を見ると、寂しさがこみあげてきた。


 もう祭りも終わりなんだな。あと何回こうやって集まることができるんだろう。

 俺は一歩下がった。前には五つの後ろ姿がある。その姿は祭壇の火とは違って大きくなったように見えた。だけど、感じたことは祭壇の小さい火と全く同じだった。


 寂しい。


 ギルはここに残って兵士を続けるだろう。あいつは死ぬまで止まらない。


 リックも残るだろう。責任感も正義感も強いやつだ。


 シャルは言うまでもない。これからは貴族として生きていくことになる。


 ミラはどうだろう。図書館が使いたくて兵士になったのだから、もしかしたらここで実家の宿屋に戻るのかもしれない。


 アレッサは俺と一緒だ。


「最後か……」

 俺は気づくとそう呟いていた。この祭りをこの六人で見れるのも、今年が最初で最後だった。

 それならもう少し計画を立てて、何かをするんだったかな。


「ねえ、みんな」

 シャルが俺たちの前に立っていた。


「なんだ? シャル。あれを追いかけるのか?」

 ギルが祭壇を指さした。

 こいつまだこりてないな。どれだけ元気だ。


「そんなわけないでしょうよ。あんたどんだけ元気なわけ」

「行くなら一人で行って来いよ。俺たちはここにいるから」

 俺はアレッサに続いて言った。


「いや、戻って来るころにはいないかもな」

「花火が終わっちゃうよ」

 リックが言い、ミラが言った。


「いいさ、俺一人で行くよ」

 ギルは大股で歩き始めたけど、シャルがギルの腕を掴んだ。


「行くのはまだ早いよ」

「なんでだよ」

「行ったらきっと後悔するよ」

 シャルはギルにいたずらっぽく笑いかけた。

 俺はそれを見て、シャルは何か計画してきたんだなと分かった。

 流石はシャルだ。

「お。何か面白いことでもするのか?」


 ギルはすぐに機嫌を取り直したようだ。

 単純バカだな。だけど、シャルが何をしようとしているのかは俺も楽しみなところだった。


「ミラがさっき言ってくれたけど、この後は祭りを締めくくる花火だ。花火は町の至る所で上げられる。だけど広場だと建物の影になって全部は見られない」

 シャルはまるでこれからいたずらをしようとしている悪ガキの参謀のようだった。口元には笑みがこぼれ、誰かに聞かれないように俺たちの方に顔を近づけ、心なしかささやくような小声だ。


「屋根に戻る?」

 ミラがさっきまでいた場所を指さしながら言ったが、シャルは首を振った。


「いいや。あそこも悪くないけど、全部は見渡せない」

「じゃあどこで見るの?」

 アレッサが聞いた。


「見渡せるんだから、城か神殿かだろうな」

 リックがその二つの丘を見比べ、言った。だけどどちらも無理なはずだ。


「神殿は近くにも入れないだろ。それに、城もうろついてると怒られる」

「じゃあ、こっそり入るか」

 ギルは目を輝かせながら言った。


「嫌よ、私は。落ち着いて見られないもの」

 アレッサはため息交じりに言った。


「スリルを味わえる」

「そんなの味わわなくていいわよ」

「わたしも花火はゆっくり見たいな」

「俺もそれがいい」

 ミラとリックはアレッサに賛同し、ギルはのけぞって腕を組み、お前ら分かってないなという表情をした。


「当然だけどそんなことはしないし、落ち着いて見れるよ。なんならこの町で一番落ち着けると言っても過言ではないかもね」

 俺は段々じれったくなってきて、聞いてしまった。


「で、それはどこなんだ?」

 シャルは人差し指を立て、ほんの少しだけもったいぶると城の方を指さした。


「僕の部屋だよ」

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